第12話 生き残り

何かすべるような感覚と共に気持ち悪くなり目を開けようとしたが瞼が重く張り付いたような感覚がして目を擦ろうと手を動かそうとしたが何かに固定されているようで思い通りに動かないし身体も何か麻痺しているような感覚がした。

(どうなってるんだ?死んでいるのか?)

信二が口を開けると開いた感覚があるので信二はもう一度目を開こうとするとバリバリっという感覚と共に開くことが出来たが、なにかゴミが目に入りまた目を閉じた。

(どうやら目ヤニが固まって開きにくくなっていたようだ)

涙を流しながらなんとかもう一度目を開くと目の前に戦闘機のパイロットの様な格好をした黒人の男が立って信二を見下ろしていた。

「×××××」

何か話すのが聞こえたがうるさくてなんと言っているかわからなかった、だが天井が低くパイロットみたいな男は頭のすぐ上にある手すりの様なものを掴んでヘルメットから伸びるインカムになにか話しかけた。

(俺はどうやら生きているみたいだが、頭がうまく回らないし、何か気持ち悪い)

思わず目を閉じて気持ち悪い感覚が収まるように待っていたが何かが目の前を移動しているのを感じ目を開けるとそこにはキャシーの顔があり思わずビクッとするとキャシーが後ろを向いた、信二も首を捻ってそちらを見るとケンジとトウカが床に四つん這いになりながらこちらを心配そうに見ていた。

「大丈夫か?信二?」

何か周りがうるさいがケンジの声は大きくはっきりと聞こえた。

「ここは何処だ?天国じゃないよな?ケンジがいるんだから・・・」

うるさいので声を大きくして言ったが声に力が篭らず弱々しくなった。

「そんなことよく言えるな!こっちは心配したんだぞ!!」

「すまんすまん、冗談だよ、冗談」

ケンジが今まで見たこと無い様子で怒ったので素直に謝ったがケンジが信二のことを本気で心配していることが分かり少しうれしかった。

するとキャシーが不思議そうな顔をして聞いてきた。

「なんで笑ったの?」

「いや、気にしないでくれ、それよりも俺はどうなってるんだ?ケンジ?説明してくれないか?」

ケンジを見るとケンジの隣のトウカも先ほどと同じように心配そうに信二を見ている。

「そこの兵士が言うには化け物が飛びついて二分もしない内に発砲音と爆発があって兵士と灰色の化け物がロープから落ちて、信二は気を失って宙吊りになっていたので慌てて引っ張り上げて手当てをしてもらったんだよ」

「なんか体が変な感覚なんだがそれはどうしてだ?」

信二が尋ねるとケンジがキャシーを見た、キャシーは先ほどの黒人の兵士に英語で話しかけるとすぐに黒人の兵士が英語で手短に答えるとキャシーが英語で答えてから信二を見た。

「それは全身に怪我をしていて足にも傷や何かの破片が刺さっているから鎮痛剤を打ってあるからだって」

確かに散弾銃を撃って痛めた左手の人差し指の痛みもしないし、手榴弾が近くで爆発したのに身体に痛みは感じなかった、だが鼻に何か詰めてあるようで違和感を感じる。

「そうか・・・・、なら今俺はヘリに乗っているのか?だからすべるような変な感覚がするのか?」

ヘリは乗るともっとうるさいもんだと思っていたが、確かに羽の音がうるさいが少し大きい声を出せば十分会話が出来た。

キャシーは信二の言葉を聴いたはずだが答えずに後ろにいるケンジを見たので、信二もそちらを見るとケンジが答えた。

「そうだ、俺達は救助されたヘリに乗ってアメリカ海軍の空母に向かってるんだ」

「空母?在日アメリカ軍の基地じゃなくて?」

「あぁ、基地じゃなくて空母に向かっているとキャシーが俺達に説明した、それに俺達に何か聞きたいことがあるみたいだ、あの灰色の化け物がなんなのか?とかだろうな」

思わず信二はため息を付いて答えた。

「あの化け物がなんなのかは俺が聞きたいよ・・・、でもアメリカの空母に乗ることが出来るんならひとまず安全だろうな・・・」

「そうだな・・・」

ケンジもそこまで言うと黙ってしまった、信二はケンジの隣にいるトウカを見たが、トウカは信二と目が合うとすぐに視線を外したので反対側のスライドドアを見ると外を見れる小窓が目に入った。

「キャシー、ちょっと外を見たいから起こしてくれないか?」

「イェス」

返事をしたキャシーが信二の背中と床の間に手を入れて起こそうとした、信二も身体に力を入れたが鎮痛剤のせいかうまく起き上がることが出来ないでいるとパイロットの様なヘルメットをつけた黒人の兵士が手伝ってくれてなんとか起き上がった。

「センキュー」

一余お礼をいったが何も反応せずにヘリのパイロットのいる操縦席のほうを向いて何か話し始めた、その時、信二の足元に灰色の化け物の肘からちぎれた腕が置いてあり千切れた部分から少し血が流れて小さな血溜まりを作っているのが見えた。

「あの腕はどうしたんだ?」

「信二の左手を握っていたんだよ、それをケンジとさっきの兵士の人が二人かがりで指を一本づつ引き剥がしたんだよ」

「そうか・・・」

返事をしながら掴まれていた左手を見ると掴まれていたところは服の下で分からないが指先の散弾銃を撃ったときに負傷した人差し指は包帯がグルグルに巻かれて固定されているようで動かすことが出来ず痛みは感じなかった。

(指が変な風に曲がり爪の間から血が出ていたが元に戻るかな・・・・)

「どうしたの?信二?」

「いや、なんでもない、うまく力が入らないから背中を押さえていてくれないか?」

「わかった」

キャシーが答えると信二の背後にまわって背中を両手で押さえてくれたので信二は安心して隣のスライドドアについている小窓から外を覗いて思わず息を呑んだ。

下に見える建物の所々から黒い煙が立ち上り道路には事故を起こしたバスやトラックなどが放置されその周りを精神病患者たちの集団がふらふらとさまよっているのが見えた。

ビルなどの建物は窓が割れその下の道路には飛び降りたのか落ちたのかわからないが真っ赤に染まるくらいの死体が山積みになっている。

ヘリはどんどん都心に近づいて行くがそこはもう地獄絵図のような状態で死体なのか精神病患者なのか分からないような人影が道路を埋め尽くし東京駅らしき場所では列車が脱線事故を起こして何台もの車両が横転し車両の中が血まみれになっているのに人影が動き回っているのが見え信二はもうそれ以上外を見るのを止めた。

「キャシー、もういいから寝かせてくれ」

言うとキャシーは信二をゆっくりと床に寝かせてくれて思わず目を閉じた。

(日本はどうなってしまってるんだ?もう日本は終わりなのか?)

ケンジに聞こうと思ったがケンジだって分からないだろうから聞かない方がいいだろう、思わずため息を付いてしまうと何かやわらかくて温かいものが信二の額に当たったので目を開けるとキャシーが信二の頭を撫で始めた。

「信二、今は助かったんだからしっかり休んで、そして私の父親を探すのを手伝ってくれるんでしょ?」

思わず信二は笑って答えた。

「もちろんだよ」

(そうだ、俺はキャシーとの約束があるんだ、それにケンジやトウカとの約束もある、明日がどうなるか分からないが俺にはやることがある、それにケンジもいるんだ)

そう思うと暗い気持ちになっていた心が少し楽になったような気がする。

目を閉じて身体を休めたがキャシーは信二の頭を撫でるのやめなかったので、人のぬくもりを感じ安心しながら身体を休めるために眠った。

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