第10話 脱出

化け物の中から出てきた赤い塊はゆっくりと動き始めると表面に付いていた血が流れ落ち灰色の表面と立ち上がる姿を見ると、背筋がゾクゾクして手足の震えが止まらない。

人間の形をしているが身長が二メートルで皮膚が灰色で、髪の毛などの毛は一切無く灰色の肌が人の肌とは違いテカッていて滑らかなように見えたが最大の違いは顔で、灰色の人間の頭には口や鼻が一切無く無数に穴が開き白いホクロのようなものも見えた。

赤髪の男は足を掴んでいる手をもう片方で蹴飛ばして必死に逃れようとしたが灰色の化け物は赤髪の足を掴んでいる腕を上下に振りはじめた。

「助けでぐれ!!だず」

赤髪の男は上下に振り回されながら助けを求めて何かを掴もうと手を当たりしだい振り回しながら叫んだが道路に叩きつけられ、赤髪の男が声にならない叫び声を上げるが灰色の化け物は繰り返し赤髪の男を上下に振り回し身体が道路に何度もぶつかる音と共に助けを求める手が道路に叩きつけられ骨が折れる鈍い音が何度も聞こえた。

信二は近づいてくるアメリカ海軍の兵士達を見るとヘルメットにゴーグルをつけているため表情は分からなかったが先頭の兵士と後ろの兵士がこちらに銃口を向けその背後で無線機か何かにヘリの音に負けないように怒鳴っている兵士が見えた。

灰色の化け物は赤髪の男の変な所で曲がりアスファルトに削られて血まみれになった腕をもう片方の手で軽く掴むと腕が千切れ赤髪の男が悲鳴を上げた。

灰色の化け物は千切れた赤髪の腕を投げ捨て腕が宙を舞って道路に落ちるのと同時に赤髪の男を道路に打ち付けて動きを止めた、赤髪の男は足を掴まれ腕が千切れた肩から血を流しながらも必死に片腕で道路に爪を立て逃げようとした。

「イワサキ!」

倒れていたタカハシが散弾銃の銃口を灰色の化け物に向けた瞬間に灰色の化け物が赤髪の男をタカハシに向かって投げつけたが、同時に発砲音が聞こえた。

信二は思わず目を閉じた、散弾銃の発砲音で耳がおかしくなったのか周りの音が聞こえなくなり信二はゆっくりと目を開けると散弾銃を持ったタカハシに赤髪のイワサキと呼ばれた男が折り重なって倒れてその下からは血が溢れ出て血溜まりが広がっていくのが見えた、灰色の化け物を見たが灰色の化け物は無傷で立ち尽くしていたが素早くアメリカ兵の方を向くと素早く走った。

「ファイア!ファイア!」

上空でホバリングしているヘリから聞こえると地上にいる兵士達とヘリの横から威嚇射撃をしていた兵士達が灰色の化け物に向かって銃撃を始め、今まで聞いていた散弾銃の発砲音とは比べ物にならない連続した発砲音と信二の近くを流れ弾がかすめ空気を切り裂く音が聞こえ耳が痛い。

灰色の化け物は怯む様子も無く地上のアメリカ兵たちに向かって走り、先頭でアサルトライフルを撃っている兵士に向けて腕を一振りすると宙を舞い近くに倒れていた精神病患者の上に倒れこんだが灰色の化け物は眼もくれず残りの三人を殴り飛ばすと発砲音が止んだ、上空を飛ぶヘリを見ると灰色の化け物の近くに仲間が倒れているため撃てないようだ。

灰色の化け物がしゃがみ近くに倒れているアメリカ兵の頭を持ち上げるとアメリカ兵が素早く腰の拳銃を取り出し灰色の化け物の腹めがけて発砲し抵抗すると拳銃を掴んでいる腕を灰色の化け物が素早く掴み鈍い音と共に腕が九十度に曲がり手から拳銃が落ちるのが見え、灰色の化け物がアメリカ兵の首をねじ切り血が噴出したが気にする様子も無く立ち上がると血が滴る首を腹部に持っていくと灰色の化け物の腹部が開き血の滴る首をその中に入れた。

(マジが!頭を食べたのか!)

