第55話成らぬ堪忍するが堪忍

「ちょっと! なんなのよ!」

「まあ、まあ、お嬢ちゃん。いいじゃないの、『そでふれあうもたしょうのえん』って言うんだしね、ここはあたいらと知り合いになれたと思えば、安い物さ」

「さすが、姉さん!」

「うん、すごいね!」

そう言いながら、ルキの後ろの席に座る三人。


ルキはそれ以上言うつもりがなかったのか、拳を握りしめて、黙って再びあんみつを食べはじめていた。

ルキの後ろに男たち、私と目が合う位置には、あのドルシールが座っていた。


正直あんた達に会う予感はしてたんだ……。


あの日から、事あるごとに泉華せんかはこの三人を映し出していた。

この三人については、その善悪を判断しかねる事が多かった。

この街に一時期のさばっていたゴロツキどもを一網打尽にして、自分の部下に収めたのはいいけど、それからも好き放題させていた。


普段は街の外のどこかに住んでいるようだったので、街の人たちはそれほど多くの被害にあったりしていないようだった。

でも、たまに街にやってくる元ゴロツキの手下どもは、街の人から嫌われており、一度自警団ともめたことがあった。

その時、ドルシールは自警団を完膚なきまでに叩きのめしている。


でも、それから元ゴロツキの手下どもは、街に来ることは無かった。

住処にかえった途端、悪さをしてた奴らは、ドルシールの手によってかなり痛めつけられていたからだろう。そこからは秩序が生まれたのかもしれない。


私の中では、ドルシールは何者にも縛られない自由を手にする代わりに、弱い人間の自由も守ろうとする気持ちがあるとみている。ただ、自分の家族同様の手下に手を出されるのも好まないようだった。

例えるなら時代劇の親分って感じだろう。

泉華せんかはよほど気に入ったのか、色んな情報を集めていた。


年齢は二十歳くらいだということまでわかってしまっている……。


何故か、こちらに向かって手を振るあたり、よほどあんみつが食べたかったのだろう。

でも、目の前のルキが、怖い顔で睨んでいる以上、微妙な笑みを浮かべるしかない。


「はい、おまちどうさま。ヴェルド君、すまないね。でもまあ、ヴェルド君にとってはいい事かもしれないね」

おかみさんは状況を理解しているのだろう。

そして、ドルシールの性格もひょっとしたら知っているのかもしれない。上機嫌であんみつを食べ始めたドルシールは、もう私のことなど眼中にないようだった。


はやく、このあんみつを食べて、街に行こう。


そう思った時、真剣な顔で、ルキが私の手をつかんできた。


「ちょっと鈴音すずねの力で、あっちの会話聞こえるようにして。なんか、うさんくさい」

身を乗り出して、私の手を握ってくるあたり、少しだけ何かを聞いたのだろう。


私は聞かないようにしたかったのに……。


でも、そう言われた以上、無視することもできない。鈴音すずねにそっと声を運んでもらうことにした。





「もう、これだけ頼んでも駄目だなんて、本当にあの館長は頭が固い」

「え? 姉さん。奴の頭なんて、いつ、どついたんですか?」

「ちがうよ、ガドラにい。頭が固いってのは、言うことを聞かないって意味だよ」

「なるほど、そいつは固そうだ。なんなら、わってきやしょうか?」

「よしな。そんなことしたら、あたいが弱い者いじめしてるみたいじゃないか」

「そうだよ、ガドラにい。それに、前にドルシール姉さんが言ってたじゃないか。これは『さんこんのれい』だって」

「なるほど。そういわれると、そんな気がしてきた。そうか、『さんこんのれい』か……」



鈴音すずねの力で、聞きたくもない話がまたやってきた。

泉華せんかの魔法で展開された映像の前で、こいつらにどれだけのつっこみ・・・・を繰り返したことか……。


今また、あの果てしない戦いが繰り返されるのだろうか?

こいつらは、あれからことあるごとに『カレーのひ』を作り出し、全員で仲良く食べていた。


どんだけ、カレー好きやねん!


と思わずつっこみ・・・・を入れたのがまちがいだった。

一度つっこみ・・・・を入れた以上、もう後には引けなかった。


それにしても、この世界に格言やことわざ、故事などが結構導入されていた。

五百年にわたって、色んな人が勇者として召喚されたんだ。中には、マニアみたいな人がいたとしても不思議ではない。

でも、正しいものと、そうでないものがあった。


もしかしたら、中には間違って覚えたものを伝えた人がいたのかもしれない。

もしかしたら、間違ってこの世界の人が覚えたのかもしれない。

あの組合長ですら、たまに間違って覚えているから、たぶん色々理由があるだろう。


だから、余計にややこしい。


個人の間違いなのか、勇者が間違って広めたのか判断つかない。

漢字が導入されてない分、読み方を間違って覚えた人が導入したものは、多分勇者だと思う。

でも、『晴れの日』を『カレーのひ』として伝えるとは思えない。

この場合は、五百年の間に少しずつ歪み、そしてそれを訂正する人がいなかったという事かもしれない。

『はれのひ』が『はれーのひ』となり、『かれーのひ』となったのだろう。

カレーは料理として導入されているから、親しみやすかったのかもしれない。


しかも、それを知っている人は、一部の知識人だから、厄介さに輪をかけてしまっている。

私が勇者だと知っている組合長でも、間違った意味を訂正するのにかなり苦労した。そうじゃない場合、とんでもない苦労になってしまうだろう。


正直、そこまでの労力をかけるほど、私はことわざとかに、愛着があるわけじゃない。


私だって、間違って覚えていることもあるかもしれないのだから……。


でも、知ったかぶりして話すのだけはやめておこう……。



「でもよ、姉さん。その『さんこんのれい』をもってしても、あの館長は言うこと聞きやせんでしたぜ。『さんこんのれい』のやつも、あんまりたいした力ないんじゃありやせんか?」

