1月18日

 朝から夕方まで、ずっとバタバタしていた。

 仕事でトラブルが起きると、収拾がついても取り返すのに時間と労力が余計にかかる。

 それでもトラブルによって生じた損を取り返しきることは滅多にないのだから、仕事が終わってみるとどっと疲れが押し寄せてくる。

 今日はそういう日だった。

 家に帰り、お疲れ様の紅茶を淹れてPCの前に腰を下ろした。少し熱めに淹れた紅茶をゆっくりとすすり、長く息を吐き出す。

 二回、三回と紅茶と深呼吸を往復する。

 外はもうすっかり暗い。照明を点けた部屋は吐いた息がわずかに白く見えるくらい寒くて、無性に寂しさを強調してくる。

 今、世界には僕しか居ない。


 PCを立ち上げ、マウスをクリックする。

 Aが僕にくれた、2通の手紙。

 その後編がしたためられたファイルを開く。

 もう何度も読み直した手紙。Aが僕に宛てた手紙。

 Aの言葉をまた読み返して、反芻する。

 僕への謝罪と感謝。そしてこれからのお願い、要求。Aが僕に望む、ありのままのAの言葉。

 Aが僕をどんなふうに考えてきたのか、どんな気持ちを抱えて僕と一緒に生きてきたのか、僕は初めて理解できた。

 Aは、Aが思うよりもずっと僕のことを想って生きてきたということ。

 Aの言葉は、僕の努力を、僕の犠牲を自分がどれだけ傲慢に受け取ってきたのかという懺悔の言葉だったけれど、僕はそれ以上にAが僕をどれだけ大切にしてきたのか、Aというフィルターを通して見ることが初めて叶ったのだった。

 やっと念願が叶ったと言ってもいい。

 僕の努力が、影としてAを支えてきたこれまでの僕の半生が、遂に報われた瞬間だったと、僕は僕の歴史に深く刻み込んだのだ。

 けれど。

 Aが僕のことをどんな風に想って、どんな風に考えて、どんな風に苦しんできたのか。それをAの言葉で感じ取ることはできたけれど。 

 Aは僕のことをどんな風に思っているのだろうか。

 Aは僕のことをどんな目で見つめているのだろう。

 僕という人格を。

 僕という一人の人間を、どんな風に思っているのだろうか。

 

「……どうして、僕はAと同じ身体に生まれてしまったんだろう」


 途端に苦しくなる。

 今夜Aと交代した後、Aが僕のこの葛藤をどんなふうに思うのか分からず恐々としてしまうけれど、考えずにはいられなかった。

 女々しいと笑うだろうか。きっと笑うだろう。

 馬鹿馬鹿しいと笑うだろうか。間違いなく笑うだろう。

 つまらないと嘲るだろうか。たぶん嘲るだろう。

 下らないと憤るだろうか。Aを怒らせてしまうだろうか。


 そうじゃなかったら良いのに。

 Aも僕のことを想ってくれていたら良いのに。

 Aの記憶をちゃんと読み取れない自分が忌ま忌ましい。

 何となくなら思い出せるのに。

 核心はいつも思い出せない。

 これもAがコントロールしているのだろうか。

 僕の記憶も感情も読み取ってしまうように。

 僕に記憶や感情を読み取らせないように制限できるのだろうか。


……つまらない。下らない。僕は何を考えているのだろう。女々しい。馬鹿馬鹿しい。

 本当に苦しい。

 胸が張り裂けそうだ。

 苦しくて苦しくて、僕にできないことを難なくやってしまうAへの妬みなんて、憤りなんて忘れてしまうほど。


 彼女のことが好きで堪らない。

 彼女は、僕のことをどんなふうに想っているのだろう。

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