2人目の異世界案内人

ちびまるフォイ

めざせ!完璧な案内人!!

「おい……」


「いや、うん、言いたいことはわかる。

 あれだよね。死んでもないのに何で異世界にいるかってことだよね」


「あんたがズボン履いてないことだよ」


「いや、急に転移してくるもんだからトイレから出てきた直後なんだよ。

 それより、君には話さなきゃいけないことがある」


神様は風通しのいい姿のままで話し始めた。


「実は調子こいて異世界転生させまくっていたんだよ。

 でもチートも毎回与えるわけにいかないじゃん」


「業界の闇ですね」


「そしたら、冒険者がバッタバッタと死んじゃうわけ。

 転生させたのはいいけどすぐに殺しちゃうのは神的に嫌なのよ」


「……それで俺にどうしろと?」


「異世界の案内をやってもらいたい! 無料相談所的な!」


「お断りします!!」


「いや、断るもなにも、転生者が勇者として独り立ちしなくちゃ

 お前現実世界に帰れない呪いかけたから」


「神の風上にも置けねぇよこいつ!!」


かくして、現実世界では営業の仕事をしていたのと

死んでも誰も心配しないからという理由で俺は転生者到着前の異世界にやってきた。


これからやってくる冒険者に完璧なナビゲートをして、

ぺーぺーの素人転生者を立派な冒険者にする必要がある。


「あ、でも3人までだから。これからくる転生者は3人だからチャンスは3回。

 以降はお前は不適合だったとしてもう戻さないから」


「慈悲なさすぎぃ!」


「そうでもしないとがんばらないっしょ」


しょうがないので転生者が来る前に周辺の状況をリサーチした。

強い敵が出るエリアに、強い武具を討っているお店、レベル上げポイント。


「よし、これだけあれば大丈夫だ! どんとこい!」


準備が整うと転生者がやってきた。

肌は真っ黒で確実に自分が苦手なタイプだと細胞レベルで感じ取った。


「なーに。ここ? マジ超やべぇんですけど」


「ギャル転生って……」


「あんた誰?」


ギャルは苦手だがこの子が勇者になってもらわないと

現実世界に帰ることはできない。ぐっとこらえて案内を続ける。


「私はこの世界のナビゲーターです。あなたにお得な情報を与えられますよ」


「ふーーん」


「まず、あなたはレベルが低いので南の洞窟に行きましょう!

 そこでなら効率よくレベルが上がりますよ!

 あ、その前にこっちの武具屋さんの剣が効果的で……」


「それよりさ、クラブないの?」


「クラブ……?」


「んなめんどくさいことしなくっても踊れば世界平和じゃん☆

 てか、ネイルしたいんだけど。あと日サロは?」


「えーーっと……」


「マジ使えねぇ! あたし冒険やめるーー!!」


「ええーー!!」


最初の冒険者:ギャル …失敗。


神様の人選のいい加減っぷりに苦情を山ほど送り付けたくなるが

とうの本人は雲の上なので文句も届かない。


「くっそ……どんな人間が来たとしても対応できるようにしないと。

 とにかく、このあたりをもっと細かく見ないとな」


転生してくる人間が冒険を求め、世界を救う意欲に満ちた新入社員みたいなやつばかりじゃないんだ。

日サロだろうがクラブだろうがネイルだろうが案内できるようになって、

いい気分になったところでそれとなく冒険させるしかない。


……じゃないと、俺が現実に帰れない。


「ふむふむ、ここにこれがあるのか……よし」


誰が来てもいいように世界のあらゆる場所を記憶した。

名物も穴場も裏スポットもなにもかも。


「これならどんな奴が来てもばっちりだ!!」


自信満々になったところで2人目の転生者が送られていた。


「やれやれ……これが異世界か……」


「はじめまして。俺はこの世界のナビゲーターです。

 あなたをスムーズに冒険へと漕ぎ出すお手伝いをさせてもらいます!」


「フッ……やれやれ、僕の周りはいつも騒がしいな」


いちいち「やれやれ」と自嘲ぎみに話さないと気が済まないのか

ちょいちょいイラっとするが前のギャルよりはずっと扱いやすい。


「やれやれ……世界を救うとしますか。近くの街はどこだいやれやれ」


「語尾につける言葉じゃないでしょ。

 次の街はここからまっすぐ歩いた場所にありますよ」


俺はわかりやすいように方角も指さした。さらに情報も付け足す。


「さらに! 街で売られている防具で"なべのふた"というのが安くておすすめです!

