31 気付きませんように

好きになってはいけない人だった。

それなのに君に惹かれていく自分を止められない。

どれほど思っても君は俺のものにはなってくれないというのに。

だって君は、



「おにいちゃんおむかえありがとー!」



俺の妹だから。

それも小さな幼稚園児。

犯罪にもほどがある。

許されることではない。

けれど生まれたその瞬間から、妹に惹かれて止まない。


幼稚園に迎えに行けば、妹がぎゅうっと抱き付いてきた。

可愛らしいその態度に頬が緩む。



「お迎え遅れてごめんね?なお」


「ううん!だいじょうぶだよ?みかげせんせいが、いっぱいあそんでくれたもん!それよりおにいちゃん聞いて!聞いて!きょうはね、だいきくんと、みかちゃんと、おままごとしたの」


「そっかー。楽しかった?」


「うん!なおちゃんね?おかあさんの役やったの。みかちゃんがあかちゃんなの」


「へぇ?じゃあダイキくんがお父さん?」


「そうなの!でもね?ちょっとあそんだら、だいきくんおままごとあきたっていってね、おそとにあそびにいっちゃったの」


「……へえ?そうなんだ。それは残念だったね」



ぷんぷんと頬を膨らませるなおは可愛らしいが、



(それにしてもダイキくん、ねぇ?)



なおとおままごとするなんて俺だったらなおが飽きたって言うまで付き合うのに。

それもなおの旦那役なんて羨ましい事この上ない。

確かにおままごとは男の子にはキツイかも知れないけれど。

そんなことは関係ない。


心の狭い俺はなおが他の男の名前を口にすることすら嫌で。

それでも“普通のお兄ちゃん”はそんなこと言わないから。

よしんば言ったとしても、それはまだ家族愛の内が殆どだろう。


それならどれだけ良かったか。

別段、なおを女として好きなことに後悔はない。

けれどせめて家族じゃなくて、妹じゃなくて、他人だったなら。

そう何度思ったことか。

それならまだ、なおが俺を好きになってくれる可能性があったと夢見れるというのに。



(それでも家族だからこそ、なおを守ってあげられる)



誰よりも近くで、誰よりも早く。

この、小さな女の子を。



「おにいちゃん!」


「ん?なぁに。なお?」


「あのね、いつもおむかえありがとう!だいすき!」


「……お兄ちゃんも、なおが大好きだよ」


「えへへ、うれしいなぁ」


「そう?なおも嬉しいと、お兄ちゃんも嬉しいな」



大好きだよ。

本当に。君を愛してる。

だから君がいつか、俺の想いに気付きませんように。

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