第一章 第四節 魔王斑の子供たち
第36話出会い
恐らく最悪な目覚めというのなら、今この瞬間がそうなのだろう。
意識を深淵の闇の中に閉ざしていたはずなのに、何の準備もなく、一気に引き上げられたような気がした。
「おはよう、ヴェルド。気分は……、最悪だよね……。でも、こうしてまたお話しできて、私はうれしいよ」
目の前にとんできた
心地よい風が、頭の上から吹いている。足元はほんのり暖かく、頭の方はほんの少しだけひんやりとしている。
体のあちこちがぷよぷよした何かにくるまれていて、気持ちいい。
「皆、そなたの起きるのを待っておった。もちろん、この私もだ」
「汝が我が元にあるのを感じておった。どうだ? 我とあるのは心地よかろう? だが、いいかげん我も飽きてきた。汝を皆にかえしてやろう。クックック」
相変わらず、
しかも、お腹にかかっている毛布の間から、ごそごそと這い出してきたってことは、
「何があったのか見ますか? あなたの意識がなかった時のことは、しっかりと記録させていただきましたわ。ええ、もちろんあなたの恥ずかしい姿もごらんになりますか? うふふ、もちろん、あたしのお願いを聞いていただけたらですけどね、ふふふ」
「よし、起きるんだ! お前のそんな姿をもう見飽きた。起きたらすぐに、特訓だ!」
足元から
「いや、まずは体力の回復だよ。それに、傷の治りは問題ないけど、いきなり起きたらびっくりするよ。ここでは、ヴェルド君は勇者であることを隠した方がいいと思う。そのために、ボクらは隠れてたんだからね」
私に背を向けながら、二人の目の前に
すかさず目の前にやってきた
思わず、首を縦に振る。
「簡単に言うと、ヴェルド君は森で少年とその姉弟に助けられて、ここで看病を受けている。ボクが探ったところによると、この村はちょっと特別な事情があるようだよ。あの布と関係があると思う。おそらくだけどね。それに、あの犬がこの家にいたからね。確か布は持ってたよね。持ち物の大半はあの時置いてきちゃったけど……」
一種の漫才のような雰囲気だ。
そして、
勇者であることを隠すか……。隠すも何も……。
「よかった……」
さっきからおでこをぺちぺちと叩いてアピールしている
そんな姿に、つい頬がほころんでしまった。
「なに、ニヤついてんねん。ほんま、そんなんで嬉しがって。ウチらがどんだけ心配したか、あんたわかってんのか?」
声の方に顔を向けると、窓際で
皆がそばにいてくれる。
こんな私でも……。
今はただ、その事がとてもうれしかった。
その時、足元の方――玄関を抜けたその先から人がやってくる気配がした。
意識しなくても、警戒をしている自分に思わず苦笑する。
ここは室内で、周りに人はいないことはすでに把握していた。
「体に染みついたものって、なかなか取れないものだな」
たった半年のことだけど、それでもそう感じてしまう。
やってくるのは一人、子供だ……。しかし、この感じは……。
一斉に消える精霊たち。
そう、それこそが嘘つきの私にはふさわしい。
再び目を瞑って、様子を見るのは簡単だ。
でも、さっきとは違う。
皆がそばにいてくれるのを、今の私は感じている。
ただ、それだけで自然と心は落ち着いていた。
落ち着いた心は、周囲の状況をさらに探っていた。
この周囲には、他に人はいない。もう少し意識を拡大すると、それなりに人はいた。
たぶん、村のようなものなのだろう。
でも、得られたその感じでは、かなり不自然な気がする……。
なんだ、この村は?
意識をもっと外に向けて拡散したかったけど、もうそこに接近する人がきている。
それは後で探ってみよう。
とりあえずは、目の前の問題を片づけなくては……。
*
扉が開く音がしてから、ゆっくりとその方を見た。
まだ相手は気付いていない。
肩まで伸びる銀色の髪が、汗で顔にまとわりついている。
恐らく私よりも年下。
小柄で痩せている感じから、この村の生活がうかがい知れた。
重そうな荷物を床に置き、額の汗をぬぐいながら、一息ついたところで、その少女と目があった。
「あ、起きたんだ! よかった! 君、二日も起きなかったから心配したんだからね!」
まだ幼いながらも、はっきりとした口調の少女だった。
逆光の中、その表情は見えないけど、優しさを感じる。
そして、とても温かで強い光が、淡く少女を包んでいた。
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