VSエクトプラズムの洞窟の主(凶暴化)

 カクヨム杯と呼ばれる大会で、ラス・グースは負けた。それと同時に錬金術師は強制的にアルケアへ戻された。

 大会規定によれば、負けた選手は強制的に元の世界に戻されると書かれていたのを、ラスは思い出す。

 怪我や体力まで元通りという親切仕様に感謝しながら、ラスは周囲を見渡してみる。

 やけに暗い数十メートル程度の開けた空間。周囲を囲む凸凹とした岩の中で怪しく光る石。

 反響する音と共に現れる三つ目の毛むくじゃらな怪物が四匹、ラスの周りを囲む。

 当たり前な話、ここは異世界に行く直前までいた研究室ではない。目の前にいるのは、エクトブラズムの洞窟に生息する怪物。

 何らかの手違いがあって、この場所に召喚されたのだろうとラスは思ったが、今はそれどころではない。

 怪物の瞳は赤く染まっている。それを意味することを考える暇を与えず、猛スピードで生える体毛をラスに向け振り下ろす。

 しかし、それがラスに届くことはなかった。なぜなら、怪物の攻撃を暗黒空間で防いだのだから。

 目の前にいる怪物は、エクトプラズムの洞窟の主と呼ばれている。主には夜になると暴走する生態あり。瞳が赤いのが暴走している証拠で、そんな怪物を制圧するのはプロの狩人でも難しい。

 一匹だけでも大変なのに、主と同種の怪物が二匹もいる。それに加えて、現在ラスが使える暗黒空間は十個。本来なら二十個使えるが、ルスが帰るまでは、大会で取り込んだ究極魔法をキープしなければならない。

 難解な状況を打破する方法をラスは考えつつ、少ない暗黒空間を洞窟内に配置していく。

 その間、三匹の怪物は視認できないほど速く動き、長く伸ばされた体毛をラスに絡ませようとする。


 だが、ラスは捕まらない。自分を囲むように配置した暗黒空間が、怪物の体毛を飲み込んでいく。

「それではお返しします」

 ラスが呟いた後、三方向から暗黒空間が出現し、穴から伸ばされた怪物の体毛と本物の怪物の体毛が絡み合った。

 しばらくの間動けない隙を狙い、ラスは槌を叩く。幻水短銃の槌で召喚した短銃を弱点の左目に向ける。

 引き金を引くよりも早く、三匹の怪物は左目を体毛で覆い攻撃を防ぐ。銃口から飛び出す雫は体毛に弾かれ、ラスは溜息を吐いた。

「あまり使いたくなかったのですが、仕方ありませんね」

 そう呟きながら、赤と緑のツートンカラーの槌を地面に叩く。間もなくして、東西南北に上向きの三角形を横に二分割する記号が小さな円の中に記され、中心に獅子座のマークに浮かぶ魔法陣が出現。

 紅蓮風神の槌で召喚した魔法陣の中でルスが短銃を構えながら、ジャンプする。

 すると、ラスの体は一瞬にして、数十メートルの高さの洞窟の天井まで飛ばされた。ここまで飛べば、怪物の攻撃は届かない。

 その間、錬金術師は自身の周りに暗黒空間を三個ほど展開させ、体を回転させながら連射する。

 体が上部の岩に激突するよりも先に、ラスは地面に刻まれた魔法陣を暗黒空間で包み込む。体が急降下していく瞬間を狙い、ラスは暗黒空間に覆われた真下の地面を撃つ。その後で真下の暗黒空間を動かした。

 無事に着地した錬金術師は、上空で乱射した水で満たされた暗黒空間を、怪物の体を絡めている暗黒空間の近くに配置。そこから放たれた攻撃を飲み込んでいく。

 自由を取り戻した怪物の体毛がラス目がけて伸びていく。だが、それが届くよりも早く、標的は姿を消した。

 一秒の沈黙の後、ラスは一匹の怪物の目前に現れた。錬金術師が左手を伸ばし怪物に向けた瞬間、毛むくじゃらな怪物の体は壁に激突する。

 そして、ラスは瞳を閉じた。隙だらけな体を狙い、二匹の怪物が飛び込む。だが、次の瞬間、主は一匹目と同様、吹っ飛んでしまう。

 暴走する三匹の主を倒したラスは、出口に向かい歩き始めた。

「おかげで狩る手間が省けたぜ」

 不意に男の声が洞窟に響き、ラスは足を止めた。声がした方向には、黒いローブを纏うアフロ頭の巨体の男。男の右頬にはEMETHと刻まれていた。

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