第72話 十八歳 1

 私は十八歳になった。

 あっという間だったと思う。

 エドとの決定的な別れをしてから、私は将来を見据えて『うどんとクレープ』の店を以前よりずっと大事にした。

 そのかいあって店は繁盛している。

 そして私の結婚はいまだに決まっていない。言っておくけど話がないわけではない。ただ条件が悪いからジムが反対しているだけだ。

 でもこのままでは一生独身のような気がする。

 まあ、変な人と結婚するよりはマシなのかなとは思っている。

 救いがあるとすればマリーが結婚していないとだ。彼女の場合はフリッツと婚約しているわけで、厳密にいえば私と同じではないけど仲間がいることはちょっと嬉しい。

 たぶんマリーも私と同じように思っている。いくら婚約者がいるとはいえ、周りの友達はどんどん結婚していくのだからか肩身が狭い。


「はぁ~、早くフリッツが一人前にならないかしら…」


 マリーは時々、ぶつぶつと愚痴をこぼすことがある。もちろんフリッツがいないときを見計らってだ。


「年齢ばっかりはどうしようもないわね」

「そうなのよね~」

「そう言えば聞いたことなかったけど、どうしてフリッツだったの? マリーなら自分の年齢に合った人もいたでしょ?」


 以前から思っていたことだ。庶民の結婚相手は、結婚適齢期の関係で男が年上の方が圧倒的に多い。

 だから年下ってだけで恋人にすることはないのが普通だ。

 例外は相手が見つからない人達だけ。


「何故って? それは…フリッツがかっこよかったからかな」


 惚気ているつもりなのかもしれないけど、私にはピンと来ない。


「フリッツがカッコイイ?」

「そうよ。カッコイイじゃない」

「そ、そうかなぁ。でも、ほらマリーの幼馴染の一つ年上のガットさんの方がかっこよくない? 足も長くて喧嘩も強いでしょ?」


 絶対にガットさんの方がフリッツより男前だと思う。それにガットの方はマリーに気があるように私には見えた。


「え~ガット? ダメ、ダメ。今は確かにかっこよく見えるかもしれないけど、昔は泣き虫で私の後ろに隠れるような奴だったんだから。鼻水もたらしていて…、あ~、昔を知っているからガットと恋なんてできないわよ」

「え~、それを言ったらフリッツだって似たようなものでしょう?」

「そんなことないわ。フリッツはさりげなく重たいものを持ってくれるし、仕事をしている時の彼はとてもすてきよ」


 マリーの目はマジだった。私にはよくわからないけどマリーの目にはフリッツがかっこよく見えるらしい。

 恋って目が曇るものなのかもしれないわね。

 ガットの敗因はマリーと幼なじみだったことね。小さい頃の情けない姿を知られているから、恋に発展しなかったんだわ。

 フリッツは昔から母親の手伝いをしているから、女の人に重たいものを持たせないようなことをさりげなくする。それが勝因だったのかな。




 十八歳の誕生日に贈り物が届いた。

 ドキッとした。あんな別れをしたのにエドからかと思ったのだ。

 でも違った。

 兄からだった。高価な布に包まれた箱の中にはティアラが入っていた。

 貴族の結婚式では、花嫁はティアラをする習わしだ。


 昔、そうすごく昔の約束だった。

 誰かの結婚式で私が花嫁さんのティアラを欲しがってわがままを言って困らせたことがある。


「そうだ。十八歳になったら、僕がプレゼントするよ。それをつけてアンナは結婚するんだ」

「うん。約束ね。私、兄さまから貰ったティアラをつけてお嫁さんになる」


私はその約束を忘れていた。でも兄は覚えていたみたい。妹ではなくなった私との約束を律儀に守ってくれる兄は、やっぱり優しい人だ。


「でも、もうこれ必要ないんだよね」


 行き遅れだからじゃなくて、貴族でなくなった私にティアラは必要ない。

 賢い兄がそれを知らないはずないのに、どうして庶民である私にティアラを贈ってくれたのだろう。

 約束だったから? たぶんそうだろう。兄は約束を破らない人だから。

 それでも私は嬉しかった。使うことはないかもしれないけど、あの日の自分たちを思い出して、とても暖かい気持ちになった。アネットから奪ってしまった時間かもしれないけど、これは私と兄だけの思い出だ。

 私はティアラの値段を知らない。ただとても高価なものだと言うのはわかる。

 だから私は兄と別れてから初めて手紙を書いた。読まずに捨てられるかもしれないけど、一生懸命書き綴った。何度も書き直して、すごく長かった手紙は結局、一枚になった。とてもシンプルな内容になったけど、できれば読んでくれるといいなと思う。

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