第12話『その展開はめまぐるしく』


 先ほどのクレジット投入をしてから、10分は経過しただろうか? ステージ3を直前にして、アルストロメリアは再び――遭遇する事となった。


 ラストゲートを目の前にして、行く手を遮ったのは、黒マントの暗殺者である。


『お前の様なプレイヤーがいるから――』


「問答無用と言う事なの?」


『あの怪盗のような連中では手ぬるいと思っていた。だからこそ、直接――』


 他にも何かを言っているような気配だったが――途中でノイズが入ってやり取りが聞こえなくなっていた。


 これは運営側がノイズをかけたのか、向こうがジャミングを仕掛けたのかは――定かではない。


「聞こえないぞ! どうしたんだ?」


「他の中継では音声が拾える。これだけ音声が出ない」


「何かのトラブルか?」


「機器トラブルがあればセンターモニターでも不具合情報が出る。ARゲームとは、そう言う物だ」


「じゃあ、一体――?」


「こちらで真相が分からない以上、運営に問い合わせるしかないだろうな」


 中継を見ていた草加駅前のビルにある大型モニター前も色々と慌ただしくなる。それだけ、ARフィールドで何が起きているのか――疑問視する声が上がっている証拠だ。下手をすれば、施設閉鎖も――?


 一部のギャラリーは抗議の為にARフィールドへ向かおうとも言いだすのだが、それに待ったをかける人物もいる。


「運営に問い合わせても無駄でしょう? 興味本位で手を出してネット炎上をしたら――どう責任を取るの?」


 ギャラリーの一人が運営へ抗議する為にARフィールドのある場所へ向かおうとした矢先、その目の前に現れたのはメガネをかけた女性プレイヤーだった。


「お前は確か、霧島だったな? 既にリタイヤしたプレイヤーが、何を言うつもりだ」


「確かに――貴方の言いたい事は一理ある。私はファンタジートランスでは一歩及ばなかった――」


「だったら、お前も分かるだろう? クリアできなかったゲームに対して――」


 男性が右腕から1メートルはあるだろうナギナタを瞬時に展開した段階で、霧島は何かを察していた。


 明らかに、目の前の人物はネット炎上を誘導する為の動画投稿者かフラッシュモブか、まとめサイト管理人だろう。


 しかし、霧島も既に重さが30キロはあるだろうと思われる重装甲アーマーを展開し、それを瞬時で装着して見せた。


 実際にARアーマーには重量の概念はない。あったとしても――見た目の重量とは大きく異なるだろう。


「その重量のアーマーで、こっちに勝てるとでも思うのか? 俺は動画サイトでも神として――」


 男性が何かを言おうとしていたが、わずか10秒にも満たない時間で霧島は相手プレイヤーを無力化した。


 何故に10秒も満たないで決着したのかは簡単である。霧島も左腕のパイルバンカーを構えて、瞬時に踏み込んだだけだ。


 それなのに彼は――霧島が触れることなく吹き飛ばされ、気絶をしている。その理由はただ一つ、彼が不正ツールを使っていたからだ。


 ARゲームはチートプレイヤーを徹底的に駆逐する方針を決めており、それを知らなかった動画投稿サイトの神は――あっさりと倒されたのである。


「あれが、アガートラームの正体――」


 チートブレイカーとしてのアガートラーム。ファンタジートランスで出てきたアガートラームは便乗プレイヤーだったのか?


 しかし、その真相は現状で拡散はしておらず、どのような事を考えても憶測になるだけである。霧島の一連の行動を見て、あるプレイヤーは何かに疑問を持つのだが――。



 その一方で、ステージ3のステージに到達した人物もいる。シナリオブレイカーもその一人であり、ランスロットも――。


『どうやら――こちらも、本職に戻る時が来たようだ』


 ランスロットは、周囲を見回しても特に何もない事を確認して別のゲートへと向かった。


 10メートル先にはゲートがあると言うのに、まさかの方向転換だったのである。一部のプレイヤーが最速クリアを目指してステージ3へ挑むのに対し、ランスロットの今回の行動は、中継を見ていたプレイヤーからも疑問の声が上がった。


【アイテムの収集忘れか?】


【ステージ3へ入ったら、後戻りはできない仕組みだったような――】


【演奏失敗で仕切り直しだったかもしれない】


【アイテムがあればクリアしやすくなるのか?】


【アイテムは、あくまでも楽曲解放に使うものだ。難易度緩和にはならない】


【しかし、あのガジェットならば――】


 つぶやきサイト以外のネット上でも、ランスロットの唐突行動には――どのような意図があるのか見つける事は出来ない。


 それ程に唐突過ぎる行動に周囲は見たのかもしれないだろう。実際、アイテム回収率で言えば90%目前でコンプリートをあきらめた物だ。


「やっぱり、そう言う事か。アルテミシアが偽物と言う事を――彼女は知っている」


 唐突なランスロットの行動変更、これにいち早く反応したのはモニターで様子を見ていたカトレアだった。


 そして、カトレアは自分と一部の人間しか知らない事実を――彼女が知っている事も把握している。


「アルテミシアが偽物? 一体、どういう事だ」


 別の男性スタッフは現在の配置から立ち上がり、カトレアのいるメインエリアへと向かおうとするが――。


「現状のスタッフは配置を離れるな――離れるとしても、スタッフ入れ替えが必要となる」


 カトレアの方も人手が足りない。単独である物を発見するには――。しかし、スタッフにはそれを全く知らせていないので、スタッフの反論も納得出来るだろう。


「アルテミシア――それはファンタジートランスのラスボスだ。それが偽物って、どういう事ですか?」


「ラスボスとしてのアルテミシアは機能している。しかし、こちらで把握している偽物は――同名の別人だ」


 遂にカトレアが真相を明らかにし始める。どうやら、カトレアの探していたアルテミシアとは、ラスボスではないらしい。


 それに加えて、周囲のスタッフが動揺をし始め、これでは指揮系統の混乱も予想される。


「気持ちは分かるけど、運営側の混乱はまとめサイトや芸能事務所の思う壺――それこそ、コンテンツ終了と言うバッドエンドへ一直線よ!」


 しびれを切らしたカトレアは、声を荒げて静まるように指示を出す。思いっきり拳を振りおろしたくなるような気持ちもあるが、物に八つ当たりをしても――展開は変わらないだろう。


 これにはさすがの周囲も黙り込む。一連の事件を引き起こした元凶として、自身にも責任はある。


 それに加えて、アルストロメリアに試作ガジェットを渡したのも――本来は別の目的で渡した物であり、本人にも知らされていない。


(こちらとしても、あれを隠し通すのは限界なのか――)


 カトレアとしては下手に伝家の宝刀を使うつもりはないだろう。しかし、下手に周囲の不信で運営が分離するのも避けたい。


 このタイミングでアルストロメリアに隠していたアレを公表するのは、どちらにしてもリスクがあった。

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