第零六章・もう一人の主人公

…一方人間界では…


一人の問題児が?荒くれ者?…いや大人の刑事が警察署内の喫煙所で部下に怒鳴り散らしていた。


???【あぁ!?捜索願だと!?…見りゃ分かるよ!だけどな俺は例の事件で手一杯なわけなんだよ!!こんなモンは東川口駅前交番の巡査にでも任せておけばイイ!!鈴木!!分かったな!!】


俺の名前は津鏡疾風(つかがみはやて)35歳のクールなバツイチ…趣味はギャンブルと射的…好きものは苺大福と女!嫌いなものはガキと偽善者!

得意なものは喧嘩!不得意なものは言葉の解決!


…そんな俺が当時、就職先に迷ったのはヤクザか刑事だった…


あの時、お袋の意見を聞いてなけりゃヤクザにでもなって今頃…東京湾の底だったかもしれないが…今思えばそれも悪くなかったかもな…。


…とかまでは…流石に思わないが!今俺はアル事件を担当してから非常に忙しく、睡眠時間も大幅に削られイライラしているのだ。


そのイライラしている時に、このバカは俺に捜索願書をアホな顔で差し出してきやがった!しかも至福の瞬間の喫煙所にまで出向いてだ!


何故だ!!


何故なんだ!!


何故!お前はそんなにアホなんだ!!


馬鹿なんだ!!


だ!!


だ!


……。


疾風【…ダーりゃぁー!!!】


鈴木【疾風センパイ!!痛い痛い痛い!!】


疾風【鈴木…本当にキレた人間は何をするか分かったもんじゃないだろう…】


そう…鈴木に伝えると髪型の乱れたスーツ姿のイケメン若者は俺を睨んで何かを言いそうだ。

俺はその発言の衝撃に備えてスーパーヒーローのような戦闘の構えをして待機する。


鈴木【…先輩!それなら先輩はだいたい毎日本当にキレてますよ!!】


ダーりゃぁ!!ともう1発空手チョップをしてやろうとした時、鈴木が捜索願書をつきだし叫んだ為、俺は攻撃を辞めた。


鈴木【コレ!例の穴に関係あるかもですよ!!】


疾風は目を広げ書類を奪い取る。


疾風【…よこせ!!】


俺は捜索願書に目を通して驚く。


…そして真剣な表情を部下の鈴木に向けた…


疾風【…鈴木!遊びは終わりだ!直ぐに出かけるぞ!!】

鈴木【…僕は遊んでないですけどね…】


喫煙所コーナーから火の付いたタバコを口に咥え疾風と鈴木は武南警察署裏に停めてある覆面車両保管庫に走り出す。


鈴木【先輩!煙草駄目ですって!】


疾風【鈴木!真面目駄目ですって!!】


そんな俺の返答を聞いた鈴木は何故かいつもの笑顔だ…コイツは…あんがい…楽しい奴で、ま。俺の相棒なのだ…。


そんな鈴木が俺に手渡した捜索願書には、こう書かれていた。


行方不明・山田勝 年齢・17歳

住所・埼玉県川口市東川口2679-3


特徴・身長170前後 黒髪やや長め 痩せ型


服装・白色のシャツ、高校制服半袖を着用しカーキ色ハーフパンツ・白色のスニーカー・黒色のバックを持つ。


川口市立川口高等学校学生・在学中


詳細


7/21、pm7:00頃に自宅を飛び出し現在行方不明。

7/22、AM6:00頃に芝川第一貯水池の入り口にて原動機付自転車、水門上にて財布と学生証、現金が見つかる。

※野鳥撮影を目的とした男性が発見し交番に届けた。

現在事件事故の可能性は不明。また安否も不明

担当警察官は直ちに調査し行方不明者を発見せよ。以上


…その行方不明者…そいつは絶対に目撃しているはずだ…あの空に現れては消えた黒い穴を…


最初その話を聞いた時、俺はあまりにブッ飛んだ内容を信じる事が出来なかった。

…いや…それが事実ならば尚更俺の担当ではなく科学的な機関の担当だと決めつけていた。


だが…それは違った!


数日前、一本の電話が俺のデスクの上で鳴り響いた。俺が電話に出ると相手は警視庁総監の青山兆志(あおやまきざし)だった。


…ま。…お偉いさんだ…


あの日、青山は電話で長々と話し出した。


青山【…警察署総監・青山兆志と申しますが…津鏡疾風さんですね…】


俺はデスクに乗せていたスマートで長い足を下ろし、両肘をデスクに置いてチュッパチャプス、ストロベリー味を咥えながら目を細めて返事をする。


疾風【…あぁ?…んで?何の要件すか!?…警察署総監督さんが…わざわざ俺の個人デスクまでご連絡とは…】


青山は電話ごしで少し笑うと話し出す。


青山【…どうやら噂通りの男のようですね…。津鏡刑事さん。弟さんとは正反対の性格なのですかね…】


その言葉…つまり…弟の話題をきくなり、俺はブルドッグなみに眉間に皺を寄せて煙草に火をつける。ひと吸いして煙を長く吐き出すと返事をする。


疾風【…軍隊関係の依頼なら自衛隊でしょうが…それとも闇の依頼なんですか?…】


俺は事務所を見回し話を続ける。


疾風【…わざわざ誰もいない時間に連絡をしてくるって事は…ま。…あんた!確実に闇の依頼だね…】


青山は低くも貫禄ある声で言う。


青山【…アメリカ軍のアノ部隊からの依頼…つまり…そうだねぇ…君の弟、津鏡隼人(はやと)さんからのご依頼だと思ってくれて良いだろう。弟さんは言ってましたよ!…兄は命知らずのギャンブラーだってね!!】


