二人の転生者
プルスタンの都市ある大きな城。その城は本来であれば色欲の悪魔アスモデウスが統治する魔王城であったものだ。
しかし人間と魔族による戦争によって魔王城は陥落し現在は回収作業の後、イスバハール城として人間たちの所有物の一つとなっている。
そんなイスバハール城の一室。そこで他の騎士たちとはどこか違う雰囲気を纏った者が二人、雑談を交わしていた。
「知っているか? どうやら森でギルドが一つ壊滅したらしい」
一人は強面の男。黒色の髪は肩まで伸ばしており、視線はまるで獲物を狙う狼のように鋭い眼光を放っていた。
「ギルドが壊滅って言っても所詮は初心者ばっかりなんすよね? だったらそういうこともあり得るんじゃないっすか?」
強面の男の対面の席。そこでは金髪の男が呑気な口調で強面の男に答える。
彼の名前は高橋清太。先程の強面の男とはまさに対極するような雰囲気の持ち主、髪は金色に染め上げており服も彼のような正装ではなく派手な格好をしている。
二人の纏う雰囲気も服装も性格もまったく違うこの二人。しかし共通する点が一つだけある。
それは両者がこの世界の住民ではない異世界に召喚された人間だと言うことだ。
もっともお互いに居た世界、場所、時代は異なるゆえ、それぞれの文化は大きく違い同じ転生者でもその性格は個人個人で大きく違うものとなっている。
「確か貴様の世界では戦争はなかったそうだな」
「いや、戦争自体はあるっす。けどオレの国は戦争ナッシングな平和な国なんで」
「ならば教えてやろう。戦争は些細な戦局の読み違いが大きな失敗にそれこそ大多数の命が失われることに繋がる……故に不安の種はなるべく早く除去しておきたい」
「つまり調査するってことっすか……別に俺たちが出動しなくてもいいと思うんすけど。というかクレイドさん一人で行けばいいと思うんすけど!」
「どうせ貴様も暇だということは分かっている。それにギルド兵を四人も倒したんだ。それなりの手慣れだと見ていい……用心に越したことはないだろう」
強面の男ーークレイドは根っからの軍人気質だがタカハシは極度の遊び人だ。
だから任務は必然とクレイドが強制的に連れていく形となっていた。
「分かったなら善は急げだ。俺たちも森へ向かうぞ」
「ちょっ! 引っ張んないで! 折角の服が乱れるから!」
タカハシの文句などには耳を貸さず。クレイドは彼の襟首を引っ張ると引きずるようにして任務へと向かうのだった。
◇
「ようやく城が見えるところまで来ましたね」
旅を開始してから二日後、ようやく城のてっぺんが見えるところまで近づくことが出来た。
元々はアスモデウスが所有していた魔王城。しかしもはやその時の名残はなく今ではすっかり人間好みのデザインに変わってしまう。
きっとそれは城に限った話ではない。彼女が暮らしていたプルスタンの町も今では人間の好き勝手にされているはず。
そう考えるだけで心の奥底から怒りが沸いてきた。
「ここから先は人間が暮らす都だ。下手に歩けば人間どもと遭遇する機会が増える。恐らくこの町には転生者もいるだろうし出来れば過度な接触は避けたいな」
そもそも、今回の目標はアスモデウスを探すことで何もプルスタンを奪還することではない。
だったら人間相手に思うところはあるものの、出来るだけ穏便に仲間探しをするべきだろう。
「とりあえず今日はここまでだな。休憩して明日から町の近辺を探索すると」
「ええ、はい。それは構わないのですが……プルスタンへは行かないのですか?」
「お前……馬鹿だろ? 町は今では人間に占拠させられてるんだ。そんな場所にアスモデウスがいるわけないだろ」
確かに俺たちの姿は人間に酷似している。だから変装さえすれば町へと忍び込むこと自体は可能だ。
だが、俺たちの目的はアスモデウスたちを見つけることだ。さすがのアスモデウスでも敵の占拠する町に拠点を構えたりはしない。
そこんところ考えれば分かることなのだが、アイナはどうも少し抜けている部分がある。
「いるとしたらプルスタンの近辺にある村や森の中だろうな。あそこは兵士たちの監視も甘いから本拠地を構えるには丁度良い」
「確かにここには果物や熊や魚といった動植物もいますから食料には困りませんね。村なら私たちが暮らしていたように自給自足で食料を確保することも出来るでしょうし」
「そういうことだ。だから探すなら町ではなく森や村を探せ分かったな」
俺の言葉にアイナもこくんと頷いてくれた。とりあえず方針も決まったところで今日のところはこれで終わり、後はゆっくりと明日に備えて休むだけだ。
まだ夕方だし今から休憩すれば明日には十分疲れだって取れるだろうしな。
「それじゃ話も終わったところで腹ごしらえでもするか? 丁度近くに川もあるし魚ぐらいなら捕れるだろ」
「あ、ありがとうございます」
昨日は森に生えている果物を食べたがやはりそれでは物足りない。川で釣りをするのもよし、魚を捕ろうとした熊を獲物にするのだって良いだろう。
そう思って川へと向かおうとした時だった。前方の木々に二人ほどの気配を感じ俺は動きを止める。
ここまで上手に気配を消すなんて何者なのか、当然アイナは気づいておらず動きを止める俺を不思議そうに見ていた。
「あの……魔王様どうかされたのですか」
「敵だっ!」
「敵って……?」
「来るぞ!」
今の危機的状況に気づいていないアイナ。俺は彼女の身体を抱え一気に後方へと下がる。
それと同時に轟く雷鳴。それと共に先程まで居た場所に雷が落ちる。
空は晴天で雷が落ちてくるということは考えにくい……となれば。
「転生者か……」
「ご名答。さすがといっておこう」
重い声と共に声を発すると転生者が二人、木陰から姿を現すのだった。
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