第5話

 ウワサを聞いたのは、翌日だった。

 朝の採取のあと、島の人に素材や薬を届けに来た。島の人全員に納品ノルマがあるから、納品の品を作るのに必要な素材や薬を届けるのもうちの仕事。代わりに、うちも材料になるものをもらったりして、互いに納品ノルマを達成するために助けあっている。

「ここに来るまでに、よそ者を見かけなかった?」

 品をもらうより早く、聞かれた。不安といぶかしげが乗った表情が向けられる。

 よそ者には、心当たりがある。きのう会った少年。相手が言っているのも、少年なのかな。

「……いえ」

 でも、そう言った。理由も思い出せないのにここにいた少年を突き出すのは、違うよね。悪意も感じられなかったし、黙っていても大丈夫だよね。

「『見なれない姿を目撃した』って人がいてね。見間違いならいいけど。念のために気をつけて」

 あの少年かな。少年以外にも迷い込んだ人がいたの? ただの見間違い?

「お気づかい、ありがとうございます」

 礼をしてその場を去ってからも、さっきの言葉が抜けなかった。

 よそ者の目撃証言。

 徴収以外で、島の外の人が来ることはない。

 外部の人間かは、島の人はすぐに見分けられるよね? 島の人間を『外部の人』と見間違える可能性は低いはず。

 住民が少ないから、島の人全員の顔を知っている人がほとんどだと思う。深い交流のない相手がいつもと違う服を着ていたり、髪形を変えていたりしたら『別人』と判別しちゃう可能性もあるかな? 見間違いの可能性も捨てきれない?

 見間違いの可能性は少なそうだと仮定すると、目撃証言の正体は少年かと思える。

 少年は特に語っていなかったから、きっと1人で来たんだよね? 誰かと来たのかすら忘れているだけ?

 1人で来たとしたら、目撃証言は少年と確定してもいい。

 そもそも、外部の人が来ることもなかった島。関連のない人が複数も同時期に迷い込むとは、とても思えない。

 仮に少年以外の人も島にいるとしたら、少年の仲間と考えるのが自然かな。仲間がいるとしたら、少年の欠けた記憶も補間できるかも。そうなったらいいけど。

 でももし、少年が1人でこの島に来ていたら?

 見知らぬ地でただ1人。完全欠乏ではないとはいえ、記憶が欠けてしまって。

 心細さを胸に抱えているかも。

 きのうは、あれからどうしていたの?

 うちと別れて、それから。

 帰りに姿を見かけなかった。パイを食べたあとに移動したのは確実。それしかわからない。

 寝床もなくて、見知らぬ土地で不安な野宿をさせてしまった?

 もう少し、なにかできたのかな。

 記憶の欠けた、あの少年に。

 どうしてもっとしてあげられなかったの? この島に流れる血には逆らえないの?

 ……そんなわけない。

 今からだって、どうにでもできる。

 このまま無視することも、力になろうと励むことも。

 選ぶのは、選びたいのは、迷わず後者。

 少年はどこにいるの? 今はそれすらわからない。

 ウワサの出所を調べて、目撃された場所に行く方法もある。でもとっくに移動しているだろうし、確実な方法とは言えない。

 島の人に『見覚えのない人がいた場所にわざわざ向かった』と知られたら、面倒なことになっちゃいそうだし。

 この島にどんな目的があって、少年が来たのかすら知らない。本人すらわからなかったみたいだけど。

 思考は、自身が発した言葉でとまった。

 西のほうに果実が実る木がある。

 別れ際に少年に伝えた。

 食料を持っていそうではなかった。パイ以外になにも食べていないかも。西に向かった可能性も考えられる。

 今はこれ以外にすがれる可能性がない。

 確証もないけど、行こう。誰もいなくても、果実を採取して帰ったら無意味にはならない。

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