背後で頭が無くなった身体が不気味に痙攣しながら首から血を噴出しているのが見える中、灰色の化け物は次に近くにいるアメリカ兵に向かい、アメリカ兵たちは銃を構えることなくその場から這って逃げ出そうと必死な表情が見えたが信二の近くで灰色の化け物に投げられたイワサキの身体が動いた。

イワサキは転がって仰向けになったが口と目を開ききった状態で首から胸にかけて血まみれで赤白い肉のようなものが見えていた。

(どうやらタカハシが撃った散弾銃の弾は化け物が投げたイワサキに当たったようで生きてはいなさそうだし生きていたとしても助からないだろう)

潰されていたタカハシは近くにあった散弾銃を取り銃に残っている空の薬莢を出して地面に投げ捨てると胸ポケットを探り新しい薬莢を取り出して詰めると遠くに移動した灰色の化け物を見てから信二に散弾銃を向けてきたので信二は頭を下げて出来るだけ屋根に張り付いて身を隠して目を閉じた。

発砲音と同時に信二の近くを銃弾が飛んでいく音と車の窓ガラスが割れる音が聞こえ銃弾が下のハイエースの車内を反射する音が聞こえ身体が震え上がったが目を開けると目の前のハイエースの屋根が散弾銃の反射した弾のせいでボコボコに膨れているのが目に入った。

「クソッ!次は外さん!」

タカハシは散弾銃を降ろして自分の左肩を押さえた、どうやら倒れた時かイワサキがぶつかった時に肩を痛めたよで散弾銃でうまく狙えなかったようで助かった。

「信二!早く入れ!」

ケンジの叫ぶ声が聞こえ慌て声のする方を見ると二階の『ルブラン』の窓から信二に向かって手を伸ばしていた。

「信二!早く!」

ケンジが再度叫んだので信二は慌てて立ち上がったが先ほど投げたアルコールで濡れているため滑りやすくなっていて一瞬足を滑らせたがすぐに立ち上がりながらタカハシを見ると新しい弾を入れ換えたタカハシが信二に向かって散弾銃を構えるのが見えた、だがそれと同時にタカハシの近くに何かが落ちて派手な音を立てて割れ、タカハシの動きが止まった。

「池田!!早く入れ!」

信二が上を見ると三階のリビングの窓からトウカがタカハシに向かって皿を投げつけているのが見えた、タカハシも上を見上げトウカに気が付き散弾銃の銃口を向けたがすぐに部屋の中に引っ込んだ。

慌てて信二はハイエースの屋根の上を歩いてケンジの伸ばしている手を掴むと強引に引っ張られ窓枠に腹を打ち付けながら店の中に飛び込んだ瞬間に発砲音と背後を銃弾が飛んでいく音が聞こえた。

「大丈夫か?信二!」

ケンジが心配そうに話しかけてくるが倒れている信二は自分の足に銃弾が当たっていないか触って確かめると服はなにか良く分からない黒い汚れや石やガラスの破片が付いていたが穴が開いて血が出ている所は無く足に痛みは無かったが窓枠にぶつけた腹に鈍い痛みを感じた。

「信二!おい!撃たれたのか?!」

肩を揺すられケンジを見た。

「いや、撃たれてないが窓枠にぶつかった腹が痛い」

「撃たれてないなら大丈夫だ、さぁ、立て、俺達も上に移動しよう、立てるか?」

「大丈夫だ」

信二が立ち上がろうとするとケンジが手を差し出したので手を取ると引っ張り上げてくれた、窓の外からはアサルトライフルの連続した発砲音が聞こえる。

「信二、早くしろ!」

ケンジはベランダに向かって行ったので信二も急いでその後を追ってベランダに向かうとケンジが急いで避難梯子を上っていき信二もその後について避難梯子を上り三階に移動した。

