1月27日

「先輩おはよーございますー。目の腫れひきましたかー?」

「ゆかちゃんおはよう。うん、なんとか大丈夫」

「本当ですかぁ? 昨日は目の充血ヤバかったですからねー。無理しちゃダメですよぉ?」

「ありがと。もう大丈夫だから」

「……うんっ! ホント大丈夫そうですね。良かったぁ」


 後輩のゆかちゃんが出勤するなり私の顔を覗きこんできた。

 昨日は泣き腫らした目で出勤したものだから、ゆかちゃんだけじゃなく他の同僚、どころか上司にまで心配されてしまって大変だったのだ。

「身内の不幸か?」とか 「失恋したの? 浮気された?」とか「うわっ! 先輩目ぇ真っ赤じゃないですか! ヤバいですヤバいですそんなんじゃフロア出れませんって! 店長帰してくれないんですかっ!? 私言ってきましょうか!?」とか。めちゃくちゃ心配された。

 もちろん最後がゆかちゃんで、あんまりゆかちゃんが私を心配して騒ぎ立てるものだから上司が本当に私を帰そうとしてきて焦ってしまった。

 何とか化粧と伊達メガネで誤魔化して仕事には出たのだけれど、結局同性のお客さまにまで「あなた、大丈夫? 無理しちゃダメよ?」と心配される始末だった。

 あの状況なら大人しく帰っていたほうが良かったんじゃないかと今更ながら思う。

 でもまあ、そんな中終日働いて(その後も何人ものお客さまに心配され声をかけられた)きっちりやるべきことをやって帰った訳だ。

 しかし今日はさすがに腫れはすっかりひいて、万全な状態で出勤したのである。


 まあ、昨日色んな方に心配されるという温かな災難に遭ったのは全てBなのだが。てへへ。

 私ならきっと帰ってたかなぁー。

 Bは本当に真面目だねぇ。

 化粧してメガネかけても誤魔化せないくらいの腫れぼったい充血した目じゃそりゃあ心配されるし、むしろ『この人大丈夫かな?』って不安がられるよね。

 私がお客さんだったらたぶん近付かないもん。

 て言うか『絶対プライベートで何か大事があったのにお休みにしてもらえなかったのかな?』って哀れむと思う。

 ここは『そんな状態でよく頑張ったね』って褒めてあげるべきなのかもしれないけれど、私が同僚ならそんな情緒不安定そうな人と働くのもちょっとしんどいから大人しく帰ってほしいだろうな。

 と言うか上司はそっちだったんじゃないかな?

 私が上司に嫌われてるとかじゃなくて、お客さまを不安にさせるってリスク以外の何でもないし。

 リスク背負って働かせるくらいなら一人減っても残りのスタッフで乗り切ったほうが良いと思う。

 実際そう思って「帰っても良いんだよ?」って言ってくれてたんだろうけれど、Bが頑なに断った。「え? 私働けますよ? 目が腫れてるだけなんで」とか言って。

 真面目なヤツである。


 そんな真面目なBは三日ぶりに交代したあの日の内に資料を作ってしまっていた。

 根暗なくせに律儀なヤツである。

 ぶっちゃけ私は自分のことでいっぱいいっぱいで資料作成どころではなかったので、今朝起きた時にBがちゃんと帰ってきたことと寝ている間に資料が完成してしまっているという二つの安心で思わず二度寝してしまいそうになった。

 と言うか安心感がヤバくて本当に仕事に行きたくなかった。

 でもそれは泣き腫れた目で一日働いたBに対してあまりにもあまりにもなので、本っっっっ当に行きたくなかったけれど頑張って出勤した。

 ちゃんと頑張った私を褒めてあげたい。

 いや、褒めてほしい。Bに。

 ただ……、一つだけ困っていることは、まさかのまさか、Bと交代した後に私の記憶と感情が引き継がれてしまうようになったことだ。

 記憶に関しては前も多少残っていたようなのだけれど、感情まで引き継がれるようになったのがいただけない。

 当然、私の気持ちはBにバレた。

 ちゃんと伝えたかった。気もする。

 いや、もう良いんだけどね、別に。

 この気持ちをドラマチックに伝えることはできなかったけれど、ちゃんとBが帰ってきてくれたのだから、これ以上望むことは無い。今のところは。


 ……うーん。

 なんか、どうしてもBに甘えたくなっちゃうなぁ。

 今までもBには甘えっぱなしだったし甘やかされてきた訳だけれど、今回は何か、そういうのとはちょっと違う。

 単純に甘やかされたいとかじゃなくて、Bに甘えたい。

 いや、違うな。

『Bだけに甘えさせてほしい』かな。

 いや、そうでもないか。

 正しくは、『Bに甘やかされたい。甘々に愛されたい』とかかもしれない。

 絶対に言えないけど。

……あ。これも伝わっちゃうのか。参ったなぁ。

 もうプライベートとか私に無いじゃないか。

 完全に筒抜けだよ。

 実はずっとBにときめいていたこととか、ずっと釘付けだったとか。

 これまでの長い私の偏愛が紐解かれてしまう。

 うーん。困っちゃうけど、参っちゃうけど、Bが私の中から居なくなっちゃうことよりは遥かにマシだなぁ。

 あんな空虚で辛い気持ちになるくらいなら、お互いに気持ちがバレあって恥ずかしがり合うほうが五千兆倍良いや。

 ……てかまあ、相思相愛なんだしね。てへへ。

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