第19話 仔猫ころころ ①
猫カフェ『にゃんこの館』にいる
アメリカンショートヘアーの
三匹の仔猫たち。
床の上を石ころのように
転がりまわって元気よく遊ぶ
その可愛らしいしぐさで
みんなを魅了しているのです。
*
仔猫というのは期間限定のエンジェルだから、
その姿に癒されたくて、来店するお客様もたくさんいます。
仔猫の兄弟は
一番大きい子と一番小さい子が女の子で、真ん中が男の子です。
――この三匹の仔猫たちには名前がありません。
なぜなら、猫カフェ『にゃんこの館』スタッフではないので、
名前を付けると『情がうつる』から付けていないのです。
オーナーの美弥さんが、ある事情で仔猫たちを預かっています。
実は、この子たちの母猫が授乳中に原因不明の
【猫の突然死】で逝ってしまい、
世話をみる者がいなくなってしまったからです。
猫には心筋症という病気が多く、
今まで全く症状が出なかったのに、
ある日突然、発作が起こり、亡くなることがあります。
飼い主だった女性は、
初めて愛猫に出産をさせて五匹の仔猫が生まれましたが、
そのせいで母猫の体力が消耗してしまい、
突然死させたと思い込み、
罪の意識から泣いてばかりで……
残った仔猫たちの世話もできない状態でした。
五匹の仔猫の内、
二匹は貰い手があって他所に引き取られましたが、
三匹の引き取り手が見つからなくて、
猫カフェ『にゃんこの館』に連れて来られたのです。
しかも、猫カフェに預ける時に、
「飼いたい人がいたら、どうぞあげてください」
と、その飼い主は言いました。
仔猫を見るのもツライからと、
人に預けてしまう飼い主の無責任さが、
美弥さんには理解できません。
「この子たちに罪はないのに……」
無邪気に遊ぶ仔猫たちを見ていると、
親を亡くし、飼い主に身捨てられた、
この子たちが
早く仔猫たちの安住の地が見つかるように……
美弥さんは玄関にある
ホワイトボードのスタッフたちの写真の下に
『仔猫の里親募集』の張り紙を付けました。
スタッフでない仔猫たちは、餌代を貰って預かっているだけ
良い里親が見つかることを願うばかり――。
猫カフェ『にゃんこの館』のスタッフたちは
この小さな天使たちのことがとても気に入っています。
気の強いキジ猫の蘭子も仔猫には優しく接しているし、
お嬢さま猫のシャネルやキレると怖いハルカも世話を焼いたりして、
牡猫たちは人気ナンバーワンのにゃん太やおじさん猫のバロンも
みんな温かい目で、この子たちを見守っているのです。
黒猫のクーは仔猫に交じって、一緒に遊んでいたりします。
仔猫たちは、猫カフェ『にゃんこの館』のアイドルなのです。
お陰で猫同士のトラブルも減って、和やかな雰囲気になりました。
バーマンのマリリンは
ビルマ(ミャンマー)産の高価な牝猫なので、
繁殖猫として何度も出産経験があります。
子を産めなくなったため、ブリーダーの飼い主に捨てられて、
猫カフェ『にゃんこの館』のスタッフになりました。
マリリンは自分から仔猫たちのトイレの躾や毛つくろいを
毎日、嬉々してやっています。
きっと母猫の『母性本能』が目覚めたのでしょう。
そんなある日、『仔猫の里親募集』の張り紙を見て、
仔猫が欲しいというお客様がありました。
若い女性で、ここにも度々来店してくれますが、
猫スタッフの写真を撮るために寝ている子を起こしたり、
しつこく追い回したりする迷惑なお客なのです。
格好も派手で香水の匂いがプンプン強いので、
猫たちには
彼女は自分のブログに仔猫たちの写真を載せて、
人気のブロガーになって、
SNSで「イイね」やコメント、閲覧数がいっぱい欲しいのです。
「明日、仔猫を引き取りにくるからよろしく~♪」
単に仔猫の可愛い姿に惹かれて、
欲しがっているようにしか見えない。
こんな人に渡すのは不安でしたが……
ここのスタッフではないし、飼い主さんも誰でもいいから
あげて欲しいとの希望なので……。
――仕方なく、美弥さんは承諾しました。
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