2月5日『遅番2』

「いらっしゃいませーっ! ようこそーセレスタへっ。って、あぁー! 佐藤様じゃないですかぁー。ようこそようこそーっ。ちょっと久しぶりじゃないです? え、一ヶ月ぶり? そうでしょー? 前にお会いした時に年明けのご挨拶したの覚えてますもんー。今日はお仕事お休みなんですか? 平日のお休み珍しい気がする……あっ、やっぱり。え、有給なんですか? 何か用事があってです? えっ!? 仕事のストレスをお買い物で発散!? えー!! それすっごい贅沢なお休みの取り方じゃないですかぁー! えー! 良いなぁー、私もそんな時間の使い方きたいですー。いえいえ、中々お休みもらえないですよぉ。スタッフ多くないですしねぇ。この後はお食事とかでまたちょっと贅沢しちゃう感じです? あ、そうなんだぁ、あそこのスイーツ美味しいですよね、お店の雰囲気もいいし。……ですねー。……あ、このニットですか? そうなんですよぉ、春ニットの新作でお袖可愛いでしょー? ちょっと甘いテイストなので、パンツはデニムにしてるんですけど、私が履いてるワイドシルエットじゃなくてスキニーとかでも合いますし、佐藤様が今履いてらっしゃるスカートと合わせたりしても絶対可愛いですよー、ちょっと持ってきてみましょっか」

「……佐藤様お待たせしましたーっ! 一緒に色違いも持って来てみました。白のニット可愛いでしょー? そうなんですよぉ、白なら合わせやすいしトレンドも外さないし。あ、でもですね、佐藤様には私とおそろでピンクのほうが似合われると思うんですよぉ。佐藤様、カラー変えられたでしょ、髪、それも最近。あ、やっぱり。素敵なお色だし、つやつやなんですもん、分かりますよぉー、だから、そのお色には絶対春カラーのこっちのピンクが、絶対合うと私思うんです。はい、絶対。……白も気になっちゃう? 白も可愛いですもんねぇ。そもそもシルエットが可愛いですよねこのニット。首の開きも鎖骨がほんの少し覗くくらいなんですよ。ちょいエロ? みたいな。悩みますよねぇ。正直、私はどっちも持ってて間違いないと思うんですよ、絶対。って言うかですね、ホントは他にもご紹介したい新作あるんですっ、まだ決めることないですって。え、二つとも? 良いんですか? 私まだまだ持ってきちゃいますよ? え、白とピンクは決定で。……仕方ないですねぇ、でも、今日はお買い物しに来たんですもんねっ、私も最後までお伴しますよーっ。で、さっきニット取りに行ったついでに実は私のオススメもう持ってきちゃってるんですけど、見ます?」


 最終的に一時間、ゆっくり見てもらって、体型的に気になるアイテムは幾つか試着していただいて、『どうしよ、悩む』って言われたアイテムには最初に決まったピンクニットと合わせて着てもらって使い回しの良さを感じていただいて、「昨年の春物でこんなの買われてましたよね」って感じで去年の物で使えそうな物も思い出してもらって。

 あー、またたくさん買ってもらっちゃったなぁー。

 袋に詰めてたら6つにもなっちゃったし、この後はお食事って言われてたから配送にして。

 お見送りして「今度またお休みの時に買われたものの不備とか着回しに悩むものとかなかったか教えてくださいね。いつでもお待ちしてますからっ」って念を押して。

 で、一時間で今日の予算達成しましたーっ!

 あー、楽しい時間だったー。


「ゆかちゃん、またたくさん売ってたね~さすが~」

「あ、ミホさんおかえりなさい」

「ただいも~。もう今日の予算達成した?」

「いぇす! なので今からは今月分の上乗せですよー。へへへぇ」

「すご~い。私も見習わなきゃだ~」

「……ミホさん、私より今月の貯金あるじゃないですかー。やだもぉー」

「私は~ほら、私のお客様が来てくださるかどうかに左右されちゃうから」

「とか言って毎月頭に予算達成させるじゃないですかぁ。やだもぉー」

「えへへ」

「なにそれぇー可愛すぎるしーやだもぉー」


 ちなみにミホさんは一人のお客さんに10万円以上を売る。

 むしろ10万は少ないほうだ。

 ハイブランドではない私が働くセレスタ(select styleの略)で10万円売るのは簡単ではない。

 でもミホさんはそれを一人のお客さんに売る。

 私が一度見たのは、お店の一面の壁の商品を全て購入してもらっていた時だ。

 リアルに「ここからここまで、全部頂戴」を初めて聞いた。

 それでもミホさんは「えへへ~。ありがと~」なんて、本当の友達と話すように笑っていたけど。

 どんな関係をお客さんと築けばそんなことになるのか。

 恐ろしい話である。


「ミホさんミホさん」

「な~に?」

「ミホさんはハイブランドで働きたいは思わないんですか? ミホさんならどこのブランドでも即戦力だと思うんですけど」

「ん~」

「お?」

「興味ないかなぁ~」

「アレ……?」

「今はここで働くの楽しいし。言っても地方じゃない、私たちの街って。そこにあるハイブランドって、どうしても地方にあるハイブランドだと思うの~」

「商品は一緒ですよね?」

「お客様が違うのよ~」

「……なるほど」

「都心なら違うって分かるんだけど、そうじゃないなら、私はここで今のお客様を大事にしたいなぁ~」

「カッコいいッス……」

「やだもぉ~。いちお、選択肢としては持ってるけどね~」

したたかっ! ミホさん強かッス! パねぇッス!」

「フフッ、なにそれ変~」


 ころころと笑うゆるふわ女子。

 堪らんぜ。


 さて、まだまだ私の勤務は始まったばかり。

 ラッキーパンチに甘んじることなくお仕事頑張ろう!


「と、その前に佐藤様が買われたアイテムを顧客リストに書いておかなきゃ」

「マメだね~ゆかちゃんは~。私は覚えても意味ないから顧客名簿作ったことないや~」


 ……怖っ!!

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