第十二章

 車に行くと師匠が中にいた。師匠は濡れた私を見て、顔を歪めた。

「嬢ちゃん…悪かったな、守ってやれなくて…。」

「師匠…。」

「寒いよな。ちょっと待ってろ、今暖房付けるから。」

 そう言って師匠は暖房をつけてくれた。車の中がほんのりあったかくなる。

「じゃあ、俺も行ってくるから、坊主たちお姫様を頼んだ。」

「「はーい!」」

 師匠はそう言うと車を降りた。夕君はタオルを出して頭を拭いてくれる。

「天、大丈夫?」

 俯いていると、桃君が顔を覗き込んで聞く。私は頷く。

「うん、大丈夫。それより、みんなに心配かけちゃった…。ごめんね…。」

「そんなこと、謝っちゃだめだよ!」

「そうだよ!それより、俺達こそ、ごめん。」

 桃君が言うと夕君も頭を下げる。

「え…?」

「俺達、危ないかもしれないって思ってたのに、結局涼と天の二人だけで行かせちゃったから…。」

「そ、それは、私達が付いて来なくて良いって言ったから…。」

「それでも、強引にでも、僕達も付いて行けばよかったんだよ…。」

 そう言って二人も俯いてしまう。どうしよう…。 

 そんなタイミングで車の窓を叩かれた。見ると涼君たち三人が手を振ってた。

「涼達、帰ってきたね。開けようか。」

 桃君が鍵を開けると、運転席に師匠が、涼君と柊君は私達の前に座った。怪我してないみたいで良かった。

「ただいま、三人とも。色々言われたから、帰ってからこれからの事を話す。」

 柊君にそう言われて、私達は頷く。それを合図に師匠は車を発信させた。


 師匠のお店に着くと、奥さんと娘さんが私に駆け寄ってきた。

「天ちゃん!怪我はない!?」

「…はい、大丈夫です。」

「うわ、ほんとに濡れてる!お父さんに聞いてお風呂沸かしてるから、入って!案内するよ。」

「そ、そこまでは…。」

「良いから!」

 師匠の娘さんと奥さんに引っ張られてお風呂まで来てしまった。

「サイズ私と同じだったよね?まだ着てない下着あるから、それ持ってくるね。」

「服は、私の若い頃のワンピース持ってくるわ。タイツもあるから安心して。」

「あ、あの、そこまでして頂かなくても…。」

「あら、駄目よそんなこと言ったら。今は好意に甘えなさい。」

「そうそう!とりあえず、お風呂ゆっくり入って、身体温めてね!」

 そう言うと、二人は脱衣場から出ていってしまった。と、とりあえず、お風呂入ろう。

 湯船に浸かると、自覚してた以上に体だが冷えていたのが分かった。温かい。

「…っ!」

 その温かさで、また涙が溢れる。柊君は『これからの事を話す』って言ってたけど、どうなるんだろう?私、まだみんなと一緒にいて、良いのかな?

 体が温まって、お風呂から出ると奥さんと娘さんが用意してくれた服と下着があった。今度何かお礼しないと。

 髪を乾かして、新しい下着とタイツ、奥さんのワンピースを着て出ると奥さんが待っていてくれた。

「少しは温まった?」

「はい、お風呂ありがとうございました。ワンピースと下着も…。」

「あら、気にしないで。それより、みんな待ってるわ。行きましょう。」

「はい…。」

「大丈夫よ。あの子達だもの、あなたを責める事はないと思うわ。」

 私が頷くと、奥さんはそう言って背中を擦ってくれた。

 お店のスペースに行くと、四人は私に手招きした。奥さんは、その場を離れる。私は四人のところに行った。涼君と桃君の間に座る。

「さて、まずは涼が天に言いたいことがあるそうだ。」

 柊君はそう言って涼君を見る。涼君は頭を下げた。

「俺が不甲斐ないせいで、天に怖い思いさせて、みんな仕事なのに、迷惑かけて、本当にごめん!」

「そんな、涼君のせいじゃ…!」

「そうだよ!涼のせいじゃないよ!」

 私と夕君がそう言うと、柊君と桃君も頷いた。

「で、でも…、俺が、みんなも一緒に行くって言ったときに、断らなければ、こんなことには…、ほんとごめん!」 

 涼君は少し震えてる。

「涼、お前は何も分かっていない。」

 そこで、柊君が怒った声で言う。涼君はビクッとして、柊君を見る。

「お前が俺達を置いて行ったのは、喧嘩にならないためだろ?」

「ああ…、でも、喧嘩になっても付いて来てもらえば…。」

「いや、それはだめでしょ!」

 涼君のとんでも発言に夕君がツッコむ。桃君も頷く。

「涼、お前が前に出たのは、俺達のこれからの活動のためだ。俺達の心証が悪くなると、バンド活動が立ち行かなくなる。だから、喧嘩にならないようなした、違うか?」

「いや、合ってる。」

「なら、お前が謝る必要はない。だろ、二人とも。」

「うん。」

「さすが、柊!分かってるー!」

 二人が頷いて、涼君も「分かったよ。」と言った。良かった。

「ちなみに、天も謝る必要ないからね!」

 今度は私の番と思っていたら、桃君に先に言われてしまった。

「そうだぞ。だいたい、天は被害者だ。謝る必要はない。」

「で、でも…!」

「天が謝ったら、俺達も謝る!」

「…っ!分かった…。」

 桃君に、みんなに謝らせるわけにはいかない。そう思って私は頷いた。

「さて、じゃあこれからの話になるな。」

 師匠がそう言ってみんな頷いた。

「まあ、これは矢面に立った涼が言うべきだな。」

 師匠に指名された涼君が頷く。それから深呼吸してから話始める。

「天達が出て行った後、あんな事をした理由を問いただした。どうやら、自分がプロデュースしてるバンドが人気低迷していて、あのライブイベントは新しいボーカルを引き抜くためだったみたいだ。それで天に目を付けた。小さいライブハウスから出られると思ったら喜んで飛びつくと思ったらしい。」

「それで、あんな事されたんだ…。」

「自分の企画力がないだけなのに…、自分勝手すぎるよ!」

「ほんとだよ!」

夕君と桃君かそう言って怒ってくれる。それに頷いて柊君続きを話す。

「そう言うわけだ。警察に通報しても良かったが、それは師匠に止められた。」

「譲ちゃんに大きな怪我はなかったし、助け出した後だと当人同士の話し合いになる。譲ちゃんをあいつ等の前にもう一度立たせるのは気の毒だと思ってな。もう二度とお前たちに関わらないことで手を打ったが、良かったか?」

 師匠の言葉にみんな頷く。それを聞いて、私は安心した。もう一度あの人たちに会うのは怖かったから。

「よし!それなら、これからも五人でこのライブハウスで歌ってくれや!まあ、今日はライブの日じゃないからな、ゆっくり休め!」

「そうだな。それじゃあ、帰るか!」

 涼君の言葉にみんなで頷いて、お店を出た。

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パザジール 雪野 ゆずり @yuzuri

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