・第三&四話総集編「この呪わしい世界に反逆を!(後編)」
・第三&四話総集編「この呪わしい世界に反逆を!(後編)」
〔以下、第四話「傭兵
本来は村人達の家畜の良い草食み場であったであろう草原を抉る泥むき出しの塹壕と、民家を壊した廃材や略奪した馬車、伐採した木で作った防護柵。過去の
「銃……あれに私達は、何度も敗北したわ。皆、殺された。兄上も、父上も、太刀打ちすら叶わず。遺されたのは私の様な女達と、今この場にいる従士老兵だけ。私に出来たのは、逃げ延びる事だけだった。……勝てる、かしら、私なんかに」
しかしその騎士道は窮地に陥っていた。馬上で傭兵団と対峙しながら一門最後の当主たる姫、ユカハは、自責を噛み締めて後、問うた。そんな自分に助太刀すると決めた少年に。
「勝つさ。いや、姫さん、あんたが俺達を勝たせてくれる。だから俺達が姫さんを勝たせてやる。外道の行いで正道を嵌める手合いを、外道を知ってその道に罠を敷くのが俺達の戦法。姫さん達が今まで戦っていてくれたから、俺たちゃあいつら〈武器と死の悪魔団〉以外の傭兵団相手に実戦場数を踏めた。姫さん達が民を守り逃がすために動いてたから、俺達は姫さん達と出会えた。姫さんが生き延びて情報を伝えてくれたから、奴等のやり口を知れた。知れば、勝てる。姫さん達と俺達、一緒ならな。さ、行こうや」
「……ええ! 行くわよ、皆! 自由守護騎士団、責務を遂行する!」
「〈無謀なる逸れ者団〉、やるぞ! 〈いつか俺達が最後の傭兵となる為に〉!」
ユカハが同様に騎乗待機する郎党達に宣言し、同時に
「おお! クソ野郎共に目にもの見せてやるぜ!」
「……村が焼かれてから一年、やっとあいつらを焼けるんだ、やってやる……!」
口々にそう言い、準備にかかる〈傭兵〉達は、皆隊長として振る舞う
「奴等、今回も楽勝と思ってやがるんだろうよ。やってやろうぜ、
「うん! さあ皆、弓と投紐を! ボクの作った森の精油と岩山の兄弟が作った山の精油を! 《風よ、飛ぶ物を導いて。祈りを届けたように、飛ぶものを届けて》!」
防御柵の向こうの動きから薄汚い大人の打算を見抜き、
「「「おおーっ!」」」
歌の導きに従う少年少女の叫びと共に、弓弦が鳴り投紐が風切り放たれる矢玉。だがそれを〈武器と犠牲の悪魔団〉の傭兵共は嘲笑った。その理由は彼等が未だ発砲していない事から伺える。飛び道具には最大射程距離と有効射程距離という物がある。この距離では届くまいし届いても害に成る筈が無い、銃への恐怖の余り距離を見誤ったぞ馬鹿共が、と。異界の下僕となった愚者達は、己が世界の力を忘れていた。
「姫さん、魔剣を! 制御はミレミがやる!」
「分かったわ! 《
伝統を軽んじた者達に、しかるべき末路が訪れる。ミレミの心と祈りが風を導く。それに、ユカハの風の魔剣の幾つかの用法のひとつ、強風斬撃の最大出力が力を加えた。放たれた矢は初歩的な術により無詠唱で着火された火矢。投紐で投擲されたのは、精油を込めた油壺。その両者を風が加速し射程を増し、さらには精妙に制御された横風としてその狙いを誘導する。《
BABABABABABABANG!!
「ぎゃあああ!?」「熱、痛えええ!?」「爆発が、刺さっ、げぶっ……!?」
恵んで貰った授かり物を付け焼き刃の知識で扱った報いが、傭兵達を守る筈の塹壕を殺し間に変えた。小さな火は風によって繊細に操られ、通常の火では不可能な精密さで装填され塹壕内に置かれた火縄銃の火皿と各自が帯びる火薬と鉛玉を納めた胴乱の中に飛び込み、着火した。暴発した火薬と鉛玉は塹壕内を荒れ狂い、傭兵達に鉛玉や胴乱の破片が突き刺さった。そしてそれは塹壕と防護柵に阻まれその内で炸裂、子供達と騎士達は無傷!
「今よ!
