第15話 偽りの

 店員が来ない。なぜだ。

「たっき。なんで店員が来ないんだ?」

「わからん。他の客を見てみるか」

 俺達は他の客を観察し始めた。

 よく見ると、動物のような耳が生えた毛深い人や、爬虫類が二足歩行したような人がいる。なんだあれは。

 それも気になるが、今は店員を呼ぶための行動だ。何か……

 ん? まさか……

「たっき、わかったかもしれない」

「ほ、本当か?」

「ああ」

 他の客は皆何か金属を触り、触るとチリンと音が鳴る。その音に反応して店員が出てくる。つまり、その金属を触ると店員が来るはずだ。そしてその金属は俺たちのテーブルにもある。

「このドーム型の金属触れば出てくる筈だ」

 俺はテーブルの真ん中にあった金属を指さす。

「おお成程。あいっちもなかなか頭がキレるなあ」

「いやいや。たっきほどじゃねえよ」

 得意げになりながら俺はドーム型の金属のを優しく触った。

 音は……、鳴らない。

「あ、あれ?」

 おかしい。どういうことだ?

「あいっち。これもしかしてさあ」

 そう言ってたっきが金属を手に取り、てっぺんの出っ張りを触った。チリンと音が鳴る。

「た、たっきすげえ」

「多分これ呼び鈴だよ。俺らのところじゃあボタン押す奴だったからなあ」

「こ、これ呼び鈴なのか?」

 そうか。それでこれを押すと店員が来るのか。

「ご注文はおきまりですか?」

 気がついたらテーブルの横にさっきのメイドがいた。

「注文はまだなんだけど、聞きたい事があってよ」

 たっきが話を進めた。こいつには昔から頭を使うところで才能がある。

「なんでございましょうか?」

 メイドが首を傾げる。

「実は俺ら迷っちゃってさ。ここが何処で、今がいつかを知りたいんだ」

「それは困ってますよね……」

 メイドは薄い板を取り出し、地図らしきものを板に移して見せてきた。

「ここは大ファルナ帝国、東京、秋葉原にあるメイド喫茶です。今は西暦千九百八年、八月六日です。お役に立ちましたでしょうか?」

「ああ、助かったよ。珈琲コーヒーを二つお願いできるかな?」

「かしこまりました。ご主人様」

 そう言って、メイドは笑顔で去って行った。

「ふう。成程」

 たっきはため息をついて状況を俺に説明し始めた。

「つまり、半世紀前の知らないが日本とよく似た土地に、昼寝してる隙に移動しちまったらしいな」

「ああ。そのままだな」

 たっきにしては珍しく真っ直ぐな解釈だ。それだけ簡単な状況という事だろうか。

「でも、なんでそんな事が起きたんだ?」

「あいっち。『神隠し』って知ってるか?」

 たっきが突然そんな事を聞いてきた。

 勿論、日本で昔から受け継がれている伝説だ。知っている。俺も小さい頃悪さをする度に「神隠しに連れて行かれるよ」と言われたものだ。

「神隠しがどうかしたか?」

「神隠しってのは、老若男女関係なく、人間を異界へ連れていくものだ。地域によっては殺した子供を隠すために『神隠し』の口実を使ったらしいが、じゃあどこに隠したんだと思う?」

「何が言いたいんだ?」

「俺達は、神隠しにあって異界へ連れてこられたのかもしれない」

「異界……」

 確かに、状況からしたらありえるだろう。しかし、それはただの伝説や口実に過ぎない。現実にあるなんて……。

「あるかもな」

 あくまで『かも』だが、可能性がないわけではない。

「でも、誰がなんの為に?」

 メイドから運ばれた珈琲を飲みながら問う。

「正直わからない。でも……」

 たっきが窓の外を見て言う。

「目的は……、戦争だろうな」

 窓の外には細くやつれた、シャツ一枚の幼い少年がいた。

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