ヤンデレパニック!
りゅーと
第1章『ヤンデレ、出ます!!!』
第1話 ヒロイン登場!(もちろんヤンデレ)
「歩くんってば寝てる顔も可愛いんだから♡」
「え?何?お前夜中からいたの?」
これが僕たちの1日の始まりの会話(?)である。
僕、鏑木 歩(かぶらぎ あゆむ)は出会ってしまったのだ。
あまりにも暴力的な整った美貌、カーテンから差す日の光を吸収し、キラキラと光る長く透き通った綺麗な黒髪。
だが何故かニヤリとした表情を僕に向ける美少女、鹿野 未来(かの みらい)と。
出会ったのは3日前の高校の入学式。
特に接点はなかったと思うが、その翌日から四六時中、僕の家から帰り道まで絡んでくるようになった。
「歩くんの寝息が聞こえてきてからくらいかな?」
「......寝息が聞こえて?えっと、盗聴?」
盗聴と聞いて彼女はプリプリと怒った様子で僕に歩み寄る。
いやまぁそんな仕草も可愛いんだけどさ。
「違うよ!......盗撮&盗聴だよ!」
「うん、余計に悪いよね、それ」
前言撤回、全然可愛くない。
あとなんで僕怒られたの?
なんて不毛な会話をしながら階段を下り居間に向かう。
あのまま寝ていたらもっと悲惨なことになりそうだからな......。
そうして居間に辿り着くと、見覚えのある少女が立っていた。
2つのアホ毛をピョンピョン揺らしこちらを振り返るのは、高校1年生にしては身長が小さい少女、金谷 美月(かなや みつき)である。
家が近所で、昔から付き合いがある、いわゆる幼馴染みというやつだ。
俺たち2人は同学年だが、美月が昨日まで親と一緒に里帰りに行っていたらしい。
美月の実家のことは詳しくは知らないが、入学式にも出ていないとなると何か大人の事情があるんだろうが、本人があまり家のことを話したがらないので僕も追求しないようにしている。
「あー!!!あゆくんが浮気してるです!......とりあえずそこの女〇は殺しますね!」
ガキィィィィィィン!!!
と刃物がぶつかる金属音がして音の鳴った方に目を向ける。
僕の眼にら一瞬で間合いを詰めた美月と鹿野が競り合っている姿が映っている。
──────お互い武器を持ちながら。
「全く危ないよ?刃物振り回しちゃ!」
「それを電ノコで受け止めるお前もどうかと思うぞ?」
美月が持っていたのは骨まで砕きそうなほどどでかい包丁。
どんくらいでかいかって言うと、BLEA〇Hに出てくる一〇の斬魄刀くらい。
一方、鹿野が持っていたのは電動ノコギリだった。
チェンソー・ウーマン???
あれ???ちなみにこの小説ってラブコメだよね?
僕だけ間違ってバトル物の作品に紛れこんじゃったとかないよね?
「やっやだ!料理で使ったのそのまま持ってきちゃった!」
「一般家庭のキッチンに電ノコは置いてないぞ!?お前の私物なんじゃないのか?」
年頃の乙女のように身をくねらせ頬を赤らめる鹿野(電ノコ所持)。
そもそも電ノコを使う料理とか聞いたことない。
もしかしたらどこかにあるのかもしれないが、一般家庭ではまず使わないだろう。
「それは置いといて!「お前」じゃなくて、未来って呼んでよ〜!」
「......未来」
スイッチが入りブォォォン!とけたたましい音を鳴らす電動ノコギリの前では言うことに従うしか無かった。
チビりそう、マジで。
「キャー!!!名前で呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた呼んでくれた」
そりゃ、電動ノコギリを突きつけられた状態で言うこと聞かない人っている?
カタギだから僕。
アウトレイジじゃないから。
それに美少女の名前を呼べるとか男冥利に尽きるしね。
「ところで歩くん、この汚らしい陰毛を頭から生やした下品な女は誰?」
アホ毛って言いなさい!!!
全国のアホ毛同好会の皆様に「ムカつくヒロインランキング」に入れられちゃうよ!!!
「こいつは金谷 美月(かなや みつき)。中学の時からの腐れ縁で、いわゆるヤンデレってやつだな」
「えぇ、ヤンデレ〜?怖いよね、歩くん.....」
両手を口に当てながら心配そうに未来は言う。
こいつの顔、マジで言ってやがる!
自分がヤンデレだという自覚をお持ちでない!?
「あゆくん、このクレイジーサイコババア誰ですか?」
今度は美月からお声がかかり、こちらからも罵声が聞こえてくるが、空耳と信じたい。
「こいつは鹿野 未来。3日前に知り合った高校のクラスメイト、こいつも同じく......ヤンデレだな」
「ヤンデレ?早くそんな子とは縁切るべきですよ!」
じゃあお前とも縁を切ることになっちゃうYO!
2人とも自覚はなし......か。
ふと、未来が時計を見て、あっ!と声をあげる。
「歩くん!早くしないと遅刻しちゃうよ!私の作った歩くん好き好き朝ご飯を早く食べて?」
「なんだそのメイド喫茶風のネーミングは......って、ん?そんなんどこにあるんだ?」
未来が指を指したテーブルの上にはご飯と言えるものが見当たらない。
こう見えて未来も少しはおっちょこちょいなところがあるのかもな。
「あー、あのハートマーク(笑)のついた変なやつ(笑)ですか?なんか臭そうだったので今日のゴミ収集に出しておきましたよ(笑)それよりも私の作ったあゆくん大好きご飯を早く食べてください!」
僕の知らないところで女性同士の醜い争いが起こっていた。
捨てられたものは仕方が無いので、美月のご飯を食べることにする。
しかし、もう一度テーブルを見てもご飯どころか何も見当たらない。
「......それもどこにあるんだ?」
「あー、あのピンクピンクした体に悪そうなやつ?(笑)見た目キモイから毒かと思ってさっきゴミ収集車に出しちゃった」
お前もかよ!!!
こいつら仲悪すぎない?
いや、同じことをしてるって面ではある意味仲がいいのかも......?
――――――――――――
結局朝ご飯は僕が用意して3人で仲良く食べ......
「なんで家畜の豚が人間のご飯食べてるのか
・・
な〜?それも私の歩くんが作ったご飯を」
「尻軽そうなビッチが口を挟まないでほしいです
・・
ね。それはそうと私のあゆくんが作ったご飯、早く私に全部寄越してください」
仲良く......
「まぁいいか、後でこの醜い豚の腹を引き裂いて歩くんの作ったご飯だけを取り除けば」
「性病で死んだ後、死体解剖であゆくんの作ったご飯だけ取り除けばいいですね」
「お願いだから仲良くしてぇ!!!???」
ヤンデレが複数人いたら本当の修羅場とかす。
僕はこの3年間の学園生活でその言葉を嫌という程知ることになる。
と言うか1日目で全て察した。
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