ダメ姉は、オシオキされる(準備編)

「―――マコってどっちかというとSじゃなくてMよね」

「い、いきなり何なのカナカナ……?」

「……わかるー。どう見てもMだよね。頭文字もMだしね」

「ヒメっちそれ関係ある……?」

「エス……エム?……そうですか?先輩ちっちゃくてカワイイですし、どう見ても服のサイズはSですよね?」

「レンちゃん、君はこのダメば先輩たちに毒されることなく、いつまでもその純真さを忘れないで頂戴ね」

「じゃあマコは自分がSだって思うの?人を叩いて喜ぶような性格じゃないでしょあんた。どっちかというと好きな人に好きなようにされることに興奮を覚えちゃうタイプでしょ」

「……絶望的に、Sには向いてない。天性のドMだと思う」

「いや、その前に一つ言わせてくれカナカナ、ヒメっち。そもそもさ二人とも。…………なんでSかMかの二択なの?わ、私ノーマルだからね……一応?」



 ◇ ◇ ◇



 ホワイトデー本番。最愛の人からバレンタインにチョコを貰っておきながら、よりにもよって熱を出してしまった私、立花マコ。

 その後コマの献身的な愛の看病もあり、あっさりと熱自体は引いたんだけど……


『バレンタインのお返し。ホワイトデーに遅れた罰。そして……自分の身を顧みずに無理をした罰。合わせて3倍身体で払ってもらいますね♪今日一日、姉さまは私に絶対服従です!』


 と。コマにとてつもなく素敵な笑顔で宣言されてしまった。……い、一体私……コマからどんな素敵な目に―――じゃない。どんな恐ろしい目にあわされちゃうんだろう……

 や、やっぱし……アレか?イロイロと……エロエロと……されちゃうんだろうか?


「姉さま?顔色が優れないようですが……大丈夫ですか?もしやまだ体調が万全ではないのでは?」

「へ?あ、いや違う違う。コマのお陰でおねーちゃん元気いっぱいだよ」

「……本当、ですか?また無理をしているのではないですか?」


 これから行われることに対して期待と不安と恐怖と興奮が織り交ざって百面相をしていた私に、コマは少し心配そうな顔で私を覗き込む。

 おっといかんいかん……コマが気分よく私にオシオキしようとしているというのに、テンション下がるような事しちゃダメだよね。


「本当だって。もう元気あり余ってるから安心してよ。……それよりもさ、コマ?」

「あ、はい。どうしましたか姉さま?」

「その……さ。これから私……オシオキされちゃうん……だよね?」

「……はいっ!それはもう、たっぷりとさせていただきますね!」


 子どものようにあどけない表情から一変。瞳を怪しく光らせて誘惑するようにコマはハッキリと告げる。


「もしやお嫌ですか姉さま?」

「へっ?あ、いや嫌ってわけじゃないよ。……お手柔らかにお願いしたいなーとは思ってるけど……やらかしたのは私なんだし、それを甘んじて受けなきゃいけないってわかってるからオシオキ自体は良いんだよ。ただ……」

「ただ?」

「……その。オシオキされるはずなのに……どうして私、さっきからコマにプレゼント貰ってばっかりなのかなって思って……」


 【一日絶対服従】と宣言されてから、色々覚悟を決めていた私なんだけど……さっきからコマは私に―――


『姉さま姉さま!このリボンとかどうですか?可愛くないですか?』

『え?あ、ああうん……か、可愛いけど……な、なんか随分と長いリボンだね……?』

『これ買いましょう!絶対姉さまに似合いますよ!』

『そ、そうかなぁ?似合う……かなぁ?そもそも私、髪そんなに長くないし……リボンする必要は……』

『買いましょう、ね?』

『ア、ハイ…………マコ、買います……じゃ、じゃあお会計を……』

『いいえ、私が払いますっ!買ってあげます!これ、姉さまにプレゼントしちゃいます!』

『そ、そんな事しなくて良いって!?わ、私のなら私のお金を……』

『……姉さま、言いましたでしょう?【一日絶対服従】だって。姉さまは黙って私にプレゼント受け取ってくださいませ』


 ―――と。こんな具合に色んなお店に立ち寄って私の為にと色んなものを見繕っては、何故か私にプレゼントしてくれている。オシオキって言われていただけに、コマの荷物持ちしたりとか……何かコマの欲しいものを買ってあげるとか……コマの欲求を解消したりとか。そういうのを期待していたんだけど……

 荷物持ちすらさせてくれないし、プレゼント貰ってばかりだし、スキンシップも手を繋いだり腕を組むくらいで健全だしでなんか思ってたのと違うんだよね……つーかこれ、ぶっちゃけただのデートでは……?