「はいやっ!」「はぁっ!」「おおーっ!」
その隙を突き騎士達が突撃! 法術の力場障壁を纏い速度と衝撃力を爆発的に増大させた騎馬突撃は更に馬鎧の硬度と質量を合わせる事で弓や弩程度弾き返し、
「ち、畜生! 野郎共! 撃て! 撃てーっ!!」
「護符持ち総員構え、支援詠唱!」
「《力を》!」「《心を共に》!」「ミレミ、行使支援今!」
GATYA! GATYA! GATYA!
「《
生き残りの兵に既に装填済みの手持ちの銃は無事だと怒号する敵の叫びと、
DOPPAAAAAANN!!
「ぶわああっ!?」」「水!?」「か、火薬がぁっ!? 畜生、雨避けが!?」
ミレミが次に呼んだのは水、それも雨程度ではなく本来相手を転倒させる為の高圧放水にも勝る大量の《波濤》。団員皆の精神力集中贈与で
火縄銃には本来、並の雨程度の悪環境でなら運用を可能とする為の消えにくい火縄と、雨を火皿に入れない為の革の覆いを着けることが出来る。だが、銃身が完全に水で満たされ射手が転倒する程の圧倒的水量の前には、無駄で、無意味!
(無駄じゃなかった! 無意味じゃなかったんだわ……私は、皆は!)
歯を食い縛って涙を堪えながらユカハは突貫し、撃砕した。仲間達の戦いと死は無駄ではなかった。それが火を使い生み出す爆発を弓弦の代わりとする事も、その火が少々の雨程度には耐えるが川に転落したあとには使えなかった事も、ユカハ達がその身を弾雨に晒しながら目撃した情報で、それが無ければいかな
「《
さあ、今こそ逆襲と報仇と応報の時。ユカハが繰り出した魔剣が、渦巻く風が
「ぎゃーっ!」「ひぶうっ!?」「畜生、何で今更! 時代遅れの騎士共にっ!」
〈目を細め笑う悪魔〉の意匠を施された鎧兜に身を包んだ〈武器と死の悪魔団〉の団長は、分厚い鎧により辛うじて負傷少なく塹壕から転げ出たが、その悪態は部下共が踏み潰され突き殺される悲鳴がBGMとなっていた。その眼前に立ちはだかるのは、同じく団長、しかしてその器量の差を、戦況の優劣で見せつける無名の少年。
「力を持ってる癖に戦を終わらせようともせず戦に従う傭兵の糞卑怯な戦を傭兵に熨斗つけて叩き返して、全うな合戦をする人達を助けて、傭兵なんざ
そうしなけりゃ気が収まらぬと、
「糞餓鬼が! 俺達が娼館で吹いた手柄話から盗んだ
〈武器と死の悪魔団〉団長は怒号した。唸る獣のようなその声音は、男がまだ生存と勝利を貪欲に諦めていない事を示していた。役立たずの中途半端な棍棒擬きに成り果てた
「てめえ死ぬぜ、俺が殺す、いいや、俺が殺さなくても必ず死ぬ。この世はもう変わったんだ。何時か潰しきれねえ数の銃口を向けられる。何時か気づいてねえ弾丸がてめえを撃ち抜く。雪をいくら掻いても冬が来るのは止められねえ。女が何時か婆になるように、食わずにいた食いもんが何時か腐るみてえに、時代遅れの女についたてめえが死ぬのは必然だ。はっ、てめえも
生き延びる事を欠片も諦めていない癖に〈俺が殺さなくても〉と白々しくも自己の死も尚その同族は消えぬと嘯き、むしろそこを偽り少しでも動揺させようと呪詛めいて挑発する〈武器と死の悪魔団〉団長。同時にその頭脳をフル回転させ、過去の
(野郎の戦法は
「時代遅れなんかじゃねえよ。この世が少々、錆びて、汚れて、色落ちしてるから、そうでない姫さん達が目立ってるだけさ。経年劣化の代表さんよ」
短剣の柄に手袋をした指を這わせつつ、
「錆びてんなら磨く。汚れてんなら拭う。色落ちしてんなら染め直す。冬は何時か終わり、女達は新しい命を繋ぐ。そして、この世は腐っちゃいないさ」
睨みあいながら隙を伺う為じりじりと横に動きつつ、場合によってはどさくさ紛れに一騎討ちから逃走する選択肢も確保すべく、防護柵の残骸に括りつけられた馬車馬の生き残りの方向へ向かう相手に、それを阻止するように動くと結果的に鎚鉾に有利な間合いになる相手の策略に逃走阻止を優先し敢えて乗りながら、
