新side7


「どうしてここがわかったの?」

麻希は私を試すように見つめてくる。


「簡単なことです。貴女は、私と同じで裏社会でも副業をしていましたよね。薬物を運び入れたり、お疲れ様です。何となくわかりますよ、貴女と私は似ていますから。良い子であり続けるのに疲れたんでしょう?」

「そこまでわかるなんて、凄いじゃない。そうよ、私は疲れたの。この世界に、ね。最後に話せたのがアンタで良かったわ」

口角をあげて話す麻希。覚悟が決まっている様だ。

「馬鹿なこと言わないでくださいよ、やるべきことはまだあるでしょう」

死ぬつもりだろう。しかし、死なれては困る。あの会社には、まだまだ彼女の存在が必要だ。やり手の社員である麻希が居なくなってしまったら、恐らく会社は傾く。そうなったら、私の収入も激減するだろう。

「らしくもないわね。アンタまで説教?」

「いいえ、自分の為にまだ貴女が必要なだけです」

「……そう。アンタらしいわ」

彼女は頷き、一つ縛りにしていた髪をほどいた。そして、

「またいつか、会いましょう」

東京湾に彼女の身体が沈む音がした。嫌な音だった。

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