「信二、誰かが後を追ってきても登れないように梯子を上げてくれ」

「わかった」

返事をするとケンジはそのまま部屋の中に入っていた、信二は上ってきた避難梯子を三階に持ち上げ二階から取れない位置に寝かせて部屋の中に入るとトウカとキャシーとケンジがリビングの窓から外の様子を見ながら何か話していて信二が近づくとキャシーが振り向き走って近づいて来て心配そうに聞いた。

「大丈夫?信二?」

言いながら信二の身体を見渡して怪我がないか確認した。

「あぁ、大丈夫だ」

返事をしながらトウカとケンジを見ると二人ともこちらを見ていた。

「トウカさん、さっきは助かったよ、ありがとう」

「生き残るために協力するって言ったでしょ?それにお礼は助かってからでいいわ」

「わかったよ」

返事をして信二は目の前で心配そうに信二を見ているキャシーの肩を軽く叩くとキャシーが何か言おうとしたがケンジの声が聞こえた。

「キャシー、ヘリの奴らはなんて言ってるんだ?」

先ほどから発砲音に交じりスピーカーから英語の声が聞こえるが信二やケンジとトウカには英語が分からなかった。

キャシーは窓際に近づいて外から聞こえてくる発砲音とヘリの音に怯えながらスピーカーから流れてくる声に耳を澄ました。

信二はキャシーの後について窓際に移動して下の道路を見るとアメリカ兵が仲間の兵士を抱えて逃げている後ろを灰色の化け物が追いかけると化け物の足元が爆発して砂埃が舞い上がった。

爆発音でキャシーの身体がビクッとして振り返りケンジを見てからトウカを見て怯えながら話した。

「ヘリからは『建物の中にいるものは両手を挙げて出て来い、抵抗をするなら射殺する』と言っているわ」

「精神病患者だけでなくあの化け物と軍隊が戦っているような場所に手を上げて出て行けって言うの?危険すぎるわ!」

トウカが叫ぶように言いケンジも頷いた。

「確かに今あそこに行くのはやめたほうがいいが、だからといってここにとどまっていたら救助されないかもしれないな・・・・、どうする?」

ケンジが聞いてきたので信二も困った、するとキャシーがケンジの手を引っ張って聞いた。

「どうするの、ねぇ?」

「どうする?」

ケンジが信二を見るとキャシーやトウカも信二を見たので信二はどうするか迷い外をもう一度見るとまだヘリからの銃撃の音と爆発音が聞こえていた、下の道路ではまだアメリカ兵と灰色の化け物が戦っている。

「確かにした下に降りて出て行くのはやめたほうがいいと思う、だがジッとしてるわけにもいかないから屋根に登った方がいいかもしれないな、屋根の上なんで救助されないかも知れないが助けを求めてる人がいるって事はわかるだろ?」

「それが良いわ、そうしましょう」

トウカが言いケンジを見るとケンジも頷いた。

「そうだな、そうするしかないようだ」

するとケンジが頷いたことを確認したキャシーが走ってベランダに向かった。

「キャシー、ストップ!」

信二の声に反応し足を止めて振り返ったが、その顔は『なぜ止めるの?』っていう表情をしていたので言った。

「危険だから俺が先に行く、キャシーは後から付いて来てくれ」

言いながらキャシーは日本語がいまいち伝わらない時があったが大丈夫だろうかと思ったが伝わっているようで立ち止まったまま動かなかった、信二がキャシーを追い抜いてベランダに出でるとヘリの飛んでいる爆音が聞こえてきた。

(まだ近くの空にいるようだ)

