第62話 野生、開放

「よく集まってくれたのですお前たち」

「よく聞くのです、我々はこれからあの船に…」



「「攻め込みます!!!」」




 長の二人は、かばんが船に連れ去られたことを知るとすぐに島中のフレンズを丸一日かけて集めた。


 そしてここに宣言する。


「連中はシロとの取り引きを破り危害を加えてきたのです」

「かばんが拐われました、故に…」


「「もう我慢する必要はないのです!」」


 シロもかばんも… すでに島のフレンズ達にとってなくてはならない存在だった、そんな二人が卑劣な連中の手に落ちたことを知ると、長を始めとした島中の皆が激怒した。


「共に戦おうと言うものは我々とくるのです!」

「シロとかばんを奪還し、連中に目に物見せてやるのですッ!」


「御託はいい、さっさと私を船に連れていけ…!」


 怒りを露にし、低い声で唸るように言ったのはシロの姉、ライオンである… そして。


「ライオンと同意見だ、私も連れていけ!」


 続いてシロの師であるヘラジカも立ち上がり、彼らのためにその槍を振るい戦う決意を見せた。


 二人だけではない、すべてのちほーのすべてのフレンズ達が仲間の為に戦うことを決意していた。


「お前たちの心、しかと受け取ったのです!」

「しかし船は港から少し離れた沖にあるのです、まずは精鋭をつれて飛べる者が船に連れていくのです!」


「他の者は港で待機するのです!」

「二人を奪還後すぐに安全なところへ誘導!追っ手を撃退するのです!加減はいらないのです!」


 皆の心をひとつに、長は作戦を伝え指揮をとった。


 フレンズ達はこの日… 始めてセルリアン意外の生き物を敵と認識し、戦いのために一致団結した。


「そうと決まれば港へ急ぐのです」

「我々の群れとしての力をみせるのです!」


「「オーッ!!!」」







 日が沈みかけていた。


 港に着いたフレンズ達は夕暮れ空の下に佇む巨大な船を睨み付けた。


「今行くのです、シロ!かばん!」

「精鋭達は鳥のフレンズに掴まり船を目指すのです!」


 しかし、二人が声をあげ船を目指そうと地面から足を離した時だった…。

  



 ガァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!



 咆哮… 雄叫び… ビリビリと空気が揺れる感覚を味わうほどの大きな鳴き声が海から港へ響き渡る。


 その声に、フレンズ達は思わずたじろぎ、恐れ、怯んだ…。


「博士、まさか今のはシロでしょうか?」

「まずいのです… ということはかばんの予言が的中してしまったということでは…!」


 続いて船が揺れ始め港に波がたち始めた時、皆すぐにわかった「彼が怒っている」と。


「早く連れていけ!今度こそ私が弟を助けるんだ!」

「危険な道具を使うんだろ連中は!すぐに加勢させろ!」


「待つのですお前たち」

「博士、ここはやはり…」


「そうですね助手、1度我々だけでいきましょう!」


 長は殺気立つライオン達をなだめ一旦港に残らせた… 先に飛び立ち、自分達自らが偵察に向かったのだ。




 二人とも… どうか無事でいるのです!







 バギィィィィン!!!


 

 豪快な金属音と共にシロの手枷足枷は容易く破壊された。

  

 彼はまっすぐ前を睨み付け何も言わぬまま素早くその場に踏み込むと、己の妻に群がる男達のうち数人を同時に…。


 ズシャア!!!


 自慢の爪を使い八つ裂きに、血飛沫があがる。


「嘘だろ!?このバケモンめ!」


 その場にいた一人が放つ銃声が鳴り響く、それを物ともせず彼は姿勢を低くしてまっすぐ突っ込むと、そいつの腹部に向かい…。


 スバァ!!!


