声に惚れる
「そのユーチューバーに会いに行ったりしないの?」
俺はチャラい男が映った画面を見つめるユミカの背中に尋ねた。
「行かないよ~。ジュウくんじゃないんだし」
イライラしてる時には気に障る、ぼんやり間延びした声でユミカは答えた。
明らかに声優の握手会に行った俺を責めている。
俺の推し声優、翼朱音は凛としたイケボの持ち主で、ドル声優としては低めの音域の持ち主だ。
握手会もヒーローにパワーを貰う儀式のようなものだった。
その、神聖な儀式をユミカにdisられた。
堕天使の声で。
出会った頃は癒しボイスだと思っていたユミカの声が耳障りになったのはいつのことだろうか。
「クソみてぇな声でdisんなよ」
吐き捨てて、ユミカが振り返る前に部屋を飛び出した。
もうこれ以上、俺以外の男を見るユミカを見たくない。
いい機会だ、長く続いた同棲も解消だ。
「助けて、翼さん……」
スマホからSNSを開く。声が聞きたい。イヤホンをつける時間も惜しい。構うものか。
最大音量でこの世界を翼朱音の声で満たしてやる。彼女は、俺のヒーローなんだ。
『【ご報告】翼朱音は、一般人の方とこの度入籍させていただくことになりました。……
あああ。ああああ。
「一般人」の文字が歪んで「一般怪人」に変化する。彼女は、雑魚の手に下った。雑魚敵に快楽墜ちした。もう戻らない。
鞄からイヤホンを引っ掴んで取り出す。
もう一度、最大音量。
もう誰の声も聞かなくていいように、自分の鼓膜を破壊した。
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