空を見たがヘリコプターは見えない、すると背後からケンジが出てきた。

「信二、俺が先に行くから次にトウカちゃんとキャシーを登らせて信二は最後に来てくれ」

「わかったよ、撃たれない様に気をつけろよ」

「わかってるよ」

ケンジは返事をして笑った。

「マジで言ってるんだからな、撃たれたって助けること出来ないんだからな、慎重に行動しろよ」

真剣な顔で言うとケンジも笑っていたが真剣な表情をして信二の目を見た。

「お前もな」

信二が頷くとケンジは寝かせていた避難梯子を屋根に向かって立掛けているとキャシーやトウカもベランダに出てきた。

「気をつけて、ケンジ」

「危険ならすぐに戻ってきて」

キャシーとトウカがケンジに声を掛けると頷いてから信二を見て再度頷くと立掛けてある避難梯子を掴んで揺らし動かないことを確認して登り始めた。

まだヘリの爆音が聞こえていたが何時の間にか発砲音と爆発音が聞こえなくなっていた、アメリカ兵や灰色の化け物はどうなってしまったのだろう。

ケンジが避難梯子の上まで登るとスピーカーから声が聞こえてきた。

「フリーズ、ショウ ユア ハンズ・・・・」

いろいろ叫んでいるがそれ以上英語が分からなかった、だがたぶん手を上げて出て来い的な事を言っているようだ。

ケンジもそう思っているらしく両手を挙げて不安定な姿勢で避難梯子を登り屋根の上にあがった。

「・・・・・・・」

更にスピーカーで拡大された英語が聞こえてきたがもう信二には理解できなかったのでキャシーを見た。

「なんて言ってるんだ?」

「えっと・・・、『全員、手を上げて出て来い、変なマネはするな、救助されたいならそこで両手で頭を押さえて地面に伏せろ』って言っているわ」

信二はすぐにケンジのいる屋根を見て叫んだ。

「ケンジ、地面に伏せて頭の上に両手を置くんだ、変なマネはするな、俺達も屋根に登る!」

返事が無く聞こえてないのかと思いもう一度言おうとするとケンジの声が聞こえた。

「わかった、言う通りにするからお前達も気をつけて登って来い、ヘリに乗ってる兵士は俺に銃を向けてるから変なマネはするなよ」

「わかった」

返事をして信二はキャシーとトウカを見た。

「俺は梯子を押さえるから先に登ってくれ、さぁ」

信二が言うとトウカがキャシーを先に行かせようと背中を押したが怖いのか踏みとどまったのでトウカがやさしく話しかけた。

「さぁ、キャシー、登って、あなたがいなければ英語がわからなくて私達はどうしていいか分からないわ」

言われたキャシーは信二の顔を見た、キャシーは不安そうな顔をしていた。

(それはそうだ、誰だって銃で狙われる場所なんて行きたくない)

「大丈夫だよキャシー、なんなら先にトウカさんに登ってもらうか?」

聞かれたキャシーは考えているのか黙ってしまったのでトウカを見た。

「先に登ってくれないか?」

「私は良いけど・・・」

トウカは言いながらキャシーを見た、キャシーはまだ黙っていた。

「それでいいな?キャシー?先にトウカさんがいて後ろに俺がいればとりあえずは安心できるだろ?」

「うん」

返事をしたキャシーは不安そうに頷いたがどうやらうまくいきそうだ。

「おい!何かあったのか!?」

心配したケンジの叫ぶ声が聞こえた。

「大丈夫だ!すぐに登る!」

返事をしてトウカを見た。

「ならトウカさん、登ってくれ」

「わかったわ、しっかり押さえて頂戴」

トウカは緊張しているのか怒っているのか分からないが信二を睨んで言ったが、信二はやさしく答えた。

「わかってる、しっかり押さえるよ」

トウカは避難梯子を掴んで少し揺らしてしっかり固定されていることを確認すると上まで登って行き、キャシーはその様子を見ていた。

トウカが避難梯子を登り屋根にのり両手を挙げながら下を覗き込んだ瞬間に表情がこわばった。

「キャー!」「イヤァー!」

突然悲鳴が聞こえ信二は思わずビクッとして固まってしまったが屋根の上にいるトウカが無事なので隣を見るとそこにいたキャシーがいなくなっていた。

「下!下!下よ!」

「下!?」

トウカの声で慌てて下を見るとキャシーが信二が取り外した二階に続くに避難梯子があった穴に吸い込まれていくのが見えた。

「キャシー!」

「信二!」

押さえていた避難橋子から慌てて手を離し避難梯子にぶつかりながらキャシーの信二に向かって伸ばしている手を倒れながら掴もうとした、キャシーの手に信二の指先が触れたのだが掴むことが出来なくキャシーは穴に吸い込まれた。

