第7話
少年をつれて、目的地に到着した。島の人に見つからないように警戒はしたから、誰にもすれ違わないでここまで行けた。元々人通りの少ない道ではあったけど。
「ここ?」
少年は、珍しそうに目を凝らして眺めた。
目的地は、使われなくなった物置。古くなったし、誰も管理する人がいないからよごれている。
「屋根がある場所で寝られたほうがいいのでは? ここなら誰も来ないと思うので、よろしければどうぞ」
すごしやすい気候とはいえ、雨もふる。雨の日に外で寝るのは、きっとつらいよね。ここなら、その不安はひとまず消せる。
「こんな場所でごめんなさい」
本当はもっと、ちゃんとした住居を紹介するべきだよね。でもここ以外に、人が来なさそうな屋根がある場所に心当たりがなかった。
「気づかい、ありがと」
扉を開けた少年の後ろから、うちも中をのぞく。
「……思った以上によごれていますね」
扉や窓は閉まっていたのに、隙間から進入したのか、中にもよごれがたまっている。少しのよごれはあると想定していたけど、ここまでだとは思っていなかった。心なしか、漂う空気もホコリっぽいような。
『ここで寝ろ』というのは、さすがに厳しいかも。
「ちょっと掃除すれば、使えるよ」
意に介していないのか、気づかってくれているのか、少年はうちにけろりと笑いかけてくれた。
そうは言われても、うちとしては気にならずにはいられない。
道具なしに掃除するのは大変そう。今の時間なら、兄さんは外に出ていていないはず。
「待っていてください。家から掃除用具をとってきます」
兄さんが出払っていた自宅からホウキと雑巾を持って、少年の待つ物置に駆けて戻った。
「わざわざごめんね」
うちからホウキをもらった少年は、早速掃き掃除を開始した。1回のストロークで、むわりとホコリが舞う。ここまでたまっていたんだ。うちも雑巾でよごれた壁を拭き始める。
「やるよ?」
「1人では大変でしょう」
終日つきあって帰りが遅くなったら、兄さんに怪しまれそうだけど。少しなら手伝える。うちにできることなら、極力手伝いたい。
「ここまでしてくれるとは思わなかったよ」
「いい場所を紹介できなくて、ごめんなさい」
掃き掃除と壁の拭き掃除を一緒にするのは、本当は効率が悪いんだろうな。時間短縮のために、仕方ないよね。ホウキも雑巾も1つずつしかないし。
「満足だよ」
そう思ってくれたのならよかった。小さな安心を感じつつ、掃除の手を進める。
しばらく掃除を続けて、さっきよりは片づいた。
「手伝ってくれて、ありがと。あとはオレがやるよ」
ずっと掃除を続けていた。雑巾でこすり続けていた腕には、疲労の蓄積がある。
採取とかの時間もほしいし、兄さんに怪しまれたくはない。少年の厚意に甘えさせてもらおう。
「お先に失礼します」
少年に雑巾を渡して、礼をして物置を出た。
気をつけて掃除をしたのもあって、服はよごれないで済んだ。掃除のよごれと採取のよごれは違うだろうし。兄さんに少しでも怪しまれるわけにはいかないもん。
服に付着したであろうホコリをはたいて、自然を歩いた。
日暮れまで採取をして、自宅に帰った。兄さんは既に家にいて、調合を進めていた。
邪魔をしないように音を潜めて、採取した素材をそれぞれの場所にしまう。
「手伝いでもしていたのかい?」
いつの間にか兄さんの視線が向けられていた。
「なに?」
「採れた量が少ないみたいだから」
そんなところまで見ているんだ。見ていないようで、毎日ちゃんと見ているんだな。
うれしさと同時に、今は困りもする。
採取した量が少なくなったのは、考えるまでもなく物置の掃除をしていたから。兄さんに素直に言えるわけがない。
『手伝い』という意味的には、認めてもいい言葉ではあるんだけど。
誰とどんな手伝いをしていたのか聞かれたら厄介だ。ウソをつくしかなくなる。ウソの手伝い相手に兄さんが話を聞いたら、偽りがバレる。
「掃除用具もなくなっていた」
続けられた言葉に、内心どくりとする。気づかれていたんだ。
どちらが当番とかは決まっていない掃除は、兄さんがすることもある。運悪く、きょうしようと思ったの?
掃除用具を外に持ち出すなんて、誰かの掃除の手伝い以外に考えにくい。誰を手伝ったか聞かれたら、ウソがバレてしまう。
「そうだった? 最近、見ていなかった」
偽りではない。
正確には、きょう見たんだけど。最近、自宅の掃除はしていなかったし、偽りではないと思わせられるはず。
「そっか。別の場所にうっかりしまっちゃったのかな?」
兄さんがそんなミスをするとは思えないけど。その考えに至ってくれたのかな?
ひとまず、危機は回避できてよかった。
「素材の生育の視察をしていたから、採取は控えめになっちゃっただけだよ」
思考を続けられないように、さっきの質問の返事を返した。
こう言うのが、きっと最善だと思う。
兄さんにウソをつくのは心苦しいけど、真実を言うのははばかられるから。
「そっか。お疲れ様」
優しく笑ってくれた兄さんを前に、ちりりと胸が痛んだ。
「急いでご飯、作るね」
心情を悟られないように、声を明るくして調理場に走った。
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