 手刀を突き刺した、また血飛沫があがる。


 この間ほんの数秒のことである、彼はこの時怒りに任せ初めての殺人を犯していた。

 

 それも数人の命を同時に奪ったのだ。



「ガァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」



 怒れる獅子の咆哮が船中に鳴り響く。


「バカな!あの錠は簡単に壊せる物じゃないのに!?」


「社長!?彼のサンドスターの数値が…!」


 首謀者の男と白衣の男がその光景に腰を抜かし床に尻餅をついていた、白衣の男は何か計測器のような物を彼に向けると叫んだ。


「通常のフレンズのおよそ10倍に!?」


「バカなことを言うな!アイツはハーフだ!通常よりサンドスターの数値が少ないはずだ!それが10倍?故障に決まっている!」


「どうだっていいんですよもう!?我々はもうおしまいです!あのモンスターにみんな殺されるんだ!?」


 そいつらを含む数人の乗組員は一目散にその部屋を飛び出した… 残った兵士たちは彼に攻撃を加えたが、彼の体を突如“炎”が包み込み銃弾をすべて焼き払った。


 今の彼には傷ひとつつけられない。


「グゥラァぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああAAAAAAAAAAAAAAAA !!!!!!」


 全身を纏うサンドスターの光は彼の両手に巨大な爪を作り出し、その場にいた5人や6人をまるで紙切れのようにバラバラにしていった。


「嫌だ!?助けてくれ!?うわぁぁ!?」


 

 ズシャァ!!!

 


 やつらの言葉にその猫の耳は貸さず、代わりに爪で死をもたらしていった。


 返り血を浴びても気にも止めず、妻に乱暴した連中を容赦なく葬っていく… やがてその部屋に残ったのは人間“だったもの”だけとなり、彼はその血に濡れたシャツでうずくまる妻を包み優しく抱き上げた…。




「シロさん… シロさん…」


「もう、恐くないよ?大丈夫、君に乱暴するヤツはもういない… さぁ行こう?決して振り向かないで?」


「はい…」

 

 彼の雪のように白く美しかった髪は、血を浴びて真っ赤に染まっていた… だが、そんな彼をかばんが恐れることはなかった。

 

 寸前で助かったとは言え、かばんは自分に起きた現実にひたすら怯えていた… そして、なにより彼に野生開放をさせてしまったという事実が彼女を悲しみで包んだ。


 このままでは予知通り彼が… 彼女はそれを尤も恐れている。

 

