「純白」

 そこは、常に音楽が流れ続ける街と言われていました。

 朝昼晩三六五日、途切れることなく、誰かの歌声が響いていました。音自体は微かなもので、夜人々がぐっすり眠りにつけるほどです。曲のレパートリーは多く、また一年に一曲ずつ増えていきます。

 この街に生まれ育った人々は、特に気にすることもありません。街を訪れた旅人は、少し驚きながらも、すぐその生活に慣れてしまいます。

 その時々、歌うも歌わぬもその人次第。人々は、音楽に囲まれ、楽しく暮らしました。

 

 街の外れにある山の、小さな穴の中で、少年は歌っていました。

 昼間は高らかに、夜は優しく。どんなふうに歌ったっても、少年の声は街に届きます。

 声が掠れることはありません。一音だって外すことはありません。もう百年も歌っていますが、少年の容姿は少年のままでした。明るい茶髪にルビー色の瞳。綺麗に整えられた爪は、陽の光を浴びて艶々と輝いていました。

 彼は歌うことが大好きでした。ここで暮らし始める前も、よくこの洞窟に来ては歌っていました。

 今も、彼はこれ以上の喜びは無いと言わんばかりに、その声を響かせています。

 少年は、かみさまと約束していました。

 ある時、かみさまは言いました。

『ふと思い立った。今から、世界を滅ぼそうと思う。だが、お前の歌声を失うのは惜しい。今世界滅ぶのと、お前が歌うのをやめた瞬間に世界が滅ぶのとでは、どちらが良いか?』

 少年は言いました。

『僕は、どちらでも構いません。しかし、確かに、歌えなくなってしまうことは悲しい。僕は歌い続けることにしましょう』

 そうして、かみさまから不思議な力を貰った少年は、ずっとずっと歌い続けています。

 街の人々は、ただ歌い続けることになった少年を哀れに思い、1人世話役をつけることにしました。その仕事はある一家の中で引き継がれ続け、一種の伝統となりました。

 もう、外の世界のことなんてこれっぽっちも分からない少年ですが、己を不幸だとは思いませんでした。むしろ、幸福だと思っていました。何も考えず、己の好きな事だけをやり続けていれば良いのです。

 少年が少女と出会ったのは、そんな冬の寒い日のことでした。

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