第27話 美羽のリボルバー(後)

「それ以上近づいたら撃つから。……本気だから」


 美羽はそう言って、新選組の隊士たちの注目を集めてから、げきてつを起こした。


 この時代のリボルバーは、すべてシングルアクションと呼ばれるタイプで、撃鉄を起こさなければ、引き金を引いても何も起こらない。その一つの動作を相手に見せることで、威嚇の効果が大きくなる、ということを秀一が美羽に教えていた。


 銃を持った新手の出現に、相手は明らかに動揺している。


 それを見て秀一は、

(よし)

 と思った。


 彼らは今この場で銃を持っていない、と確信したからだ。


 銃による威嚇は「相手が攻撃できない距離から一方的に攻撃できる」という状況があって初めて成立するものであり、相手も銃を持っていれば、優位性は消え失せる。その場合、秀一は現場に混乱だけ起こし、美羽を連れて逃げるつもりだった。


 しかし今、相手の側には、おそらく銃がない。

 秀一は威嚇を続けることにした。


 ***


 ただの鉄のかたまりにすぎないリボルバーによる威嚇。

 このハッタリの鍵を握っているのは、じつは美羽以上に秀一だ。


 寺田屋事件のとき、龍馬にはよししんぞうという長州藩士の護衛がついていた。三吉が槍を持って応戦し、龍馬の盾となったために、伏見奉行所の捕り方たちは龍馬をとうそうの間合いに捉えることが難しく、一方的に撃たれる状態になった。


 この幕末の近江屋事件では、図らずも豪太が龍馬の盾となった。


 その役割を今、秀一が担おうとしている。つまり、


(僕が美羽さんの盾になる)


 という意思を秀一は示そうとしている。


 そのために、美羽よりも少し前を歩き、木刀の、日本刀であればつばがあるあたりに左手の親指を置いていた。薄暗い中で、それを本物の刀のように見せるためだ。


 秀一もまた命懸けだった。


 ***


 美羽の目には覚悟が宿っている。それは自分の命と引き換えに仲間を助けようとする覚悟だったが、相手には射殺することも辞さない気迫として伝わっていた。


 もちろん、素人が撃った銃など狙い通りに当たるものではない。


 しかし今、新選組の隊士たちは狭い油小路にひしめいた状態にあり、撃てば誰かに当たるだろう。かといって、無闇に斬りかかっても、手前にいる男に止められて、その間に撃たれてしまう。そういう状況であるように、相手からは見えている。


 スミス&ウェッソン「モデル1」の有効射程は20〜50メートル。

 全員、その圏内に入っている。


 この状況においてもっとも危険なのは、銃を構えている者の味方である豪太、涼介、咲よりも手前にいる者たちだ。彼らは、一歩ずつ前進する美羽たちに押されるようにして3人の背後に移動した。


 結果的に、豪太、涼介、咲の逃げ道ができた。


(みんな早く逃げて!)


 と美羽は心の中で叫んだ。


 全員を逃がすまで、自分がこの場に踏みとどまる。

 3人の身代わりとして死ぬことになっても……と美羽は考えていた。


 ***


 その決意が涼介には伝わっている。


 だからこそ、

(まずい)

 と思った。


 当然のことながら、美羽をこの場に残して脱出することなど考えられない。


 長身の涼介には、敵の壁の向こうから駆け寄ってくる2人の大柄な男が見えている。その彼らの指示次第では、一斉に斬りかかられることになるかも知れない。


 自分たちが逃げ出せば、真っ先に殺されるのは美羽と秀一だろう。


 涼介は豪太の横顔を見た。


 悠然としている。

 まったく動じる様子がなく、眼前の敵だけを豪太は見ていた。


 咲と目が合った。


 咲は、

「分かっている」

 と言うかのように、うん、と頷いた。


 3人ともこの場から逃げるつもりはない。


 涼介は振り返ると、美羽よりも秀一に聞かせるつもりで叫んだ。


「美羽、撃つな。もう話はついてるんだ!」


 殺されることはもちろん、美羽が撃ってしまうこともまずい。

 涼介は、美羽のリボルバーにまだ弾丸が入っていると思っている。


 そうこうしている間に、2人の大柄な男が間近まで迫っていた。それを迎える男たちの反応で、やはり彼らが特別な立場にある2人だと分かる。


 その到着による状況の変化を待とう、と涼介は腹を決めた。

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