 宿屋はちょっと高めなので誰かの家で泊まる方がいいですよ。

 裏道にはゴロつきがうろうろしているので近づかない方がよくって、

 井戸の中には変わった収集家が住んでいる家が隠されています。

 それにそれに……」


「や、やれやれ……先へ行くか……」


「あ、待ってください。ここの平原にはゲル状モンスターが出てきます。

 主な攻撃は体当たりなので脅威ではないんですが酸性なので鎧が溶けます。

 ダメダメ! そっちの渓谷は鳥モンスターのエサ場で強いモンスターが……」


「やれやれ! もう冒険やめるーー!!!」


「ええええええ!?」


2人目の冒険者:やれやれ主人公 …失敗。



「やれやれ、なんだよさっきから! ごちゃごちゃ言ってさ!

 お前知りすぎなんだよ! なんなの!?

 冒険してる気ぜんっぜんないんだけど! やれやれ!」


「俺はあなたを安全に案内しようと……」


「やれやれ! 細かすぎるんだよ! お母さんか!

 もっと見知らぬ場所への冒険心をくすぐらせてよ! やれやれ!」


「す、すみませんでした……」


この世界のことを隅々まで知り尽くしたのが裏目に出た。

つい、自分の知っている知識を話したくなって口うるさくなってしまった。


これじゃ冒険というよりも、ただのツアーだ。


世界を救う冒険者になりたいと思わない。

もう残された転生者は1人。なんとかしなくては。


「よし、でも俺が悪かった原因はわかったし

 必要な情報を必要な分だけ与えれば問題ないんだ。うん」


自分の反省点を見つめ直して次の転生者を待った。

やってきた3人目は没個性という表現が似合う男だった。


「ここはいったい……」


「はじめまして、私はあなたをサポートする人間です。

 なにかご用命がありましたらなんでも仰ってください」


これまでの"ナビゲーター"という立ち位置から

サポートする側へと立ち位置を変更した。


「じゃあ、ここはどこなんですか?」


「ここは、マジュラス大陸。剣と魔法と水機械の世界です」


あえて情報量を制限しつつ、気になるキーワードを入れていく。


「水機械?」


「別名:ウォータ・アーミーメイルと呼ばれるもので

 水を造形して作られたロボットです。

 この世界の魔王を倒すために作られた人間の英知です」


この世界のことや、冒険者として目指すべき目標を

相手が受け取れるだけの情報量で少しづつ解説していく。


これなら2人目のようにうんざりすることもなく

自然に冒険に関心が向いていくはずだ。


「すごい案内が上手ですね。あなたはいったいどうしてここに?」


「勇者が序盤で冒険を投げ出すことが多いので、

 私のようなサポーターがお手伝いするようにと呼ばれたんです」


「そうなんですか。すごく興味が引かれました」


「ほんとうですか! よかった!!」


今までで初めて冒険者になってくれそうな手ごたえを感じた。

これでやっと現実世界に帰れる。


3人目の転生者にはそれからも知っている情報を伝えながら

完璧な冒険者にさせるべくナビゲートをつづけた。


「自分の道が見えました! ありがとうございます!」


「いいえ、こちらこそ。あなたのように意欲が高い人を案内できてよかった」


そして、転生者は自分の道を決めた。




「僕も、あなたのような立派な異世界案内人になります!!」




パーフェクトすぎる案内に心打たれた転生者は

冒険者の道よりも俺にあこがれて案内人の道を志した。



最後の冒険者:案内人を志す …失敗。

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