「こんなんじゃオシオキにならないでしょ?コマ、ちゃんと私へのオシオキ考えてる?」

「……ふふ。ええ、勿論考えています。それに、これも立派な姉さまへのオシオキですよ」

「どゆこと?」

「きっとそのうち分かりますよ。それよりも姉さま!次のお店行きましょう!ほら、早く♪」


 私の疑問をよそに、コマは意味深な事を口にしつつとても楽しそうに私の手を引く。……意味はよくわからないけど……まあ、コマが楽しそうならそれでいっか。



 ~ドラッグストア~



「姉さま。姉さまって……ここ最近あまり眠れていないって言ってましたよね?」

「へ?あー、うん。ホワイトデーの事で切り詰めすぎてあんまし眠れてなかったかも」

「でしたらこのアイマスクとかどうですか?これがあればよく眠れると思うのですが」

「んー?どれどれ……うぉ、凄いねコレ。真っ暗。全然前が見えないや。これあるならよく夜眠れそうかもね」

「……なるほど。全然見えませんか。それは買いですね♪」



 ~アクセサリーショップ~



「姉さま。このチョーカーはどうですか?可愛くないですか?」

「……あ、ああうん。可愛い……かもね」

「これ姉さまにお似合いそうですね。どう思います?」

「……コマが言うなら……そう、かもね……」

「姉さまもお気に召していただけましたか!でしたらこちらも買いましょうねー♪うふふ、かわいい……」

「(チョーカーっていうより、犬の首輪っぽく見えるのは……私の気のせいだよね?)」



 ~家電量販店~



「あ゛ー……そこそこコマ……効くぅ……きもちいい……」

「随分とお気に召されたみたいですね。そんなに気持ちいいですか?このマッサージ機」

「うん……無駄に胸デカいせいでコリまくりな肩の凝りが、めっちゃほぐれるのわかるぅ……あー、これホントいいわぁ……」

「ふふ♪姉さま、お顔が蕩けちゃってますよ。そんなに気持ちいいなら、お家に一台あっても良さそうですね。姉さま、これも買っちゃいましょう」

「えっ……で、でもコマ?これ結構なお値段するんだけど……」

「良いのです。姉さまが喜んでくれるならこの程度の出費、痛くも痒くもありません。それに…………以前からこれを姉さまに使ってみたいって思っていましたから」



 ◇ ◇ ◇



「あー、楽しかったぁ!」


 そんなこんなでコマと共に楽しくお買い物デートを堪能した私。


「お疲れ様でしたマコ姉さま。私の我が儘にお付き合いいただき、ありがとうございます」

「なーに言ってんの。感謝するのは私の方だよ。大好きなコマとイチャイチャ出来た上に、こんなにプレゼント貰ったわけだしさ。本当にありがとうコマ」


 お家に帰ってすぐに感謝をしてくれるコマ。お礼を言わなきゃいけないのは寧ろ私だ。結局私、お金は一銭も使わずにコマに貢がれるだけ貢がれてしまったわけだもの。


「それにしてもコマ……いいの?結局オシオキなんてなかったんだけど」

「え?」


 ベッドに腰かけながらコマに尋ねる。コマから贈り物を貰えるなんて最高だしデートも死ぬほど楽しかったけど、本来今日の目的はホワイトデーでやらかしてしまった私へのオシオキだったはず。


「これじゃあオシオキじゃなくてご褒美になっちゃうじゃない。オシオキの話、どうなったのかなーって思ってさ」

「……ああ、なるほど」


 散々覚悟しておいてくださいと言われておいて身構えていたのに……ひょっとしてオシオキってコマの冗談か何かだったのかな?まあ、無いなら無いで別に良いんだけど……

 そう尋ねる私に、コマはにっこりと笑顔で―――何故だか背中がゾクリとする笑顔でこう告げる。


「姉さま。さっきまでのデートはですね、ただのデートではありませんよ。あれもオシオキに含まれてます」

「……???ええっと……と言うと?」

「姉さまの為に見繕ったあのプレゼントを見て気づきませんでしたか?あれはですね―――オシオキの為の、です」

「え…………きゃっ!?」


 コマによくわからないことを言われたその直後、何の前触れもなく私の視界はゼロになった。

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