「信二!ヘルプ!!」

下の階からキャシーの叫び声が聞こえ信二は倒れたまま床を這いつくばって穴を覗くと散弾銃の銃口が見え慌てて首を引っ込めるのと同時に衝撃が伝わり頭が真っ白になった。

(やられた、とうとう死んだ・・・)

身体が今まで感じたことの無いような感覚が身体を貫いて気が付かない間に閉じていた目を開けると自分が両腕を抱え込むようにして震えていた、周りをボーっとしながら見ると屋根の上にトウカの姿は無かった。

意識がはっきりしてくると身体に鈍い痛みが走り指先も何かで弾かれたようにしびれたような感覚がして両手を見て確かにちゃんと指が五本付いているのを確認すると安堵のため息が出た、耳が痛み周りの音が聞こえないが何が起こっているのか確かめようと銃口が見えた二階に下りる穴から恐る恐る下を覗いた。

「・・・・」

散弾銃を片手で持ちもう片方の腕でキャシーの首を絞めながら散弾銃を折って空の薬莢を取り出している血まみれの男が見えた。

「タカハシ」

自分ではしゃべったつもりだが自分の声は耳に入ってこなかった、だが信二の声に気が付いたタカハシが散弾銃に新しい弾を込めながら信二を睨み上げながら叫んだ。

「・・・・・・・」

耳が痛みおかしくなっていてタカハシの叫んでいる言葉がまったくわからなかったが掴まれているキャシーを見ると泣き叫びながら首を絞めている腕を片手で引き剥がそうとしながらもう片方の手を必死に信二に向かって伸ばし、その両肘が倒れて引っ張られた時に汚れて灰色になっていた。

「・・・・・・」

キャシーが叫んでいるようだがまったく声が聞こえない、鼓膜が割れているかもしれないがそんなことよりも自分が情けなくてたまらない。

(何が助けるだ、畜生、今こそキャシーを助けなきゃいけないのに)

声に出しているのか出ていないのかわからないが信二は立ち上がるとタカハシが信二に散弾銃を向けるのが見えたので信二は傍にある屋根に上げようとしていた大きな陶器製の傘立てを掴み穴に向けて倒した。

陶器製の傘立ては重いために勢い良く落ち信二を狙おうとしていた散弾銃の銃口に当たると傘立てと一緒に床に落ち傘立てはバラバラに砕けた。

タカハシは落とした散弾銃を拾おうと床の陶器の傘立ての破片をどかして掴もうとしたのを見て信二はタカハシに向かって飛び掛かった。

飛び降りた勢いのままタカハシにぶつかるとタカハシはキャシーの首に腕をまわしたままよろけて倒れ、信二もバランスを失って陶器の破片の上に倒れ複数の鋭い痛みがした。

「痛っ」

まだ耳の奥が痛いが自分の声が遠くで聞こえた、どうやら耳は少しずつ聞こえるようになっているようだ、だがそんなこと考えている暇はない。

背中に鋭い痛みを感じるが気合を入れてすぐに起き上がりキャシーを見た、キャシーの首にはまだタカハシの腕が巻きつき逃れようとしていたがタカハシが起き上がると信二を睨んだ。

「おい、てめぇ、こいつがどうなってもいいのか?」

タカハシはキャシーの首を絞めながら立ち上がるとキャシーは顔に苦悶の表情を浮かべながら叫んだ。

「信二!」

「キャシー!!」

叫び信二が立ち上がろうとすると床を触った掌に何か陶器ではないものに触れたので思わず見るとタカハシが持っていた散弾銃が陶器の欠片まみれになっていた。

「おい、さっさと立て!」

タカハシが怒鳴りキャシーの泣くような声が聞こえてきたが、信二は手で散弾銃の上の陶器の欠片を払い散弾銃を掴みながら立ち上がりタカハシに銃口を向けた、タカハシの姿を良く見ると仲間のイワサキの血で血まみれで服もボロボロになり右頬に何かで切ったのだろうか深い切り傷から血が流れて首筋を伝っているのが見えた。

