部屋に二人

元カレ、という存在はそれほどまでにいつまでも女の心を蝕んでやまないものなのだろうか。

沙織の出ていったがら空きの部屋で、おれは一人佇む。

あいつはいつまでも「元カレ」の影を引きずっていた。おれなら忘れさせることが出来ると思っていた、傲っていた。

沙織の表情がいつまでも上書きされなかったことにおれは気付きたくなかった。

ついには元カレの元へと去ってしまった。

出来ることなら「元カレ」を絞め殺してやりたい。

沙織の短い髪に覆われた頭から記憶を引きずり出してズタズタに潰してやりたい。

沈みかける夕陽を凝視して目を痛めつける。沙織の姿しか見たくない……。

脳裏に浮かぶのは沙織と、顔も知らない「元カレ」の後ろ姿。

「行くな!」と叫ぼうにも声が出てこない。

いつしか部屋は真っ暗になっていて、おれはどっと日曜日の憂鬱に襲われる。

インターホンが鳴る。沙織!と期待して跳び跳ねる心臓にも慣れた。深呼吸して、モニターを覗く。

ほら、沙織じゃない。ただの白目を剥いた男の死体。

男の死体?

おれはぎょっとして扉を開けた。男の死体はこちらに倒れ込んできた。

「元カレです」間違いなく、沙織の筆跡で書かれたメモを咥えていた。

「元カレ」は、死んだ。沙織本人は、いない。

おれはしばらく考えた後、「元カレ」を沙織の椅子に座らせておくことにした。

……きっとこれは、沙織からのプレゼントなのだろう。

コーヒーをおれと客人のぶんを淹れて、ゆっくりと腰をかける。

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