a)ハクチョウの子供達の場合

 「フッドさん!私と結婚してください!」


 「フッドさん!私なら貴方をきっと幸せにします!」


 「フッドさん!あたしは貴方と結ばれることが夢です!」


 コハクチョウの3姉妹は、コブハクチョウのフッドに告白アピールをしていた。


 「ん?」


 白鳥の楽園の湖で泳いで餌を探していたフッドは、コハクチョウ3姉妹を振り向いた。


 「みんなぁ!愛の告白みんなありがとう。でもね、悪いけど誰と結婚したいのは決めかねないの。

 だって、僕はコブハクチョウで君達はコハクチョウでしょ!?種族が違うもん!!ごめんねぇ。

 他にも同じコハクチョウで僕よりいい雄を見つけてよ。」


 3姉妹は現実を知って、


 ガーン!!となった。


 「ランスウミキ?どうしたの!?呆然と固まって・・・

 ははーん、まさかフッドに結婚しようって告白したなあ?当然じゃん!!

 あっちはコブハクチョウ、私達はコハクチョウでしょ!?

 コハクチョウでいい雄がいないからって、手軽に知り合いに告白ってねえ・・・?

 常識わきまえなよ。ねぇ!!ユジロウ♪結婚しよ!!」


 「母さんもでしょ!!」



 「そうだな・・・僕はもういい成鳥なんだから、早くいい嫁を探さなきゃいけないなあ・・・

 本当に肝心なこと忘れてたよ。困ったなあ・・・」


 フッドは、この白鳥の湖をうろうろした。


 この中でフッドと同じコブハクチョウで、雌のハクチョウがいないかくまなく探した。


 しかし、この湖にはコハクチョウばかりいてコブハクチョウは一握りしかいなかった。


 「困ったなあ・・・困ったなあ・・・」


 こぉーっ!!こぉーっ!!


 遠くで、ハクチョウの困り果てたような悲しい叫び声が聞こえていた。


 「なんだなんだ!?」


 フッドはハクチョウの悲鳴のする芦の茂みに入り、手当たり次第にまさぐったが、その悲鳴をあげるハクチョウの姿は既に無かった。


 が、その代わりジタバタとしている白に何かが茂みの開けた場所にいた。


 「な、なんなんだ!?」


 その白い何かをよく見て、「げえっ!」とのけぞった。


 それは、風船の糸が身体中にがんじがらめになったコブハクチョウだった。


 そのコブハクチョウは、ジタバタと息も絶え絶えに暴れていたのだ。


 「たす・・・けて・・・たす・・・けて・・・」

 ・・・ど・・・どうしよう・・・このまま見殺しなんか出来ないし・・・


 その時、フッドの脚に絡みついた風船を身を挺して取り除いてくれたオオワシのリックのことを思い出した。


 ・・・ここで見捨てるなんて、僕を助けてくれたリックさんに見せる顔はない!・・・リックさんは危険を顧みず僕の脚の風船を取ってくれたんだ!・・・

 ・・・今度は自分がリックさんになるんだ!・・・


 フッドは深く深呼吸をして、そのもがき苦しむコブハクチョウに、


 「僕が君を今から助けるから!ちょっと我慢してね!」


 と、そのコハクチョウを安心させようとして片目でウインクをして言い聞かせた。


 フッドは、糸の先の風船を探した。


 だいぶ萎んだ風船だ。


 その風船から糸を辿り、どんどんとコブハクチョウの体からグルングルンと解いていった。


 と・・・


 「ああっ!」


 コブハクチョウが暴れすぎて、複雑に絡みついていたのだ!


 「仕方が無い・・・ねえ、ちょっと我慢してね!」


 フッドはそう言うと、嘴でコシコシと絡みまくった糸を摩擦で切りまくった。


 ブチッ!ブチブチッ!


 こうして風船の糸は、みるみるうちにどんどんコブハクチョウの体から解けていった。


 解けていくうちに、そのコブハクチョウは落ち着きを取り戻していき、そしてすっかり全部解けると安心しきった笑顔を見せた。


 「・・・ありがとう!つい、茂みに堕ちてた風船に夢中になりすぎて・・・

 私の名前はレミです。」


 ・・・“飛ぶ者の誘惑”に駆られたか。この娘も。・・・


 フッドはそう思うと、コブハクチョウのレミの体を見て回った。


 風船の糸に絡まれたとしては、幸い傷も痣も翼の損傷もなく至って健康だった。


 「君の名は?」


 「フッドです。」


 「フッドさん!自分の落ち度の所を助けてくれて有難う!何か、貴方にしてあげることは・・・」


 「あの・・・」


 「はい?」


 「雄ですか?雌ですか?」「雌です。」




 ・・・えっ?何考えているんだ?

僕・・・




 「雌?じゃあ、僕と結婚を・・・」


 「いいわよ!助けてくれたお礼よ!・・・いたた・・・」


 「有難う!・・・えっ大丈夫?結婚前にリハビリだな。


 栄養つけようぜ!僕が何か食べ物取ってきてくるからね!」


  それからというもの、フッドはレミに再び飛翔する訓練や看病をしていき、数日で完全に元気になった。


 「フッド!」


 「なあに?レミ・・・」


 レミは、あの時にからませた糸についていたオレンジ色の萎んだゴム風船の吹き口をそっと嘴に銜えると、




 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!

 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!




 っと、息を入れて膨らませ始めた。


 フッドは、その雌ハクチョウとは思えぬパワフルな膨らませ方に、胸がきゅんと締め付けられる程に見とれていた。


 ・・・回復が速い筈だ。伊達に雌をやっていないな。肝っ玉母さんになれるぞこの娘は・・・


 レミは、パンパンにゴム風船を膨らませた後、嘴をごにょごにょとして吹き口を結わえ、


 ぽーん!


 と翼で風船をフッドについた。


 「フッドさん!私の愛を置けとめて!」


 「ほいきた!」


 「よっと!」


 「はい!」


 フッドと、レミは一緒にレミの息の入ったゴム風船を突きっこをして遊んだ。


 これが、フッドとレミの結婚の儀式となった。




 パァン!




 「あっ!割れちゃった!」




 割れた風船は、あの幻の湖と同じように白鳥の湖の片隅フッドとレミの愛の結晶として、フッドはあの時メグ女王様に分けて貰った僅かな魔法を駆使し、花にして飾られた。

 

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