第37話 味方(後半)

 田舎であるが故に、戦争の被害がほとんどない地域もある。大ファルナ帝国、秋田地区。この地は豊かな自然の中にエルフが住まい、農作物がよく育つことで国から重宝されてはいるが、魔道具の工場が特別多い訳でもなく、戦争に巻き込まれる事はほとんどない。

 そんな秋田地区の南、内陸にある少々発展した土地。貴族や龍人族が多く住む湯沢に、獣人のクオーターであり龍人とのハーフである貴族の娘が産まれた。小野家の次女で、小町と名付けられた。

 小町は美しく育ち、獣人の柔らかな毛並み、龍人の艶やかな肌を掛け合わせた完璧な美を持った。

 小町は多くの貴族から求婚され、民衆からも崇められた。

 しかしそれを良く思わない者もいた。

 姉である。

 姉は小町とは違い、龍人と獣人、ふたつの血を色濃く引いてしまった。鱗がありながら毛深い、顔立ちは整っているにも関わらず醜い姿であった。

 そんな姉は小町を妬み、悪魔と契約を交わして小町を悪魔界へ追放したのだ。


「……て。……きて」

「て。おき……」

「…………て。おきて」

「起きて」

 少年の声で小町は目を覚ました。

 暗い、レンガで囲まれた部屋。視線の右側には、白い髪の幼い少年がいた。

「やっと起きたネ。お姉ちゃん、誰?」

「えっと……ここは?」

 白い髪の少年は微笑んで答えた。

「ここはネ、悪魔界だよ」

「悪魔……界?」

 よく見ると少年の白い髪からは真っ黒な角が二本見える。

「あ、悪魔……」

「ねえ。お姉ちゃんが誰か教えて。ネ?」

「んと、私は小野小町おののこまち。君は?」

「僕はネ、セタ! セタ・デヴィリだよ!」

 少年がニカッと笑った。

 と同時、部屋の外から女の声がした。

「セタ、父上が呼んでるワ」

「うん! すぐ行くネ!」

 少年は座ってた椅子から立ち上がり、扉までかけていった。

「それじゃあ小町お姉ちゃん、休んでてネ!」

 起こしたのはお前だ。


 それから私とセタは色々話した。悪魔界とこちら側の違い、好きな食べ物、異性の好みetc……。セタは胸の大きい大人の女性が好みだと、恥ずかしがりながら教えてくれた。このマセガキめ。

 今日は家族の話をしている。

「僕はネ、お姉ちゃんが二人いて、パパは悪魔達のすっごいことに関わるお仕事をしててネ、ママは頭が良くてネ、じいやは血が繋がってないんだけどネ、悪いやつを魔法で簡単に倒してネ」

 セタは楽しそうに家族の話をしてくれた。どうやら私と同じ貴族の子らしい。

「小町お姉ちゃんは?」

「私はね……。私を可愛がってくれるお父様とお母様。血は繋がっていないけれど、たくさんの侍女がお世話をしてくれていた。あと……」

「あと?」

「……お姉様が」

「小町お姉ちゃんのお姉ちゃん!」

 セタは姉に反応した。セタにも姉がいるようなので、親近感が沸いたのだろうか。

 しかし、それだけでは無いことを私は知ってしまった。

「僕ネ、小町お姉ちゃんのお姉ちゃん知ってる!」

「え、なんで?」

「だってネ」

 その言葉を聞いた途端、私の意識は私のものではなくなった。

「小町お姉ちゃんのお姉ちゃんと契約したの、僕だもんネ!」


 正気に戻った頃には、元いた世界に戻ってきていた。雪が降る野原、見覚えがある。小さい頃、牛車ぎっしゃに乗ってよく母と来た場所だ。

 意識が飛んでいた時の記憶は何故かあった。思い出したくなかった。なぜ私が……セタを……。

 悪魔達から追われ、手に入れた悪魔の力でこっちの世界へ逃げてきた。

 方角もわからず歩いた。ただひたすらに歩いた。

 エルフの森を見つけた。北西に歩いていたらしい。ここで一休みしよう。

 と思ったら、エルフが襲いかかってきた。

 しょうがない、戦いなんて初めてだけど、抵抗しよう。私はとにかく休みたいんだ。これ以上歩かせないで欲しい。

 意外と簡単に買ってしまった。そういえばエルフってあんまり強い種族じゃなかったもんね。なんかエルフが私を崇めてるけど、どうしよう。とりあえず君臨してみよっかな。

 言葉変えた方が威厳あったりするかな。でも、どう変えよう。

 もうどうにでもなれ。

「わっちは小野小町。龍、獣、そして悪魔の力を持つ。この世界をいずれ女帝として治める者じゃ!」

 あ、調子乗っちゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る