「その証拠に。俺ぁ尊いもんを見た。酷い目にあって死んでいくのに、子供の心に綺麗な昔の歌を残した母親を。廓にぶちこまれた理由の借金を捨て置いて、死んだ同僚の子を育ててくれた女達を。どんなに飢えても弟に食わせてから残りを食べ、残りが無きゃ我慢した兄を。一椀の水と道案内の義理で、人買いに命懸けの喧嘩を売った奴を。酷い目に遭う子を減らしたり酷い目に遭う奴を助けるために、自分が酷い目に遭う事を厭わず前に酷い目にあった記憶の心の傷を堪えられる奴を。そして。お伽噺や歌のまま、こんな時代に本気で民の為に死にに行く騎士を、自分の首に処刑の刃が落とされる直前に、それを見守るしかない身代わりになった民が助かった事に嬉し涙を流して、民の罪悪感を癒す為に微笑める姫を見た」
「
傭兵が慌てて組んだ槍衾を法術と魔剣と超長槍〔対槍衾装備、槍衾の槍より長い〕で部下と共に突破した後、
無論、
「つまりさ〈悪魔〉。仕える
呪いと挑発を跳ね返し、
「があああああああっ! (封じる! 殺してやるぁっ!)」
敵将は呪詛返しの嘲笑にかかり、悪魔兜を震わす程怒号しながら猛然と突撃した。
……挑発返しによって、
「《括りの縛刃》!」
直後、その詠唱と共に短剣を巻き戻す為の鋼糸が鎚鉾を握る手に絡みつき、《雷》が通電し巨体を痙攣させた。
「俺は最後の傭兵になる。傭兵共を殺し尽くして、傭兵という職業を無くして、戦争を合戦に戻す。この名を捨てて、俺は最後の傭兵を消す。その時まで俺は
引導を渡す
「それにしても、本当に凄いです。竜術無しで銃列を制するなんて!
そんな彼等彼女等の奮闘はその後更に大いなる意味を持った。『
「心強いです。僕達以外にも戦っている人が、戦える人が
そう。リアラは知っている。
だから、彼等彼女らと共闘する
「未来の勇者さんとリアラちゃんにお褒めに預かり恐悦至極だな。だが、幾ら俺等だって、そっちがやりあったような連発銃の類、んな化け物が相手じゃ手の打ちようが流石に思いつかねえ。けど、だからってやりあわねえ理由がねえ。
「それについてですけど……」
称賛に感謝し、自分達の限界を語り、尚意気軒昂の
「本当に、良いんですか。その、火縄銃より何十倍も危険な相手ですよ」
「こちとら、それが日常さ。〈武器と死の悪魔団〉団長の大鎚鉾だって、当たったら俺は死んでるよ、見ての通り、魔法は得手だが鍛えても中々筋肉の付かねえ、なよっちい体だからな。そんなん、覚悟の上さ。俺も、
大体よ、と、自分の意思で自分以外の人間の命を危険に晒す事への不安をどうしても感じてしまうリアラに、励ますように
「俺達
「………、うん」
切なく、悲しく、でも暖かい気持ちが、リアラの豊かな胸の内を満たした。二人がもうこの世にいないという事実を思い出す事は、何度でも、刃に指を這わせるような痛みを心に齎すが。二人が勇敢で優しかった事が、自分を通じて伝わると言われる事は、あの二人と一緒にいるに値する人間になれたという事は、それでも嬉しかった。
そして同時に、二人に恥じないように生きねばならないという思いが沸き、
「……『
「俺としちゃ口説きたいのはマジだぜ、今でもさ。いや、今のほうが、かもな」
((ちょ待、待ってってば! 明かすの拙いかもだけど僕転生者で! 転生前男だったから!?))((大丈夫。俺は
間一髪フェリアーラの狂乱を解除し、歓喜で抱き合った時に緊張の糸が切れた
「ともあれ本題です。僕達は暫く秘密裏の遊撃を続けますが、其方について」
しかしそれを棚へ放りあげて、リアラは話題を変えた。というか、本題に入った。《作音》を起動、ある程度の範囲の外への発言が聞こえることを阻害する音を出す。
「
物語を愛好する過程で知った様々な知識。それを役立てリアラは対策を論じ、その示唆にユカハは頷いた。国境間の移動管理について衰退したとはいえ自由守護騎士団は一定の権限を持つ。元より硫黄等の薬物は行使に正式には許可の要る
