第4話 もうひとつの状況整理

謎の男女二人組の襲撃からひとときが過ぎ、混沌を呈していたその石積の城も多少の慌ただしさを残しながらも幾ばくかの平穏が戻っていた。

その城のとある一室に4人の男女が正方形の卓を囲んでいた。

使用者のいない荘厳な椅子を境に、左側の辺には使い古されたローブを身にまとった老人と黒と白のドレスをまとった女性が並び座り、右側には金の装飾があしらわれた鎧を身につけた青年と小綺麗な礼服をまとった小柄な人物が並び座り、荘厳な空席が埋まるのを静かに待っていた。

するとその部屋の荘厳な扉を叩く音がゆっくりと響き、少しだけ開いた。

そして軽く開かれた扉から凛とした女声が発せられた。


「クルフォルト・ヴァルキュラ様のご到着にございます」


その声が響いた途端、部屋にいた4人は立ち上がり、握った右手を左胸に当て、直立の姿勢になった。

扉から現れたのは、先ほどの声の主と思われるメイドを1人引き連れた、黒のマントに身を包んだ美丈夫、クルフォルト・ヴァルキュラ、その人だった。


「楽にしてくれ。ここには俺たちしかいないんだ。して状況は?」


メイドを自らより半歩下げた位置に立たせ、荘厳な椅子に座りながらクルフォルトが話を切り出した。

他の面子もクルフォルトが座りきるのを見計らい、姿勢を和らげ、席についた。

そしてクルフォルトから見て左奥に座った黒と白のドレスを纏った女性が挙手し、少し苦い表情で話し始めた。


「では私から。現在確認している被害状況は『召喚の間』の壁面及びその周辺の損壊、そして『姫』の誘拐…このふたつのみにございます」


その女性の対角線の位置に座した白と金の鎧を纏った屈強な青年が反応を示した。


「…それだけ?盗人にしては被害が少なくないか?」

「たしかにあの障壁をぶち壊すレベルの相手なのに被害が少なく感じますよねー。実際の状況は大分不味いんですけど」


その青年の横に座る小柄な少年がうーんと唸りながらその意見に同意した。

その報告を聞き、口許に手を置き、考える素振りをしたままクルフォルトがドレスの女性に確認した。


「…シィーカよ。あの部屋の障壁はたしかに機能していたんだな?」


そう言われたドレスの女性、シィーカは激昂しながら説明した。


「もちろんでございますわ、陛下!大事な『姫』を喚び出すこの日、朝のうちから普段より強固にいたしました!」

「それに関してはワシからも念押しさせていただきますぞ?ワシも上乗せしましたからな」


結界の隣に座っていたローブの老人も後押しをした。

その二人に対してクルフォルトが意地悪く言い放った。


「…であればシィーカとノワーゼ老師の見込みが甘かったということだな」

「うぐぅ!?」

「むぅ…」


痛いところを突かれたと苦悶の表情を浮かべるシィーカと、苦虫を噛んだような表情の老人、ノワーゼを他所に、鎧の青年がクルフォルトに問いかけた。


「して陛下。どのような対応を?」

「…この場で陛下は止せ、ガイ」

「…わかったよ。クルフ」


クルフォルトに砕けた対応をしたガイに満足したのか、そのままクルフォルトは続けた。


「まずは現状での連中の目的を考察しようか。それで彼らの動向を読めれば御の字程度…ステラよ、どう見る?」


クルフォルトはガイの隣に座った少年、ステラに話を振り、意見を求めた。


「今の状況だけじゃ読めないものが多いんだけど…そうだねぇ」


話を振られたステラは腕を組み、一度だけ頭を回し、人差し指を立てて口を開いた。


「一つは恐らくだけど、彼らがここを襲ったのは偶然というか突発的なもので、計画的な襲撃じゃなかった」

「なぜ…」


一つ目と題した内容に反応したガイだったが、ステラにたしなめられた。


「もう!説明はあとあと!将軍様のせっかち」

「な、なんだと!?」


せっかちと言われカチンと来たガイは文句を言おうと立ち上がりかけたが、クルフォルトに止められた。


「ガイ。まずはステラの考えを聞いてから説明を仰げ」

「うん?…わかった、続きを頼む」


クルフォルトにたしなめられたガイはしぶしぶステラに促した。

そんなガイの様子に満足したのか、少しだけ声色の上がったステラはそのまま続けた。


「じゃあ話を戻すよ。二つ目は彼らには数人から十数人の仲間がいること」


指を二本立たせ、そう言い、間髪入れずに薬指も立てた。


「そして最後は…この世界の人間ではない可能性が高いということ」


その言葉が放たれると、室内の空気にざわつきが起こった。

そしてその言葉を理解しようとシィーカが繰り返した。


「…この世界の人間じゃない?」

「あくまで考察だけどね。さて」


ステラが手を一つ叩き、その場の空気を切り替えた。

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