 彼はそんな震える妻を抱きかかえ立ち上がる、怯えきっていた彼女はギュウと彼にしがみつき、二人はそのまま何も言わずその死体だらけの部屋を後にした。




 やがて船ではサイレンが鳴り響き、事態を乗組員に伝え始めていた。


 そこに我先にと逃げまとう男が一人。


「はぁ!はぁ!さっさとこんなところからは逃げなければ!あの化け物に見付かる前に…!」


 首謀者の男は救難ボートに乗り込もうと甲板を逃げ続けていた、しかしそんなヤツの元へ二つの影が降り立った…。


「どこへ行くのです?」

「無様ですね?」

「「人間…!」」


 長… 博士と助手だ。


「っ!?長のフクロウ女ども…!おい!私を助けてくれ!望むのもなんでも手配してやる!取引だ!お前たちにとって特にしかならないようにな!」


「取り引きなど… 今更すると思うのですか?」

「お前、自分が何をしたのか理解できていないようですね?」


 長の二人は逃げまとう男を追い詰めその罪がいかに重いかと怒りの声を上げた。


「お前が犯した罪を教えてやるのです!フレンズ達を愚弄し、見下し、そしてオモチャにするために一人の仲間を拐った!」

「そしてお前が手を出したのはパークでもっとも怒らせてはならない男の妻…!」


「「覚悟をきめるのですね?」」


「ヒトモドキが偉そうに…!動物なんて人間が守ってやらないと簡単に死ぬんだ!おとなしく従っていればいいんだあっ!」


「はぁ… やれやれなのです」

「まったくです、そもそもな話…」


 溜め息混じりの声をだすと二人は相手を睨み付け、声を揃えながら言い放った。



「「お前のようなやつが!ここに来たことが間違いだったのですッ!!!」」



 長が言い放ったその瞬間だ。


「ガァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


 全身が炎の渦に包まれたホワイトライオンのフレンズ、シロが妻かばんを抱き抱えたまま甲板を突き破りその場に現れた。


「な、なんだその姿は… なぜ炎を身にまとっている!?そんなの知らない!?体から炎を出す動物なんて聞いたこともない!」


 シロは長の二人に気付くと妻を預けた、そして男の元へ歩みよると、その野生の光を灯した瞳で見下し、答えた…。


「家族に手を出したら… なんて言ったか覚えているな?」


「ま、まて嫌だ… 死にたくない…!?」


「真っ先にお前を殺す… そう言ったはずだ?順番は変わったけどな…」


「まて!話せばわかる!私が悪かったよ!もうここには手を出さない!ミライたちの邪魔もしない!だから頼む許してくれ!命だけは…!?“のけものはいない”んだろ!?みんなフレンズなんだろう!?」


 男の言葉は最早ここにいる者たちに通じるはずもない、彼は男の胸ぐらを掴み持ち上げると、これまでの怒りすべてを込めた瞳でさらに睨み付けた。


「よく言うのですよ今更」

「シロ、我々は何も言わないのです、好きにするのです」


「下がってろ二人とも、火傷するぞ…」


「嫌だ!いやだぁー!?死にたくないー!?!?!?!?」


 その言葉を彼が聞くことはなく、彼の目が燃えるように赤に染まると、同時に胸のスザクの紋章が大きく紅く光輝いた。




「のけものは… ここにいたなッッッ!!!」




 瞬間彼の体をまた炎の渦が包み込み、男を容赦なく焼き始めた、なぜかその炎は周りには害はなく暖かく優しいもの… それなのに男にとっては地獄の業火であることには変わりなかった。


「あぁうぁぁあーっ!?熱いぃ!熱い熱い熱い熱い熱い!?!?あぁぁあ!?!?!?」


「お前は… このまま灰も残らず燃え尽きろ!!!ガァァァァァァァァァァアアアアアアアアAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」



 ボォウ…。



 炎がそこから消えたとき… そこに残っていたのは彼の姿だけだった。



 首謀者だった男は宣言通り灰も残らず燃え尽きたのだ…。


 

 処刑が済むと、彼はゆっくりと振り返り再度妻を抱き上げた。


「シロさん… 僕、ごめんなさい… 僕のせいで…」


「いいんだ、君は悪くないよ?会えて嬉しかった… それに君を守れたんだ?後悔なんて少しもないよ?」


「でもシロさんが!このままじゃシロさんが…!」


 そう、彼はスザクとの約束を破り野生開放をした… 即ちそれは、彼の心の消失を意味するのである。


 しかし思っていたのと様子が大分ちがう、彼は怒りも去ることながら考えていた。


 





 体が熱い… それにサンドスターが底無しに湧き出してくる


 爪を振るえばサンドスターが形を作り敵を切り裂く… 全身を包むようにサンドスターを纏っている。


 そしてこの炎、俺はこの炎を知っている。

 

 これはスザク様の“浄化の業火”だ、間違いない… 理由はわからんが力を貸してくれるようだ。


 でも。


 それはいいんだ、どんな力を使えて手に入れていようが今日俺が大量殺人者になったことに変わりはない。


 しかも。


 それでもまだ怒りがおさまらない…!


「シロ… よくやったのです」

「お前のおかげで皆助かったのです」


「…」


「自分のやったことを責めているかもしれませんが」

「誰がなんと言おうとお前はパークを守ったヒーローなのです…」


 ヒーローか… 怒りに任せて人殺しをするやつがヒーローって胸張って子供たちの前に出れるのかな?


 この手を見ろよ?血まみれだ…。



「シロさん…?」



 かばんちゃん…。



「妻を頼むよ」


 俺は二人の言葉に返事もせずに腕の中で震える妻を差し出した、が… 彼女はその腕を緩めず俺の元から離れようとはしなかった。


「いや!離さないで!」


「かばんちゃん、先に帰るんだ」


「いや!どこにも行かせない!僕はもう二度とシロさんから離れません!」


 抱き抱えられたままの彼女はそのまま俺の首に腕を回したままぐっと抱き締めてくれた。だがその体は恐怖に震えて今でも立ち上がることができないほど。


 無理もない、あんな… あんな目にあったんだ彼女は…!


