第6話 初めてのお風呂
ふろ【風呂】
① 湯につかったり蒸気に蒸されたりして、体を温め、また洗って清潔にしたりするための場所。また、その浴槽や設備。
② 銭湯。風呂屋。
「トキ、なんだこの建物?」
ショッピングモールからの帰り道。
ツチノコが道沿いの和風な建物を指さして尋ねた。
「ここですか?『お風呂屋さん』ですよ」
「たしかもっと難しい名前があったけど、なんて言うんでしたっけ・・・短刀みたいな・・・『銭湯』!そう多分銭湯です!」
「お風呂?」
「うーん・・・なんと言ったらいいかな・・・あの、アレです、身体をキレイにして疲れを取るモノ?ですかね」
「なんだそりゃ?」
「そういえばツチノコは家に来てからまだ行ってないですね?」
「せっかくですし入っていきましょうか。久々に湯船に浸かりたいですし」
「ゆぶね?」
「中に入ればわかりますよ!」
「あら?トキちゃん久しぶりだね?」
「その子は?」
中に入ると、若い女のヒトが出迎えてくれた。
「はい!ちょっといろいろありまして~・・・彼女はツチノコです。訳あって一緒に暮らしてます」
「へーぇ?まぁ、ゆっくりしてきなよ。半端な時間だから誰もいないし」
「はーい!じゃあ失礼します!」
『女湯』と書かれたのれんを潜ろうとするトキ。
「あっ!タンマ!」
「なんですか?」
「ツチノコちゃんのお代貰ってないぞ?」
「あぁ~。年パスあるのでお金払うって事忘れてました」
アパートには、シャワーしかない。故に、トキは年間パスポートを購入し、二日に一回はここに通っている。ずっとそうしてきたので、お金が必要だと言うことを忘れていた。ちなみに、トキは頻繁に利用するので顔パスで通してもらえる。
「すいません、年パスっていくらですか?ツチノコの分買ってあげたいんですが」
「えっとね、4800円。トキちゃん仕事してないんでしょ?払える?」
内ポケットには千円札が三枚。ラーメンとアクセサリーで二千円使ってしまった。
「あちゃー・・・足りないですね・・・」
「ん~トキちゃんだったら、常連さんの信用があるし、私が立て替えてあげようか?」
「え?申し訳ないですよ~」
「でも、五千円も持ってないなら、毎回払ってるとすぐ無くなっちゃうよ?いいよいいよ、ちゃんと返してくれれば」
「・・・じゃあすみません、お願いします。とりあえず三千円でいいですか?」
深々と頭を下げるトキ。それに倣ってツチノコも頭を下げる。
「いいよー。じゃあツチノコちゃん写真撮らせてね。君たちが入ってる間に作っとくから」
カウンターの下からカメラを取り出し、返事を聞かずにパシャりと一枚。
「ふぇっ!?」
「ごめんごめんびっくりした?」
「とりあえずごゆっくり~。ツチノコちゃんもねー」
「はい!ありがとうございます!」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
「はいよ!」
今度こそ、二人でのれんを潜る。
「あ!ツチノコちゃん・・・って行っちゃった。まぁ大丈夫でしょ」
そう言って、彼女は年間パスポートを作り始めた。
のれんの先は脱衣所兼休憩所。先程聞いた通り二人以外は誰もいない。扇風機の音だけが部屋の中に反響する。
「ここで服を脱いで、例のお風呂に入ります」
「え゛、ふ・・・服脱ぐのか?」
ツチノコの脳裏に「トキにはいつみせるのですか?」というコノハ教授の言葉。流石に意識してしまっては脱ぎづらい。
「そうですよ?じゃないと服濡れちゃいますし」
「大丈夫ですよ!恥ずかしい事はないです!ささ、脱ぎ・・・」
トキの脳裏に「美味しそうな体だったですよ?」というコノハ教授の(ry
どこまでも図書館の二人の言葉は二人をギクシャクさせる。
「・・・脱いだら、前をコレで隠すんですよ」
ぎこちない表情で、白いタオルを手渡す。
しかしこれでは根本的な解決にはならない。どうせ身体を洗う時にタオルは取ってしまわなくてはならない。
「お、おう。ありがとう」
「は、早く入っちゃいましょうか・・・」
180度回転し、後ろを向いてトキが服を脱ぎはじめる。
「あ、服はこの籠に入れてくださいね?」
後ろを向いたままトキが喋る。
「わ、わかった」
お互いを見ないようにしてツチノコも返す。
「・・・」ヌギヌギ
「・・・」ヌギヌギ
沈黙の中で二人は服を脱ぎ、ついに全裸になる。
「・・・あの・・・ツチノコ、脱げましたか?///」
