第5話 永遠という時間は

土曜日、私服で現れた黒川は、なんだかいつもと雰囲気が違った。

制服ではないから、だろうか。

「みつけたー、田辺くん。雰囲気違うから、違ったらどうしようかと思った」

えへへ、なんて笑うから。ボクが思ったことを何も言えなかった。

「あ、あー、うん。えっと、じゃぁ行こうか、映画」

「うん!」

しどろもどろになりながら言うボクを、からかうでもなく。

とても嬉しそうに笑っていた。


映画の内容は、消滅した世界の話。

放課後の延長のさらに先の話のような物語だった。

……面白かったけれど、これで、よかったのだろうか?

観たい映画、本当にこれだったのだろうか。

もっと、聞いてみたら良かった、と、終わった後に一瞬だけ後悔した。


「すっごく面白かったー、なんだか主人公、田辺くんみたいなこと言ってた!」

……どうやら、とても楽しかったようで……何よりである。

「うん、すごく楽しかった。ありがとう、黒川」

「一緒に観れてよかったー」

「うん、ボクも嬉しい」

そう言いながら、やはり気になった。

「どうしたの?元気、ない?」

顔をのぞきこまれてしまった。

「そうじゃなくて、黒川は、この映画でよかったの?」

「え?」

「なんていうか、この映画でよかったの?他に観たいのとかあったら……」

「私は、好きだよ?この映画、観たかった」

「そっか」

「それに、一人じゃなかったし、嬉しいよ」

「そ、そっか」

「うん!田辺くんも、もちろん好きだよ」


どうして、照れないんだろう、黒川は。

やはり、変わっている。絶対に。

ずっと、続けばいい。時間も止まってしまえ。

あの映画を観た後だからではなく、

今を、とても大切に思えた。


今を。永遠に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る