霞side 1

その知らせが飛び込んできたのは、昼食を食べ終わり仕事に戻ろうとした時だった。

携帯電話のが振動している。着信だ。相手は、私の恋人である月島紗月。


「もしもし、霞さん」

「もしもし。貴女がこんな時間にかけてくるなんて、珍しいですね」


滅多に動揺しない彼女が、声を震わせている。

彼女が動揺するような、せざるを得ないような『何か』が起こったに違いない。

恐らく厄介事だろうと思いながらも、話を聞くことにした。


「麻希さんが失踪された、ってご存知ですか」


初耳だった。あの強かな女性が失踪?

想像することが難しい。彼女が失踪するなら、まだあの会社の社長の方がしそうだ。


「いえ、存じ上げません。いつからいらっしゃらないのですか」

「私も先ほど落合さんから聞いたので、詳しくは……。ただ、霞さんは何かと彼女とも親密でしたから、何かご存知なのかと」

「とんでもない、ただのビジネスパートナーですよ。彼女が私に心を開いていたとは、到底思えません。

貴女の方こそ、『ご友人』として仲良しだったのでは?」


赤坂麻希。彼女と私の関係は、ビジネス上でのパートナー。

それ以上でも、それ以下でもない。

彼女のプライベートに口を出したことはないし、逆も然り。


だが、失踪したとなれば話は別だ。彼女はあの会社のキーパーソンである。


居なくなる前に、忠告でもすれば良かったのか。


貴女がしていることは罪だ、今からでも良いから戻ってきなさい。


その一言で引き留められたかはわからない。

そもそも、私には人の心なんて高尚なものはわからない。

与えられた仕事だけをこなして生きていく、それが私__永田霞だ。


「そうかもしれませんね、でも麻希さんからは相談なんて一言もされませんでした」

「そうですか。しかし、彼女が居ないというのも困りますね。

こちらでも探してみましょう。貴女は無理をなさらないよう。どうせあの借金取りが探してくれます」


落合新。名前を口にするのは、どうも苦手だ。

胡散臭い笑顔、敬語、その全てが苦手だ。


「そうですね、ありがとうございます。では、お仕事頑張ってくださいね」

「ありがとうございます。では」


私は、そう言い電話を切った。

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