信二も体中に痛みを感じながらタカハシに向けて叫んだ。

「キャシーを放せ!!」

「信二!!」

キャシーは首を掴んでいるタカハシの腕を両手で掴み身体を振って逃れようとしたがタカハシがジーンズのポケットから何かをナイフのような物を取り出すとキャシーの頬に押し当てた。

「おい!動くんじゃない!顔がぐしゃぐしゃになるぞ!!」

タカハシがキャシーに怒鳴ってから信二を睨んだ。

「お前も散弾銃を降ろすんだ、出ないとこのガキが死ぬぞ!さぁ、さっさと銃を降ろして床に置け!!」

言われたが信二は散弾銃をタカハシに向けて構えたまま一歩近づいた。

「聞こえないのか!銃を」

「うるさい!!」

タカハシの声を遮って信二が怒鳴るとタカハシが怒って怒鳴りながらキャシーを揺さぶった。

「何がうるさいだ!こいつがどうなってもいいんだな!」

「お前こそ、死にたくなかったらキャシーを放すんだ!俺はもう頭にきてるんだ!キャシーを助けるためなら何だってする、それがお前を殺すことならなおさらな!」

散弾銃を両手で構え狙いをタカハシの頭部にし散弾銃の玉がキャシーに当たらないようにしながら近づくとタカハシはキャシーを引きずるようにして壁際に移動して店のドアを開けて中に入って行くので信二は狙いを定めたままゆっくりと後を追って『ルブラン』の中にに入った。

タカハシは喫茶店の『ルブラン』の中をキャシーを引きずりながら逃げ場を探したがベランダに出る以外の出入り口は店の出入り口とハイエースが外に止まっている窓しかないが店の出入り口は信二とケンジが作ったバリケードでふさがれている。

「逃げ場は無いぞ!キャシーを放せ!」

信二の怒鳴り声は店の中に響き渡ったがタカハシは逃げる場か使えるものがないか周りを見渡しているので続けた。

「出口は窓だけだ!キャシーを放して窓から出て行け、そうしたら殺しはしない!」

タカハシは背後を振り返り窓を見て外に逃げれることを確認してから信二を睨み二、三秒してから聞いてきた。

「本当にこのガキを放せば逃がしてくれるのか?」

「あぁ!本当だ!」

耳はまだかすかに痛いが普通に周りの音が聞こえるようになりキャシーのすすり泣く声やヘリの飛ぶ音が聞こえるようになり叫ばなくても自分の声が聞こえるようになっていた。

「このガキがそんなに大切なのか?見たところお前の娘じゃないだろ?」

「あぁ、そうだ」

「はぁ?じゃなんでこんなガキのためにそこまでするんだ?あぁ、もしかしてお前このガキが好きなのか?もしかしてロリコンって奴か?もうヤッたのか?」

タカハシはニヤニヤと気味の悪い笑いをして信二を見た、一瞬頭に血が上り撃ち殺してしまいたくなるがキャシーの泣いている声と泣いている顔が見えると頭に上った血が下がっていくのを感じ、冷静にはなってないが少し落ち着いて目の前のタカハシを睨みながら大きく息を吐いてから言った。

