第4話 図書室の女王
「お二人さん、お待たせ。」
静かな図書室に、桐野さんの声がやけに響いた。
「遅いっすよ桐さ~ん!!」
そう言いながら、神谷先輩が自分の隣の席をすすめる。
すると桐野さんは、めがねの奥の瞳を僕に向けた。
「あれ?
今日、長谷川くん休み?」
「あっ、はい。
サッカー部に、どうしても外せない
試合の助っ人に呼ばれたそうで・・・。」
「へー。長谷川くんも大変だね。」
言いながら、桐野さんは神谷先輩の隣に座る。
その途端、河谷は無意識のうちに視線を右の窓の方へずらした。
「どうしたの?河谷くん。
・・・もしかして、窓から長谷川くん
見えるの?」
桐野さんが立ち上がり、窓際に移動する。
「あっ・・・!まあ、そんなところです。」
慌てて、愛想笑いを作った。
「おー、どれどれ?」
神谷先輩も、桐野さんの隣に移動する。
二人が窓の外に集中していることを
確認すると、河谷はそっと顔を曇らせた。
・・・女性恐怖症のことは、あと何回隠せるだろうか。
そう、不安に思いながら。
河谷は、中学生の時からずっと、女性が怖かった。
特に、13歳から50歳くらいまでの女性が、怖くて仕方ない。
近くに女性がいると、なんだか気弱に
なってしまうし、敬語が抜けなくなる。
それに、明らかに避けてしまうのだ。
・・・原因が、異性への意識なんて可愛らしいものでないことくらい、発症した頃から分かっていた。
『人間が、この世で一番怖いもの
である。』
つまり、そういうことだ。
女性は、男性より単純なものではない。
それゆえに、想像もつかないような
悩みを抱えていたりする。
もちろん、男性だって複雑だし、様々な悩みを抱えている。
でも、女性は恨みや妬み、恐怖などの負の感情も、単純ではないのだ。
・・・そう思うと、女性に対して無条件に
恐怖が芽生えた。
―言うまでもないが、桐野さんは恐怖の対象外にはなってくれなかった。
「う~ん、この距離じゃ長谷川くんは見えないなぁ・・・。」
「俺でも、すぐに見失っちゃうっス・・・。」
「「戻るかぁ。」」
そう言って二人は、さっきと同じ席に戻り、座った。
そして、また河谷は先輩二人の威圧感にひるみそうになる。
長谷川なら、感じることのない圧力。
その圧力に今、押し潰されそうになっている。
「そーいや桐さん。
桐さんって、週に何冊くらい本読むんスか?」
「そうだなー、500ページの本を
5冊、ってところかな。」
「スッゲー!まじリスペクト!」
「こら、図書室では静かにしなさいっ(笑)」
・・・本当に、桐野さんの読書量はすごいと思う。
ついたあだ名は、『図書室の女王』。
その名の通り、河谷は桐野さんに、
女王のような気高さと、女王のような重圧を感じている。
河谷は、二人の会話を、ただ黙って
聞いていた。
窓から差し込むやわらかい光が、二人の顔をふんわりと照らすのを、静かに見ていた。
自分がいる場所が、本棚の影となって
光が当たらないのも、知っていた。
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