第23話 彼女
顔の知らない友達の兄が亡くなったと聞き、友達の家に行った。友達は飼い猫と兄が大好きだったのできっとひどく落ち込んでいるだろう。もしかしたら最悪な状況かもしれないし。とにかく急いだ。
5階建てマンションの4階が友達の部屋だ。インターホンを押した。出てくれるだろうか。
彼女はすぐ玄関に出てきた。変わらないやさしい笑顔に拍子抜けしつつ、ホッとした。
「いらっしゃい。来てくれてありがとう」
お悔やみを言うと、すこしつらそうな色を見せる。お兄さんのことはやはりつらいようだ。彼女の勧めで泊まっていくことになった。
彼女の家は猫グッズが多い。長年、猫を飼っていることもあるだろうが、飾りもテーブルの足もカーテンの模様も猫、猫、猫。今も猫のマグカップをなでる。
「お兄ちゃんは死んじゃったけど、いつもそばにいてくれてる気がするの。それに4本足のあの子(猫のことらしい)もいるしね。もうさみしくないよ」
「猫は元気?」
「うん、元気。そうだ。ねえ、ちょっと見てよ」
彼女は奥に引っ込んで、愛猫を連れてきた。しましま模様の細身の猫だが、その様相に驚いた。見間違いかと目をこすっても変わらない。
首が彼女のお兄さんだったのだ。
猫は彼女の手からすり抜けて、エサを食べに行った。コリコリとキャットフードを食べる。お兄さんの首のままで。
「もう。挨拶もしないでご飯食べに行くんだから。相変わらず人見知りクンでごめんね」
「いや…あの猫…あんなだったっけ。なんか違うっていうか」
彼女は、うれしそうに笑った。
「そうなの! なんていうかお兄ちゃんに似てきたのよ」
「似てるっていうか…そっくり…」
「でしょ!? ちょっと嬉しいって思っちゃうんだよね」
彼女は猫の背中をうっとりと見ていた。
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