「撃ち殺されたいなら続けろ、望み通りにしてやる、それが嫌ならさっさとキャシーを放せ」

「わかったよ、分かった俺も死にたくないからな、まずは銃向けるのを止めてくれ間違えて撃たれたらたまったもんじゃない」

「断る、キャシーを先に放せ!」

信二がすかさず叫ぶとタカハシはニヤニヤした気味の悪い笑いを止めて睨んだ。

「わかった、わかったから撃つんじゃないぞ、流れ弾が大事な大事なキャシーちゃんに当たってしまうかもしれないからな・・・」

言いながらキャシーの首にまわしている腕をゆっくり外しキャシーの細い首が見えるとキャシーは呼吸が楽になったようで大きく深呼吸をして自分の首を触った。

「こっちに来るんだ!キャシー!」

信二は右手で散弾銃を持ちながら左手を差し出すとキャシーがこちらに向かって歩き出そうと一歩踏み出した。

「そうはさせるか!」

タカハシがいきなり叫ぶと一瞬でキャシーを抱え上げてキャシーの身体を窓から出して信二を見て笑いながら叫んだ。

「俺を撃ってみろ、俺は死ぬがお前の大事な大事なキャシーちゃんはここから落ちて下にいる化け物やゾンビたちの餌食になるぞ!」

タカハシはキャシーを揺さぶりワザと悲鳴を上げさせて更に笑って信二を見た。

「こんなところから落ちても死にはしないだろうがすぐには動けなくなるだろうな、そしたら逃げることもできず集まってきたゾンビに食われるだろうな・・・」

揺さぶられてキャシーは悲鳴を上げながら必死にタカハシの腕を掴んでいるのが見える。

「くそっ!」

信二は散弾銃を降ろし横に投げて叫んだ。

「これでいいだろ?キャシーを中に入れてくれ!」

「そんなに睨むなよ、まずは散弾銃を俺の足元に蹴るんだ、変なマネしてもいいが、そのときはキャシーちゃんがどうなるかわかっているだろうな?」

信二は周りを見て何か役に立ちそうなものは無いか見たがすぐ手の届く範囲に役に立ちそうなものは無い。

(このまま逃げてチャンスを待てばいいんじゃないのか?)

一瞬その考えが頭に浮かんできたが今どうにかしなければキャシーは助からないしヘリが近くを飛んで安全な所に逃げれるチャンスは回ってこないかもしれない。

「どうした?逃げ場なんて無いぞ!大人しく散弾銃をこっちによこせ!」

タカハシが笑いながら叫んだが信二は何も反論せずタカハシを睨みながら散弾銃まで移動した。

「手を使うな、足で蹴ってこっちに飛ばすんだ」

言われてキャシーを見たがキャシーは目や鼻を真っ赤にして泣いていた、今の信二はタカハシの言うことを聞くしかない、言われるがまま足元の散弾銃を蹴飛ばすと少し回転しながらタカハシの手前で止まるとタカハシが信二を見た。

「お前は後ろに下がるんだ、早くしろ」

言われるがまま後ろにゆっくり下がるとすぐにキッチンに背中を打ちつけた。

「まぁ、その辺でいいだろ」

鼻で笑いタカハシは窓の外に出していたキャシーを部屋の中に入れ床に放り投げるとキャシーは倒れ、その背中をタカハシが踏みつけた。

「形勢逆転だな」

余裕のタカハシは信二をあざ笑いながらタカハシは踏みつけているキャシーの背中をもう一度踏み潰しキャシーが身体を一瞬反らせて苦しむのを見てからしゃがみ落ちている散弾銃を拾うとすぐに立ち上がりキャシーの背中を踏みつけ散弾銃に弾が入っていることを確認すると笑いながら信二を見たので言った。

「言われた通りにしたんだ、キャシーを放せ!」

首を振ってタカハシは足元のキャシーに散弾銃を向けた。

「嫌だね!誰が放してやるか!こいつにはたっぷりとお前の分も合わせた礼をさせてもらうよ」

タカハシは散弾銃を信二に向けて続けた。

「本当はお前を痛めつけて殺したいがヘリが飛んで兵士や化け物がそこら辺にいるんだ、さっさと死んでもらうよ」

言うと信二を見て笑った。

「じゃぁな、死ね」

『死ね』という言葉を聴いた瞬間に横に跳び射線上から逃れようとしたが信二の足はタカハシを見たまま身体が硬直したんじゃないかと思うくらい動かず周りがスローになった、キャシーが何かを叫ぶように口を大きく開いているのが見えるとタカハシの背後に青い迷彩服を着たアメリカ兵が見えた。

「ラン!!」

アメリカ兵が目を丸くしながら叫ぶとタカハシも驚いたのか散弾銃を信二に向かって構えたまま背後を見た、その瞬間に叫んだアメリカ兵が何故か吹っ飛びながらタカハシに向かって行き、タカハシは飛んでくるアメリカ兵を避けようとキャシーから足をどけ散弾銃の銃口を信二から外したが、その背後に二メートルの灰色の化け物がハイエースの屋根に立ちこちらに向かってくるのが見えた。

(今しかない!)

