第11話 飼育の妖精さんと新しい家族

 私が住むアパートはペット可です。

 そうは言っても、今までペットを飼った事は無いですけど。

 一度は飼ってみたいなとは思いますよ。

 だけど、命を預かるには、それなりの覚悟みたいなのが必要なんです。

 もっとも、家には人には見えないファンタジー生物が、沢山生息してますし。


「私は、犬より猫の方が好きかな」

「そっか、良かった。じゃあ、明日あんたのアパートに行くね!」


 突然、大学で裕子ちゃんに呼び止められたと思ったら、会話の流れがさっぱりわかんない。

 翌日、裕子ちゃんから襲撃を喰らいました。

 ええ、あれは襲撃ですよ。

 変なキャリーバックを持ってる時に気が付いて、鍵をかけて居留守を使えば良かったんです。


 勝手知ったる私の自宅を、裕子ちゃんはわが物顔で、ずかずかと上がります。

 ドカッと下ろしたキャリーバックの中から、可愛い鳴き声がしました。

 中を見ると、子猫が三匹居ました。


「きゃ~、かわい~い。何この子達、可愛いね~」

「そうでしょ~。どう?」

「どうって、何が?」

「この子達よ?」

「だから、何が?」

「感の悪い子だね。引き取ってって言ってんの!」

「はぁ?」

「だってあんた、猫好きって言ってたじゃない!」

「うん、まぁね」

「それと、このアパートはペット可でしょ? お隣さん、犬飼ってるみたいだし」

「うん、確かにね」

「じゃあ、決まりだね。どの子にする? 三匹引き取ってくれても良いよ!」


 決まりの意味がわからない。

 裕子ちゃんは、何処から子猫を三匹も、連れて来たんでしょう?


「私だって大学とか、バイトとか色々忙しいんだよ。子猫の世話なんて出来る訳ないっしょ!」

「あんたの家、色々変なのが居るんでしょ? そいつらに世話させれば良いじゃない! 早く選んでよ。どの子? 全員?」


 なんて強引なんでしょう。

 そうは言われてもね、と思いながら子猫達を見ると、何やら視線を彷徨わせてます。

 何を目で追っているのでしょうか?

 私が視線の先を見ると、そこには追いかけっこしてる火と水の妖精さんがいました。


「君達、見えてるの?」

「「「みゃ~!」」」


 うん。わからん。

 でもこの子猫達、どうやら妖精さんが見えているようです。


 動物には妖精さんが見えるのかって?

 まさか。動物に妖精さんが見えているなら、予防医療の妖精さんを引き連れている私は、常に犬から吠えられ捲りですよ。


 気が付くと子猫達は、キャリーバックから出てとことこ歩いて、座布団に座る私の膝によじ登って来ます。

 やばい、可愛い。

 そんな上目遣いで見つめないで。


「なんか、あんたの事気に入ったみたいね。じゃあ、よろしく~!」

「ちょっと~! 裕子ちゃ~ん!」


 強引にってより、子猫達を置き去りにして、裕子ちゃんは帰りました。

 どうすんのよ。ってかむしろどうしよう・・・

 子猫の世話なんてやった事ないし、飼育方法は知らないし。

 お勉強の妖精さんに聞いてみようか、いやいや、私が留守にしている時はどうしたら・・・


 そんな悩みはあっさりと解決!

 どこからともなく現れる新たな妖精さん。


 名付けて、飼育の妖精さん。

 躾けから餌やり、子猫達のお世話をしっかりとしてくれました。

 もちろん、遊び相手もしてくれます。

 なので、安心して出掛けられます。

 私が用意したのは、トイレと猫砂、猫用ベッド、爪とぎ器くらいでしょうか。

 流石に餌は定期的に買いにいきます。


 後から聞いたんですが、この子猫達は雑種だそうです。

 そりゃそうですね。ブリーダーじゃあるまいし。

 裕子ちゃんの実家で飼ってた雑種の猫ちゃんが、何処かでこさえて来た子猫だそうで、父猫は知らないそうです。

 この子達の体は全体的に黒めで、縞が入ってます。

 何て言うんですか? キジトラ?

 と~っても可愛いですよ。


 女の子二匹と男の子一匹。

 ちゃんと名前もつけました。

 女の子はミィとペチ。男の子はモグ。


 正直、私は見た目で区別がつかないので、首輪を色分けしてます。

 ピンクの首輪はミィ。みぃみぃ泣くからミィです! ちょっと甘えっこで、私の足にすり寄ってきます。

 オレンジの首輪はペチ。私の膝によじ登れず、ぺちぺちと足を叩いて来るのでペチと名付けました。この子も甘えん坊で、私に体を預けて寝てる時があります。

 青色の首輪はモグ。食欲旺盛でモグモグ食べるからモグ! 好奇心旺盛なやんちゃ坊主。飼育の妖精さんを追い回す事が多いです。


 普段は大抵、三匹でじゃれ合ってるか、飼育の妖精さんにじゃれついてるかして、仲良く遊んでます。

 私にもじゃれて来ます。何ででしょうね。

 特に私は、これといった世話をしてないんですが、妙にこの子達には懐かれてるみたいです。


 日向ぼっこして寝てる三匹を枕にして、一緒に寝る飼育の妖精さんは一見の価値有りです。

 可愛いです。癒されます。キャーってなります。


 面白いのが、モグの抜け毛を後ろから拾い集めるお掃除の妖精さん、それを追いかけるミィ。ミィの抜け毛を後ろから拾い集めるお掃除の妖精さん、更にそれを追いかけるペチ。ペチを飼育の妖精さんが追いかけ、飼育の妖精さんをモグが追いかける。

 子猫達が飽きるまで、グルグルと家の中を輪になって歩くんです。

 稀にこの光景は見かけます。

 笑いがこみ上げ、動画を残そうと試みたんですが、妖精さんが映像記録に残らないんです。

 スマホで撮った動画は、ただ子猫が歩いているだけの動画になりました、グスン。


 他の妖精さん達も、子猫達に好意的な様です。

 火、水、風の三妖精タッグで、ストレスにならない空調管理。

 子猫達のトイレ後は、お掃除の妖精さんがすかさず処理。

 たまに、お料理の妖精さんが、餌を作っている様です。


 子猫のせいで、ワンルームのアパートがぐっと狭くなった気がしますが、今更仕方有りません。

 元々、妖精さん達がわんさか居る部屋ですから、ほんと今更感がたっぷりです。

 幸いな事に時給が高めのバイトしてますし、多少の出費も痛くありません。


 そんなこんなで、家族が増えました。

 益々賑やかになる私の自宅。どうなっていくのでしょう。

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