「・・・大丈夫だ、トキ・・・は?///」
「だだだ大丈夫ですっ!///// い、行きましょう!」
「わっ、ちょ・・・」
半ば強引にトキに手を引かれ、浴場に入る。
浴場は大きなL字型の浴槽が一つだけあり、反対側の壁に鏡、シャワー、蛇口と椅子&桶が一セットになり合計五セットあるだけというシンプルな作りだった。それと、奥の方に扉がひとつ。
「えーまず、ここで身体を洗います」
「いつもだったら身体洗う用のゴシゴシするタオルがあるんですが、今日は来るつもりじゃなかったので置いてきちゃいました。というわけで素手で洗っていきます」
タオルで前を隠しながらトキが説明する。
「なるほど、やってみる」
同じくタオルで前を隠しながらツチノコが相槌をうつ。
「洗うときはこのボディソープを使ってくださいね?」
「了解」
「あと分からないことは聞いてください♪」
「どうです?ちゃんと洗えてますか?」
「せ・・・なか・・・にっ!手が・・・届か・・・」
「ああハイハイわかりました。洗ってあげるんで後ろ回りますよ」
「頼む」
「任せてください!」
と、言ったがやはり背中といえど裸である。凝視するのは気が引けるが仕方がない。とわかっているものの、何故だかドキドキする。全部あの聡明な二人のせいだと自分に言い聞かせ、ツチノコの背中に手を這わせる。ボディソープがなかなか泡立たず、液体の感触がのこったまま背中を洗う。3分ほどして洗い終わり、桶にためたお湯で背中を流す。
「こんな感じですかね、ついでですし頭も洗いましょうか?」
「じゃあよくわからないしお願いするぞ」
「オーダー承りました!」
手にシャンプーを付けてシャカシャカと髪を洗っていく。強靭な癖毛も水を付ければすぐ平たくなり、完全に髪を下ろした状態のツチノコが出来上がる。大体、首の下あたりまで髪が伸びている。
「改めて見るとツチノコ結構髪長いですね?フードの中邪魔じゃないんですか?」
「不思議とフード被ってもまるで無いみたいに気にならないんだ」
「むしろこうやってフードが無い方が気になるくらいだ」
「確かに不思議ですね?あ、頭流しますよ」
ざばー、と頭から桶でお湯をかける。
「ん」
こうして泡を落とすとキレイな髪である。フードを外せばいいのに。
「トキのも洗うか?」
「へっ!?//出来るんですか?」
「やってもらって何となくわかったからな。鏡で手の動きも見てたし」
「じゃあお願いしよっかな~///」
「任せろ」
今度はツチノコがトキの後ろに回る。
「使ってたのはこれだな?」
ツチノコの手にはシャンプー。
「そうですそれです。」
「よしじゃあ・・・始める・・・ぞ」
カシャカシャカシャ。カシャカシャ。
案外人にやってもらうというのは気持ちの良いものだ。自分じゃ上手く力を入れられない位置もちゃんと力を込めて洗ってもらえる。
あれ?最初結構緊張したけどわりとエンジョイしてる?
「・・・」
ふと、ツチノコの手が止まる。
「どうしました?」
「いや・・・羽ってどうするんだ?」
「あ~羽は日頃から自分でケアしてるので別にやらなくてもいいですよ。いいですけど・・・」
「けど?」
少し恥ずかしい。それにちょっと難しいかな?いやでも思い切って・・・
「最近羽の付け根が凝ってるから、もんで貰えると嬉しいな~。なんて・・・」
「こうか?」モミモミ
「はうあっ!?めっちゃいいです超気持ちいいです!」
「そ、そうか?」モミモミモミ
「あぁ^~いいですよツチノコ。もっとお願いしまずぅ~はわぁ~」
だらけきった顔で気持ち良さそうにするトキ。
最初モジモジしてたのが嘘のようだ。
「・・・」モミモミモミモミ
「ん~
「・・・ヨダレ垂れてるぞ?」
「ふぇっ!?/////いつの間に!ごめんなさいツチノコありがとうございますもう大丈夫です」
急に顔を赤らめ早口になるトキ。なるほどトキは焦るとこんな感じになるのか。
「じゃあ流すぞ?」
「はーい」ザババー
「さ、湯船に浸かりましょうか?」
ジャプ。トキが片手を浴槽に突っ込んでみる。
「程よい温度ですね!入りましょうツチノコ!」
「と。大変申し訳ありませんが湯船に浸かる時はタオルを入れてはいけないのです・・・頭に乗せるとかしてください・・・」
「あ、そうなのか?」ヒョイ
(あれーーっ!?ツチノコもう裸見せるのに抵抗持たなくなってる!?そりゃ私も少しは和らいだけど!そんな大胆に取っちゃうーー!?)