アメリカ兵には逃げろといわれたが信二はキャシーに向かって走り出すとタカハシは飛んできたアメリカ兵を避けることが出来ずにぶつかり仰向けに倒れたが、倒れる瞬間に散弾銃の銃声が室内に響きキッチン棚にしまっていた皿が割れる音が背後から聞こえた。

倒れたタカハシは慌てて起き上がろうとしたが上に乗っているアメリカ兵が気を失っているのか死んでいるのかわからないが動かないので強引に引きずり降ろそうとしていた。

「キャシー!」

駆け寄った信二はすぐに倒れているキャシーの脇に手を入れて立たせた。

「逃げるぞ!」

「うん」

キャシーの顔は涙や鼻水で汚れていたが頷いたので信二は手を掴み窓の外を見ると二メートルの灰色の化け物は窓に手をかけて『ルブラン』に入ろうとしていた。

「ゲッ ××××××アウェイ!」

聞き取れない怒鳴るような英語が聞こえる方を見ると信二が入ってきたベランダに続くドアから二人のアメリカ兵がアサルトライフルをこちらに向けていて思わず固まってしまった信二をキャシーが引っ張り窓から離れると室内に連続した発砲音と窓ガラスが割れる今まで聞いたことない銃弾が食い込むような音まで聞こえて耳を塞ぎたいがキャシーがしっかり信二の手を握っていた。

思わずキャシーを包み込むように後ろから抱き銃弾や窓ガラスの破片が当たらないようにしながら発砲音が収まるのを待つとすぐに発砲音は収まった。

信二は目を開けてアメリカ兵の方を見ると先頭の兵士がアサルトライフルのマガジンを交換しているのが見え、その後ろで兵士が何かロケットランチャーの様なものを構えているのが見えた。

「信二!!こっちだ!!」

呼ぶ声が聞こえるとロケットランチャーを持っている兵士の後ろにケンジが現れて手招きをしたので信二はすぐに立ち上がろうとしたが何かが信二の足を掴んだ。

信二が振り向くとタカハシが片手で信二の足を掴んでいた。

「逃がさん、お前たちは絶対に殺す!」

タカハシの掴む手を振り払おうと足を振ったが火事場のバカ力で強く握られ足が痛んだ。

「キャシー!ケンジの所に行くんだ!」

言いながら抱いていたキャシーを離してケンジの方に向けて背中を押すと二、三歩進むと振り返り怯えた表情で信二を見たので言った。

「ケンジの所に行け!俺もすぐに行く!」

「わかった」

返事をするとキャシーがすぐにケンジの所に向かって走って行くのを見て信二は足を掴んでいるタカハシを見ようと振り返った瞬間に何かで顔を殴られてそのまま床に倒れた。

「信二!」

ケンジが叫ぶ声が聞こえた、今までも耳の奥が痛かったが今度は殴られて耳が痛くて思わず自分の左手で左耳を押さえるとぬるっとした液体が手に触れ、手の平を見ると赤黒い血が手の平についていた。

首を上げてタカハシを見るとタカハシは散弾銃の銃身を持って必死に新しい弾を入れようとズボンのポケットに手を突っ込んだ、どうやら散弾銃で殴られたようだがそんなことよりもタカハシの背後の窓から入ってきた二メートルの灰色の化け物は所々から赤い血が流れているのが見えたがその血が灰色の化け物の血なのか返り血なのか分からなかった。

二メートルの灰色の化け物が動き目の前で散弾銃の弾を込め終えたタカハシの腕を掴み上げると骨が砕けたようなミシミシといった感じの音が聞こえタカハシが絶叫した。

タカハシは叫び声を上げたまま灰色の化け物に振り返り散弾銃を頭に向けて引き金を引くと発砲音と銃口から煙のようなものが出た瞬間に灰色の化け物の顔が一瞬後ろに下がったが元々顔には白いホクロと無数の穴がいた状態で効果があったのかわからなかった、だがタカハシを掴んでいる手を離さない所を見ると致命傷になってない事は確かでタカハシが捕まっている今が逃げるチャンスだ。











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