 俺のせいで、俺があんまりよわっちいグズだったから!


「今度は離さない!絶対離さない!予知通りになんてさせない!僕は絶対シロさんから離れません!」


 どうやら彼女が見たのはこの場面らしいな、この段階で少し変わっているが、危険なので離れるように促してもどうにも離れたがらない、長の二人も困り顔を向けている。


「このままじゃシロさんの心が無くなっちゃう…!イヤ… イヤだよ…!もう帰りましょうシロさん?すぐにスザク様に言えばなんとかしてくれますよ?野生開放なんてできなくたっていいんです!僕はシロさんが好きなんです!シロさんじゃなきゃだめなんです!だからお願い… もう帰ろう…? お願い…」


 今の俺の状態、いったいなにが起きてるかなんてわからない…。


 てっきりセルリアンになってしまうんだと思ってた、でもその気配は今のところない

 それどころか体は全身サンドスターで満たされている。


 しかも体から炎が吹き出す、しかし博士達はこの炎を怖れない… かばんちゃんもここまで密着してるにも関わらず熱がる素振りを見せない。


 これが浄化の業火…。


 もしかすると、俺は壁を一つ越えてしまったのだろうか?



 でもこの状態… きっと長くない。



「かばんちゃん、行くんだ」


「いや!今離したら絶対シロさんは帰ってこない!どうして離れたがるんですか!ずっと一緒にいようって言ったのに!子供たちはどうするんですか!」


「いや、俺は帰る… 必ずだ?もう二度と君との約束は破らないって決めたんだ?だから、最後の一仕事… やらせてほしい」


 口からデマカセってわけじゃない、帰ろうとは思ってるし、約束はもう破りたくない。

 


 でも、どうにも怒りがおさまらない!


 このままでは帰れない!



「シロ、何を?お前も一緒に帰るのです!」

「こんな船は放っておくのです!」


「タメだ…」


「もうすぐミライ達が来てくれるのです!」

「これから、ここでどうするというのですか?」


 俺は長のその言葉に、ぐっと悲しみを堪え答えた。




「決まってるだろ…」



 フレンズ達を飽くまで畜生と呼び、妻を複数の男に強姦させようとまでしてきた連中を今更この俺が許せるはずもない!


 心は燃えるように怒りに溢れているが、口調は静かに… とても静かに…。


 俺は答えた。

 



「皆殺しだ…」



 二人がどんな顔してるのか、あるいは俺自身がどんな顔でこんなことを言っているのか… お互いにそれは言わない。


「シロさん…」


「俺が過ちを犯すところ、もう君に見せたくないんだ… わかってくれる?必ず帰るよ、家で待ってて?戻ったらすぐに子供たちを迎えにいこう」


 俺がそう言うと、妻は黙ったままその腕の力を弛め今度はおとなしく長の元へと移ってくれた。


 止めても無駄なのが伝わってくれたのかもしれない…。


「「シロ!」」


 妻を受け取った二人が大きな声で俺を呼んだので、顔を上げて二人と目を合わせた。


「お前が、どんな罪を背負ったとしても我々も島のフレンズ達も皆お前の味方なのです」

「かばんにも子供たちにも、お前が必要なのです… 帰ってくるのです!必ず…!」



 俺はその言葉に…。





「ありがとう、必ず帰る…!」

 


 

 強い決意を持って答えた。





 飛び立つ長とかばんちゃん… 妻はずーっと俺の方を見て涙を流しながら手を伸ばしていた。


 三人が無事に逃げたのを確認すると、俺は再び炎を纏い光の爪を作り出す。


 

「お前らは船と一緒に海に沈んでもらうッ!

 ガァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」


 船を破壊する為に火柱を上げ、俺は暴れまわった、生きているヤツを見つけては全員爪で引き裂き炎で焼き払った。


 誰一人として生かしては帰さない、お前ら例外無く…。




 海に沈め。






 そして港には… 爆炎に包まれる連中の船と、怒り狂った獅子の咆哮が響いていた。



 何度も何度も…。



 その咆哮は響き渡った。

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