第30話(完)

 エグナーは、ウソをつかなかった。

 徴収者と一緒に島を出たエグナーを見届けて、島の人は平穏が戻ったと感じていたみたいだった。

 あの場でエグナーの話を聞いていた人によって、ウワサは広がった。『納品を終わらせる』という話は、期待していない人がほとんどだった。

 でも、変わった。

 徴収は終わって、長年続いたノルマから島は解放された。

 詳しい事情はよくわからないけど。この島は独自の生態系を持っていて、他で見ない素材が多いみたい。

 冒険者を助けた過去の事情を使って、島の住民に納品ノルマを課して素材を集めていた。集めた素材は、稼ぐために利用していたみたい。

 エグナー1人の手で変わった歴史に、島の人たちはしばらく呆然としていた。

 突然のことで受容しきれないまま。島に来た、徴収者ではない人に事情を聞かれて、変わった生活を実感しているみたいだった。

 よそ者相手に警戒する人は多かった。相手は島の歴史も理解してくれているのか、怒ったりはしないで気長につきあってくれた。

 相手は、エグナーの行動に賛同した人たちらしい。島の完全なる解放のために、正しい情報を得ようとしているみたい。うちも協力した。

 自由を手にすると同時に、島の独自の生態にも注目が集まったらしくて。素材研究者を筆頭に、島に専門家が集まるようになった。やっぱり警戒する人は多かった。真摯な対応をしてくれたおかげで、少しずつほぐれているように見えた。

 じわじわと変わり始める生活の中、うちの生活も大きく変わった。

 1つ目の大きなことは、兄さんが家を、島を出たこと。

 自由な渡航が許されたことを期に、調合の腕を極めるために、島の外で見聞を広めに出た。さみしいけど、兄さんならうまくやっていけると思うから見送った。

 2つ目の大きなことは、リージュも島を出たこと。

 治療のために、海を越えた先にある医療施設に移動することになった。リージュとも別れるのは悲しいけど『元気になって戻ってくる』の言葉をもらったから。

 兄さんもリージュのいる医療施設の近くに住んでいるから、そんな意味でも安心。異国の地での不安が、少しでもやわらぐよね。

 手紙でのやりとりはできるみたいだから、大丈夫。会えなくても、つながりはある。

 たった1人で住むことになった家に、手紙が広げられる日が楽しみだな。

 島に残ったうちは、島に来た研究者と素材の研究をしている。うちの知らない道具を持っていて、それを使っただけで今までわからなかった素材の効能が判明したりして。

 これなら、リージュの治療にも役に立てるのかなって思える。

 エグナーは徴収者のいた場所に戻って、根底から変えるために継続して励んでいるみたい。そんなエグナーの行動を無にしないためにうちがやるのは、島の人の説得。

 エグナーの行動でよそ者への不信はゆるまった人もいるけど、まだまだ足りない。島に新たに来た人と島の原住民をつないで、蓄積された壁を少しずつでも崩せるように。

 島の人のあたたかな優しさが、すべての人に向けられるように。

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孤島に迫る徴収船と赤の少年 我闘亜々亜 @GatoAaA

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