10#風船の花畑
「みんな遅いわねえ・・・早めに来て待ってろと言われたって、早すぎで良くね?」
オオハクチョウのメグ女王様の家来のガチョウのブンは、すっかりしびれをきたしていた。
「でも女王様の命令だからねえ。それにしても、湖に墜落したあのハクチョウ達は無事かなあ?ふぁーーーあ・・・」
同じく家来のマガモのマガークも、暇の余り大あくびをした。
「・・・はい!着いたよ。」
オオハクチョウの女王様は、コハクチョウの家族達を連れてきた。
「あっ!無事だったんだ!」
「しーっ!」
ガチョウのブンは、マガモのマガークの嘴を抑えた。
「ブン、マガークや。ちょっと待たせてごめんね!後でご褒美を・・・。」
「ご褒美!」「しーっ!」
今度はマガモのマガークが、ガチョウのブンの嘴を抑えた。
「・・・何これ・・・」
「綺麗だなあ・・・」
そこには、一面色とりどりの花々が咲き乱れていた。
「私、花の匂い大好きなんだあ!ちょっと嗅いでいいかしら?」
母コハクチョウのチエミは、嘴の鼻の孔を一輪の赤い花に触れて嗅いでみた。
「・・・何これ・・・ゴムの醗酵した匂い・・・臭っ!」
「あ、これねえ・・・全部ゴム風船なんだ。家来が森や林の中とか、干潟とか道端や人間のいる街とかで、どこからか飛んできて、萎んだり割れたりしたヘリウム入りのゴム風船なんだ。
そこら辺に落ちていたらゴミになるけど、ほおら・・・!拾い集めると、こんな花壇みたいになるでしょ!その方が風船にとって幸せかな・・・と思って・・・それに・・・」
そう言いかけると、オオハクチョウの女王様は顔を曇らせうつむいた。
メグ女王様が悲しい顔をするのを見るのは、ブンもマガークも久しかった。
「私・・・そのヘリウム入りのゴム風船のせいで・・・もう飛べない翼になったの・・・」
「ええっ?!風船で・・・何で?」
チエミもユジロウも信じられないと思った。
「私・・・あの時まで、普通のハクチョウだったわ・・・みんなと山脈を越えて越冬の渡りの冒険をしたりしたわ。
みんなと飛ぶことが私の生きがいで楽しみだったの。ある時、綺麗ないろんな色のゴム風船の束が飛んでいたのを、列をなして飛んでいた時に見たのよ。
あの時に見とれているだけで良かったのに・・・
私は、群れの仲間の静止を無視して風船の束を取って、持って行こうとしたの・・・
そしたらいきなり・・・
突風が吹いてきて・・・
翼に風船の紐・・・
テープ状の・・・
が絡みついて・・・
私は・・・
私は・・・
うううう・・・
うううう・・・」
突然、オオハクチョウの女王様は大粒の涙を流して泣きじゃくった。
チエミもユジロウもこの話を聞いてショックだった。ゴム風船のもう一つの面の恐ろしさを知ったのだ。
飛ぶものの誘惑・・・
ゴム風船は見た目綺麗なものだが、逆に危害を加える面もある・・・
風船と付き合うのも付き合い方を間違えると、取り返しのつかないことになる・・・
更に、その被害の当事者がここにいることを・・・
「あなた達、今まであの青い風船を追いかけていたでしょ。ここにあるよ。その風船が・・・!」
やっと泣き止んだ女王様は、嘴でその散り散りになって割れたゴム風船をハクチョウ家族の前に置いた。
「あーあ・・・こんなふうになっちゃった・・・でもあの時、物凄いパンク音だったからねえ・・・この世とは思えな
い・・・」
「ばぁーーーーーーん!!」
娘ハクチョウの3姉妹は異口同音に叫んだ。
「これ!ランミキスウ!」
母ハクチョウのチエミはおどける3姉妹を叱った。
「いいじゃないの。元気な娘で。」
オオハクチョウの女王様は、目を細めて温かく見つめた。
「実はね・・・
このゴム風船・・・
私が・・・
膨らませたものなの・・・!
無論嘴で・・・!」
「ええええええ!!!」
ハクチョウ家族は全員ビックリした。
「普通、嘴で風船を膨らませたら浮かないのに何で?」
ユジロウは疑問を投げかけた。
「私はねえ・・・
もう飛べ無い翼になった引き換えに、ヘリウムみたいな空気を吐き出せるようになったの。ほうら、私の声良く聞くと、半音上がってるみたいでしょ?普通のハクチョウと比べて。」
「本当っすかあ?俺には普通のハクチョウの声に聞こえるんだけどなあ・・・」
ユジロウは、更に疑問を投げかけた。
そうハクチョウ2羽が問答を繰り返している所に、突然2羽のカラスが慌てて飛んできた。
「ねえ!助けてよ!おいらの相棒が・・・!」
「ああっ!こいつらは・・・!」
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