2.いじめっ子といじめられっ子~母と娘1~
「ただいま戻りましたー」
「おかえりなさい。あら、石川さんは?」
「店に顔を出してから来るらしいです」
「そうですか」
喫茶リリィには、まだ鈴木のおっさんと溝口さんがいた。他にお客さんは来ていないようだ。いつもと違うことといえば、ジジィたちはテーブル席ではなく、カウンターに移動している。
「珍しいっすね。カウンターに座ってるなんて」
「ちょっとね、三人でいろいろ相談していたんだよ」
「なんの相談すか?」
いつもにこにこ笑っている溝口さんが真剣な表情になった。その様子をみて、楽しい話ではないと察する。
「あいちゃんのことですよ。いじめの加害者が商店街の関係者と知ってしまった以上、見過ごす訳にはいかない。私たちに出来ることはないか、と相談していたんです」
「とりあえず、このことを八百屋の白井(しらい)さん夫婦に話してみようかってまとまったんだけど、冬馬くんはどう思う? 若者の意見を聞かせてほしいな」
溝口さんに意見を聞かれ、俺は「すこし考えをまとめさせてください」と時間をもらった。考えている間に石川さんが合流し、彼もカウンター席に座った。まさか、いじめにかんしての意見を求められるなんて思ってもみなかった。もっと他に適任者がいると思う。
その理由は、俺は今までの人生で、いじめたこともいじめられたこともないからだ。どっちの気持ちもわからないのに、的確なコメントが出せるのだろうか?ただ、俺は当事者ではなかったけど、中学の時にクラスでいじめが起きたことはある。
あるリーダー格の女子が集団をまとめあげ、一人のおとなしい女子をいじめていて、最終的には先生が間に入って止めていた。その時、俺は初めていじめを知った。それ以降、悪口を机にかかれたり、物がなくなったりするようなことはなくなったけど、いじめられていた子は孤立したままだった。
俺が知らないだけで、見えないところでいじめは続いていたかもしれない。意地悪をされなくなっても、あの子の中学生活は楽しくないままだったと思う。そう考えると、結局、大人が介入したところでなにも解決しないかもしれない。家族でも担任でもない大人がかかわったところで、何の効果も得られない気がする。
過去を振り返って導きだした俺の答えは、これだった。
「水を差すようで申し訳ないですけど、子供の問題に大人が口を挟むと余計にもめるんじゃないですか? 八百屋に事情を話したら〝親にチクったでしょ”ってあいちゃんが責められると思います」
「その辺は、八百屋がうまくやるだろ。商店街の人間に悪いやつはいないからな!」
「なんすか、その異常な仲間意識……」
鈴木のおっさんの根拠のない自信はどこからやってくるのだろう。こういうタイプが一番問題をこじらせそうだ。
「たしかに白井さんご夫婦は優しくて心が広い方なので、話を聞いてくださると思います。なにより、娘の実可子(みかこ)ちゃんは素直で明るいいい子なんです。私は今でも、実可子ちゃんがいじめをしているだなんて信じられなくて……」
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