「類似構造の
『
「
だから、対策をする。自分だからこそ打てる一手を。
「僕の《付与》で護符化した竜術、【咆哮】【鱗棘】、他幾つかです。使い切りですけどこれがあればそれぞれ一回は其方でも竜術が使えます。銃弾を反らし
「いや、いまいちだなんて! 凄いよこれ! 絶対にどうしようもない状況が、抵抗出来るかもしれなくなる。それだけでどれだけ有難いか‥‥凄いよリアラちゃん!」
リアラの言葉にミレミが快哉を叫んだ。これがあれば楽勝という訳ではなくても、勝負にはなる。それだけで希望になる程、敵の力は圧倒的であるが故に。
「神話時代の装備の記録で《
「有難う。此方でも、打てる手はどんどん考える。護符は使い捨てでも、お金はかかるけど《複製》や《再生》や《転写》を使えば再使用も出来るし、それこそ、そういう鎧だって作れるかも。矢威ならぬ、欲威の鎧が」
賞賛に対し、この手を思いついた経緯をリアラは語った。故人への思いを、この
「はい。そちらでも打てる手をどんどんお願いします。僕に考えられることの範囲に少しの名案があっても、あくまで小さく限られたもの。皆で知恵と出来る事を連ねて広げましょう」
その心強さに、にっこりとリアラは微笑んだ。その笑みに釣り込まれて、ふと表情を緩めた
「悪党ってな、悪事が呼んだ敵を殺せるほど強けりゃいいやと思う奴等ばっかりだが。それにしてもきちんと協力し合うって言葉を知らずにこっちに手がかりを残すリアラ以外の〈
「地球にも呉越同舟って言葉がありますけど、そんなの綺麗事だってどう裏切るか準備をしたり、そういう言葉を信じず策を巡らす奴が賢いって風潮はありますね」
「絵に描いたような糞野郎のセリフだな。
「まあ、あくまで、向こうに14年居ただけの僕が見聞きした範囲で、ですけど」
「だとしてもそう思う理由はあって、それを思わせる奴等がうじゃうじゃ居るのは事実だろ。そして今世界はそいつらがのさばり、穢される侭になっている。やってやろうぜ、この呪わしい
だから笑みと共に
「僕達は、入った情報を基に幾らかの準備と、戦いで得た資金を使って幾つかの傭兵団や冒険者パーティ等に依頼をして、準備の足しにするのに加えて誰が僕達と密接な協力関係にあるのかを調べにくくしてから、次の戦いに向かいます。敵の手も相当長い事を想定すべきですから」
「配慮、感謝するぜ。‥‥これは?」
足跡の上を一定距離戻ってから方向転換するような用心に、同業者として信頼できる部類の振る舞いだな、と感心した
「ソティアさんのフィールドワークと研究の成果のちょっとした纏めです。ソティアさんはこの知識が皆を幸せにする事を望んでましたから。配れる時には、複製を配って回ってるんです」
脈絡のない贈り物であることは自覚の上でそう言った後、リアラは。
「其方の動きに関しましては、皆さんの手腕を信頼していますから」
「勿論さ。賃金に加え役立つ智恵までくれるとは。こっちも大働きしねえとな」
貴方達の知恵を頼みにしていると言葉を添えて。
「私達も全力を尽くすわ、例え、父達兄達が居なくても。最初の騎士だって、女の子だったんだから」
「ええ。
牧畜民と騎士が信奉する《牧騎の神》。後に《
「‥‥一応、聞いてもいいなら聞くけど。二人の次の目的地はどこなのかな?」
そして出発しようとするリアラに、最後にミレミが問い。決意を込めた表情で、リアラは答えた。それはかつての三人での旅の目的地、そして今二人で目指すと相談して決めた場所。
「敵が団結出来ない内に攻めます。ケリトナ・スピオコス連峰。ナアロ王国の豪商、ショーゼ・ワターのワター商会が買い取った部族領を。僕の最初の仲間、ハウラさんの故郷を、解放しに」
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