アンドロイドの愛

ご主人様は私を愛した。でも、アンドロイドの私とご主人様の恋は許されないものだった。

私は人間になることを切望した。彼女との関係を世に祝福されたかった。

私達は、私達を糾弾する団体から逃げ惑った。社会は異常をおそれ、排除しようとする。

私達は幸せだったが、ご主人様が一人で泣いているのを見た私は、人間の身体を買うことを決意した。


「ご主人……、いや、まりあ。俺はやっと俺になれたよ」

彼女に微笑みかける。喜びを表明出来る喜びに、俺は満ち溢れていた。

「なんでそんなことしたの?」

まりあの言葉は冷たかった。俺は狼狽した。

「だって俺は、君と同じ立場になって、君と本当の恋人と認められたくて……」

「人間になっちゃ殴れないじゃない! バカに出来ないじゃない! 下僕が身分得るんじゃねえよ!」

俺は、アンドロイドだった頃の俺を思い返した。どれだけ蔑まれ暴力を浴び何をされても、それを愛だとプログラムは変換していた。

彼女の怒りを刻んだ顔の歪みが不愉快だ。

愛を感じることが出来ない。恋は失われてしまった。

「殴らせてよ……、それでもついてきてよ……あたしに、愛をちょうだいよ……」

泣きじゃくる彼女に、俺は小さな子どもの姿を見た。

「まだ、肉体を得ただけで『人間の権利』は取得していません」

俺は出来るだけ、前と同じように言葉を発した。泣き腫らした目で、まりあが俺を見る。

「『私』はご主人様からの『痛み』をより深く受け止めるためにこの身体を得ました。対等になるつもりは毛頭ございません」

人間は嘘をつける。自分を偽れる。

「そう」

まりあは静かに言って、俺の頬に手を伸ばす。

そして、思いっきりつねり上げた。

「うっ……」

痛覚を得た肌は、酷い苦痛を受けた。しかし、まりあは笑っていた。

「すごく、素敵な顔! 惚れ直しちゃう」

ああ。

この先自分を殺し続けても、世の非難がどれほどあっても構わない。俺は俺の中に新しい愛が芽生えるのを感じた。

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