Capture

入江浅

第1話

都内 某マンションにて


真っ暗な部屋にPCに向かう一人の男

春香揺(はるかゆらぎ)

17歳、高校中卒、ニート引きこもり、趣味ネカマ


昔からこの名前のせいでいじめられてきた。

この女みたいな名前、そして女の名前みたいなこの苗字。


親を、先祖を、すべてを恨んだ。くそくらえだ。

いっそ女に生まれてたらよかったのに…


‐ふん、豚どもが、簡単に釣られやがって。‐


そう呟く揺はいつものようにSNSでネカマをしていた。

フォロワー15000人、超人気アカウントだ。

こいつらは本当にチョロい。ネットで拾った画像をちょっと加工してあげたらすぐに食いついてくる。

今日は大腿の画像でもアップしてやろうか。


―今日はあったかいから、ショートパンツにしてみたよ!でも足太いからな…

こんな太ももでも好きだよっていう人はRtよろしくね♡―


数分でコメントが山のようにやってくる。

―いい!―

―好きだ―

―膝枕してほしい♡―


無様だな…


モニターの前にほくそ笑む。


にしても女ってやつは良いよな。楽で、チヤホヤされて。俺も美少女に生まれてたらな…


そんなことを考えながら、グッと伸びをする。


ピンポーン、玄関のチャイムが鳴った。

そういえば今日は予約してた新作ゲームが届く日だ。


まあ金は母親が払うだろう。

当然だ。あいつらのせいで俺はこんな目に合ってるんだ。


母親「揺ちゃん。荷物が届いているけど…」


少しおびえた声がドアの向こうから聞こえる。


俺「ドアの前においておけ、後、俺のことを揺ちゃんって二度と呼ぶな」

思わず声を荒げる。


ごめんなさい、ごめんなさいと謝りながら母親の足音が遠くなっていく。


くそがっ。まあいい。さっそくやるか。


段ボールを開きゲームを取り出す。

制作発表から発売まで三年待った本格RPGだ、面白くなかったらぶっ壊してやる。


Gender male/female


もちろん女だ。男でやっても面白くない。女のほうがオンラインで仲間集めやすいしな。


Name HARU


大嫌いな名前だが、こういうときだけ役に立つ。

さて始まるぞ…


オープニングのグラフィックは最高、これは期待通りだぞ。


上がっていくテンションとは裏腹に、強烈な眠気が襲ってくる。

眠るわけにはいかない、俺はゲームをやらなければ。

抗えない眠気、あっという間に揺は眠りに落ちた。

ちゅんちゅん、ちゅん

やかましい鳥のさえずりで目が覚めた。


なんだよ、目をこする。


―ここはどこだ?―


とりあえず自分の部屋ではないことは確かだ。

それにしても…


広大な野原の真ん中とはいったいどういうことだ…

意味が分からない。さては夢か?それにしても妙にリアルだ。

わけがわからない。


あたりを歩き回っていると、小さな泉を見つけた。


―顔でも洗うかな。―


泉をのぞき込む。


―誰だ?―


水面に映ったのは見たこともない女の顔。しかも相当の美少女だ。


自分の体を触ってみる。


―柔らかい―


もともと引き締まった体をしているわけではないが、それにしても柔らかい。


―もしかして…―


自分の胸に手を伸ばす。


むにっ今まで味わったことのない感覚。そう、おっぱいだ。

じゃあ下は…


―ない―


あれがない。見慣れているあれがない。


どういうことだ。

思考が追い付いてこない。

ただこれだけは分かる。


俺は女になってる。

で、ここはどこだ?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Capture 入江浅 @sen_irie

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