「いや、ガドラにい。そう考えるのは、早いと思う。ドルシール姉さんがこだわったんだ、『さんこんのれい』にはまだ隠された力があるに違いない。僕らはまだ、『さんこんのれい』の真の力を見ていないのかもしれないよ」

「なるほど、それもそうか。さすが姉さん。そこまで考えているとは、知りやせんでした。それにしても『さんこんのれい』の真の力、いったいどんな力なんだ?」

「そりゃ、あの館長もひれ伏すくらいにすごいと思うよ、なにせ『さんこんのれい』の真の力なんだから」

目の前で、二人の男の背中が『さんこんのれい』で盛り上がっている。


もう、我慢も限界だ。

どんだけ『さんこんのれい』で引っ張るんだ、お前ら。


ていうか、そもそも『三顧の礼』だろ!

なんだよ、その『さんこんのれい』って?


『サンコンの礼』なのか? サンコンさんっていったい誰? いつ? 何のお礼に行った?

真の実力ってなに? サンコンさんってどんな力もってるんだ? 何を期待してる?


いや、まさかの『サンコンの霊』? サンコンさん、未練すぎて成仏できないってやつ? そりゃ、こわいだろうな、真の力ってのは、呪いか何かか?

でも、何の未練だ? 気になるじゃないか!


いや、まさかの『三婚の礼』?

この世界、勇者は一夫多妻制だって聞いたけど、普通に重婚なの? だからお願いするのか? 真の力って、同性もありってことなのか?


つっこみ・・・・を声に出して言えない分、頭の中でめまぐるしい攻防を繰り返してしまった時、目の前で小さく悪態をつくルキの姿がそこにあった。


まさか、『三婚の礼』に怒っているのか?

でも、意識を目の前に持ってきたせいで、ドルシール達の会話がまた耳に入ってきた。



「さて、こっちは『さんこんのれい』で礼儀を尽くした。でも、それでもだめだったんだ。違う手を考えるしかない。しかし、あのわからずやの頑固頭を、どうやって納得させるかだが……」

真剣に考えるドルシール。

『さんこんのれい』になっても、意味はちゃんと知っているんだ……。

よかった、真の力とかなくて……。


それだけに、『さんこん』になったのはとても残念だ。でも、よけいに『さんこん』が分からなくなってきた……。


いや、もうよそう……。

こいつらにつっこみ・・・・を入れ始めたらきりがない。今は口に出してないからいいけど、春陽はるひたちは、やや引いた眼で私を見ていた気がする。


それにしても、ルキは何が気になったのだろう。

話の流れからは、入館許可証が下りないで困っているといったところのようだが……。


たしかに、ここの図書館に入るには入館許可証がいる。そして、それには推薦状がいる。

それが無いとまず許可されない。


推薦状はどんな人でもいいわけじゃなく、この街である程度認められている人だとか、この街での実績がある人からも推薦状は必要になってくるらしい。

私の場合は推薦状が王国発行だったから、すんなり発行されたようなものだ。

あの時に、通常はかなり大変だとは聞かされた。でも、それだけ重要なものが管理されている。


魔術師でもないのに、ここに用事があるということは……。

この人のことだ、たぶんあれを見たいからに違いない。


でも、あれを見たらもっと残念なことわざとかが増えてしまうだろうな……。



「ともかく、入管許可証がないのは困るんだよ……。この国に保管されているという伝説の『かくげーん』の書と、『ことワザ』の書が見れないじゃないか。特に、『ことワザ』の書は四十八の国にそれぞれ一つずつ分かれておいてある伝説の書だよ。それを見れないんじゃ、この国に来た意味が半分くらいないんだよ」

「そんなすごいものが、あの図書館の中に!」

「それってたしか、四十八の必殺のワザって言ってたやつですか! ドルシール姉さん!」

男たちの熱い質問に、黙って答えるドルシール。

目の前のルキは、なんだか必死に何かをこらえていた。


わかる。

わかるよ、その気持ち。


『かくげーん』は、もういい。あきらめた。

間延びした分、折角のいい言葉たちが台無しだが、仕方がない。

中身で頑張ってもらおう。


でも、なんだその、四十八の必殺技って!

技なのか? 『ことわざ』って、そんな技だったのか?

しかも、後から『実は百ありました!』とかないよな!


必死に耐える同志を目の前にして、やや気持ちが落ち着いてきたとき、全然意味が隠されて無い言葉が目の前ではじけた。


「姉さん、さっきも言った通り、やっぱり館長の娘をさらってきやしょう。なに、一時的に俺たちの隠れ家に遊びにつれていくだけですぜ。『丁重にかどわかす』ってやつですよ」

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