「・・・どした?トキ」
「なんでもないです・・・///」
ちゃぽんという音をたてて浴槽に浸かるトキ。
それに続くツチノコ。ザバーっという音とともに溢れ出すお湯。
「いやー極楽極楽・・・」
「あったかいな」
「きもちーですか?ツチノコ」
「ああ、気持ちいい。」
目を閉じて、ここ三日間ほどの時間を思い出す。
いろんなことがあった。
最初は歌を聴かせて、ハグして。次の日には雨の中出てこうとするツチノコを呼び止めて。歌でお金を少しづつ貰って肉まん食べて。昨日にはツチノコにパークについて教えて。図書館行って。教授達に変な事言われて・・・今日手を繋いで買い物して。今。
「考えてみれば、本当に濃い三日間でしたね~。そろそろ出会ってまる四日ですかね?」
「そうだな・・・私達、親友なんだよな?これからも・・・よろしく・・・な・・・」
「ええ!よろしくお願いしますツチノコ!」
「・・・」
「・・・ツチノコ?」
ツチノコからの返事はない。目を瞑ってしまっている。心配して顔を触ってみると、とても熱い。意識も無いようだ。
「大丈夫ですかツチノコ!?」
「ぁゎゎ・・・とりあえず湯船から出して休憩室に!」
ツチノコを抱えて低空飛行し、休憩室まで運ぶ。扇風機の下にバスタオルを広げ、そこに寝かせる。
「ツチノコ・・・ツチノコ・・・」
涙目でツチノコを見つめるトキ。少し水を飲ませたり、冷水で濡らしたタオルで身体を冷やしたりしていると、数分でツチノコは目を覚まし、体を起こした。
「はえ?ここは・・・?」
「ツチノコ!目を覚ましたんですか!?良かったぁ!」
思わず抱きつく。目からは涙目がこぼれ落ちていた。
「良かった・・・良かった・・・!」
「ありがとう、トキ」
ひしとツチノコも抱きしめ返す・・・が、二人が裸のままだということを思い出し、急に離れてめを逸らしてしまう。
「こほん。一時はどうなるかと思いましたよ」
「私はよく覚えてないんだがな・・・」
「とりあえず、服来て帰りますか。これ以上は危ないです」
「・・・そうだな」
今度は少し恥ずかしいが面と面を向かい合って少し話しながら服を着た。ドライヤーで髪を乾かすと、不思議なことにツチノコの癖毛は元の形に戻った。
のれんを潜ると、さっきのお姉さんが待っていた。
「あ、年パス出来たよ!ちゃーんと後で払ってね?」
「ありがとうございます!ツチノコ、コレで今度から入れますよ!」
「ところで、なんかバタバタしてたみたいだけどなんかあった?」
「いや~ツチノコが急に倒れちゃって・・・すぐ起き上がりましたけど」
トキが説明すると、お姉さんがガタリと音を立てながら立ち上がって口調を早める。
「えっ本当!?ダメだよそういう時は私とかに言わなきゃ!?今回は良かったけど、本当に危ないからね?」
「深く反省しております・・・」
「ツチノコちゃんって、変温動物でしょ?気をつけないと、すぐのぼせちゃうからね!頭に入れといてね?」
「「はい・・・」」
「けどま、今元気ならいいよ。はい、ツチノコちゃん年間パスポート!大事にしてね?」
「ありがとうございます・・・。」
ツチノコは手の上のカードを見て、目をキラキラさせている。
「じゃ、私達帰ります。いいお湯でした」
「はいよっ!まいどーっ!」
カラカラカラ。外に出ると、外はすっかり暗かった。星が綺麗で、ちょうど出会った日のようだ。
「ツチノコ、これからもよろしくお願いしますね?」
「ああ、トキ。よろしく頼むぞ」
「さっ帰りますか」
「だな」
二人は並んで歩き出したが、少し寂しさを感じ、トキが呟いた。
「あの・・・ツチノコ・・・。手・・・繋ぎませんか?/////」
「おう、いいぞ」
そう言って握った手は、変温動物のそれとは違い、あたたかかった。
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