第20話勝負の結果、得たもの
心地よい風と温かさを感じて、ゆっくりと目を開けてみた。
「あっ、気が付いたみたい」
すぐ目の前に、心配そうにのぞきこむ
「ああ、大丈夫みたいだ……」
不思議とまったく痛みはなかった。
頭と首と背中に、ひんやりとした感覚がある。目の前にいる精霊たちのはるか先に、
どう考えても、私は今、地面に寝かされている。
「何があった? どのくらい寝てた?」
まだはっきりとは思い出せない。
でも、ここでこうしているということは、意識を刈られるほどの攻撃を受けたという事だろう。
あれだけ集中してたのに……。
比較的意識がはっきりした今でさえ、全く思い出せない。そうなると、動きそのものを完全に知覚できなかったという事になる。
上体だけ起き上がり、改めて状況を確認した。
頭の上にあった氷は、その役目を終えて消えていた。
しんと静まり返った
負けたんだ……。
多分、自分の力を出し切ったと思う。それでも、かなわなかった。
そうか、これが負けたという気持ちなんだ……。
公式に、本気に、勝負したことは今までなかったから、負けたことなんて一度もなかった。
落ち込む気分は視界を狭くしていった。
「んとね、あっという間だったよ」
いきなり目の前に、
どこまでも、明るい調子のまま、
「まさしく、風のごとしだな」
「いや、影に隠れたのだ、我の眼はごまかせん」
その隣で、闇の精霊の
「記録しているけど、あたしのいう事聞いてくれたら見せて、あ・げ・る!」
後ろから
水の精霊らしく水球を目の前に漂わせてきた。何かが映っているのが分かる。でも、それを見ようとすると、途端に遠ざけて、艶めかしく自らの唇をなめていた。
一体何をさせられるんだか……。
でも、その記録には興味がある。思わず、顔をあげていた。
「俺を使う間もなかったな! 次は最初から俺を頼るんだ!」
自信たっぷりな
それだけ高い声で、男言葉を使っても無駄な気がするけど、それを言うと怒られるからやめておこう。
「ヴェルド君、本当に大丈夫? でも、本当にいきなりだったね。最初の手刀の一撃で、すでに意識なかったみたいだけど、実はその後も殴られてたよ」
なるほど、手刀か……。首を刈られたのか……。それで、いきなり意識を飛ばされてたんだ……。そう言われても、思い出せない。
なるほど、その一撃を感知できなかったんだ。だから、その後も思い出せない。
「治療……。済み……。大丈夫……。です」
マリウスは一応宣言通り治療はしてくれたんだ……。だから、それほど痛みはないんだ……。
ただ、首と頭のひんやりとした感覚は、
お礼を言うと、黙って頷いている。
表情は変わらないが、何となく嬉しがっていることは分かった。
「ふん、さっさと立ち上がれ、馬鹿者。かっこつけるから、そうなんねん」
一人だけ少し離れた場所に雷の精霊、
その口調は天然なのだろうか? 似非関西人も真っ青な話し方だ。
体長十五センチメートルの小さな精霊たち。戦いに負けた私を、この場所で見守ってくれていた精霊たち。まだ、知り合って間もないけど、なんだかいろいろ知っている気にもなっている。そして、この子たちを見ていると、なんだか元気が湧いてきた。
精霊契約の不思議なところだ。
不思議な事といえば、ミストの精霊とは明らかに違う姿をしている。その姿をあらためて眺めてみた。
巫女の衣装を着た
黒いダブダブのコートに、何故か短めのスカートをはいている
まるで水着を思わせるような服装の
部分鎧に、真紅のマントがよく似合う
地味なフード付コートに隠れているが、青く長い髪の
氷の扇にロングスカート。良家のお嬢様のような装いをみせる
一人だけ離れている
そして、
あの時、
「まあ、いいか。今のままではマリウスには勝てない。今度はみんなの力を借りて再戦と行こう!」
結局、この世界にやってきて初日にマリウスの洗礼を受けたということだ。
悔しいけど、これが現実。
そして、私一人の力では今はまだかなわない。
精霊たちが小さな体を寄せあって、私の両腕を引っ張っている。
私を立ち上がらせようと、お互いに掛け声をかけ合って、懸命に引き上げている。
これまでの私は、何となく生きていて、最後は親友に殺された。そして、この世界に連れてこられた。
そして、何となく戦いに身を投じた結果がこれだ。
自分の力を過信して、忠告を聞かず、助けを求めなかった結果がこれだ。
でも、私は一人じゃない。そして、今は何となくじゃない。
まずは、この世界を知ろう。この世界を感じよう。この世界を生きてみよう。
そうすれば、何かが見えるかもしれない。
少なくとも、精霊たちがついてくれている。
情けない姿を見せても、そばにいてくれている。
そして、私に立ち上がる力をくれている。
「よし、まずは装備を見に行ってみよう」
今度は負けない。
引上げられる力を利用して、私は再び立ち上がった。
座っていた時とは明らかに違う風景。
何となくじゃない。
流されているんじゃない。自らの意志を、あらためて精霊たちに伝えた。
「そして、次は勝ってみせる」
相変わらず、勇者が何かは分からない。
目的のない勇者に何の意味があるのかもわからない。
でも、分からないことだらけのスタートだけど、初めて真剣に立ち会って、そして負けた気分を味わった。
だったら、次は勝つしかない。
歩き出した私の前に、
精霊たちは、皆私と共に歩んでくれている。
小さな精霊たちだけど、本当に心強かった。
その先には、ここに来るまでに見たものとは、違う景色が広がっているに違いない。確信をもって、そう言える自分が誇らしかった。
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