俺はそんなクソつまらないアメ公ジョークは完全に無視した。そして冷静に考えてから言う!


疾風【オイオイ!!青山総監さんよ!!つまんねー長話はどうだっていい!!手短に要件を伝えろ!…そのクソみてーな声を聞いてるとブン殴りたくなるぜ!】


青山【おぉ怖い怖い!…すまないねぇ…疾風君…では本題だが!】


青山は突然真剣な声になる。


青山【偶然にも君の所属する武南警察署から近い芝川第一貯水池をご存知かね?】


疾風【…あぁ…】


青山【最近、その近くで異変があったでしょ?】


疾風【…異変?…しらねーな!】


青山【…あらら?…話題になってるでしょ?雑誌にも載ってるし、新聞でも少し話題になってるし…。…穴ですよ…穴。空に黒く開いた穴の事です…】


疾風【オイ!だって…あれは都市伝説とか、合成写真とか…つまりデッチ上げじゃないのか!?】


俺はチュッパチャプスを咥えていると話しづらいと感じゴミ箱に投げ込む。


青山【まったくその通りですよね…私も同じくフィクションだと思っていました。…しかし!その穴からNASAでも観測出来ない隕石が落下したらしくてね…】


疾風【…隕石!?…つまり…その穴は宇宙と繋がっている?そう言いたいのか!?】


青山は少しの間黙ると話し出す。


青山【NASAによると、分からない…というより有り得ない…らしい。…と言うのは、NASAのレーダーつまり衛星では彗星観測や宇宙ゴミにいたるまで全て観測、把握出来るレベルらしいのだが…その落下した隕石は一つや二つではなく数百、数千落下していたらしいのだ。しかしながら我々が住んでいる日本では、何の影響も出ていない…そう…つまりこれは異常事態なわけだ】


俺は額に右手を当てて返答する。


疾風【つまり…NASAのレーダーがとらえた最大数千の隕石が日本の川口市にある芝川第一貯水池に落下した。当然、落下した場合大きさにもよるが被害は大きいはず…んが!?目撃談はあるのに物理的な被害は一切ないと…。通常隕石は大気圏を抜けて落下するのに対して…今回は空に現れた穴から降り注いだ…って事も異常か…。】


俺は額に当てていた手をハッと外すと、顔を上げて目を見開く!


疾風【アメリカ国防省…NASA…衛星レーダー…隕石の落下…予測不能…つまり北朝鮮問題が背景にはある訳だな…ミサイルの防衛システムが不完全ではアメリカとしても今回の件を公に出来ない…。とくに、北朝鮮にバレたくはないしな…それは、日本の自衛隊が動いても同じ事…テレビで大々的に報道されてしまうからだ。つまり隼人の所属するアメリカ国防省暗部チームからしてみれば実兄の俺が極秘で動き、その実態をアンタを通して国防省に報告し隼人の所属するアメリカ国防省に情報を日本政府が売買、又は外交戦略の切り札とする訳だな…そうだろ?青山総監督さんよ!…】


青山は電話ごしでパチパチと手を叩いた。


青山【…実に素晴らしい!それも弟さんの言ってる通でしたよ。…兄は阿保だが馬鹿じゃない…とね…。】


疾風【…断る選択肢は無いのは分かるが、俺に今後連絡はしてくるな…こちらから連絡をする!勿論、報酬は頂くし、部下を一人付ける!アンタの息のかかった部下はお断りだ…】


青山【理解が早くて助かりますよ…報酬はおいくらでしょうかね〜?】


疾風【…星の降る数だけ用意しとけ!!】


俺は返事を聞かず電話をガシャリと切った。


…かなりややこしい内容だが、ザッとこんな具合で俺は今の事件を追う事になった…。


ガラララ〜!


重厚な金属音とともに覆面車両保管庫の引き戸が鳴り開く。


鈴木と俺は車に乗り込むと運転席の鈴木が俺に話しかける。


鈴木【…先輩!行き先は!?】


俺は煙草を窓から投げ捨てると返事をした。


疾風【急いで、この少年の家に向かえ!!】


キュルキュルとタイヤを鳴らしオレ達は、山田勝の住んでいた家に向かうのであった。

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死んだお爺ちゃんがくれたカメラは異世界を写す銀のカメラだった @karasu-syougeki

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