第8話「騎士の力量」

 軽く身体を動かし、アーネストは身体の動きをチェックする。急場で統一感の無い継ぎ接ぎの鎧。慣れない上に、ちゃんと自分に合わせて作られた訳では無い鎧。それではどうしたって鎧が動きに干渉し、動きの妨げになってしまう。出来る限り自分に合いそうなものを借りたつもりだが、それでもどうにもならなかった。


 鎧は、武闘会の行方を見守る騎士に頼んだところ、すんなりと貸し出してくれた。王家の紋章が刻まれた服を着る王族近衛騎士として威光によるものか、勝ち続けるあの騎士を見るのが面白くないと思ったのかは判らないが、ありがたかった。


 身体を動かし、干渉する感覚と、それによる動きのズレなどを確認する。普段通りの動きは難しそうで有るが、そでほど問題はなさそうだと判断する。


(さて、行くか)


 最後に身体を解すように動かし、練兵場の中へと入って行く。


 練兵場の中では、先ほど勝利を収めた騎士が、外野からの歓声を浴び、それに笑顔で手を振って返していた。


 容姿の良さもあり、すでに観戦していた女性貴族の何人かを虜にしているようだった。ただ、同時にそれが面白くないのか、何人かの女性貴族と騎士達が嫉妬の籠ったような視線を、あの騎士へと向けていた。そして、もくろみ通りに事が進んだことが嬉しかったのか、茶会を主催していた貴族は大層嬉しそうだった。


 多くの歓声を受け、得意げな顔をする騎士と女性貴族。特別、そういった賞賛を浴びる事に執着しているわけではなないが、羨ましいと思わない訳では無い。少しだけ、フィーヤが口にした悪戯をしてみたいと言う気持ちが理解できた。


 練兵場の中央、あの騎士と対峙するように立つと、それに騎士も気付いたのか視線を返し、ニコリと爽やかそうに笑う。アーネストはそれに、一礼を返す。


「見ない顔だね。飛び入りかい? 名前は?」


 爽やかそうな笑顔を浮かべながら騎士が尋ねてくる。


「アーネストです。飛び入りですね。あなたほどの力を持つ騎士を見てしまうと、同じ騎士として己の力を試してみたくなります」


「そうか、それは確かに。では、がっかりさせない様に頑張るとしよう。悪いが、手加減は出来ないよ。今日は約束が有るのでね」


 騎士は笑い、アーネストに一礼を返すと、兜を被る。アーネストもそれに続き、他の騎士から借りた兜を被る。


 二人は対峙し、お互いに剣を引き抜く。そして、それぞれ剣を眼前に掲げ、それから構える。それが、騎士同士の剣による決闘の所作で有り、開始の合図だ。


 剣を構え、じりじりと間合いを測り、距離を詰めていく。


 最初に仕掛けたのは、騎士の方だった。間合いのギリギリまで詰め寄ると、そこから一気に踏み込み、上段から切り下す。それをアーネストは、同様に剣を振り、弾く。早く、正確で、鋭く重い。さすが、王宮と言う注目を集めやすい場所に集まった騎士達を相手に勝ちあがる自信を持っているだけはある。そう思わせるだけの一撃だった。


 騎士の剣を弾くと、アーネストはバックステップを踏み、距離を取る。


(さて、どう攻めたものか……)


 相手の太刀筋、動き、それらをどう図り、どう引き出させようかと、目算を始める。そして、途中で首を振り、考えを振り払う。


(て、これは学生相手の授業じゃないんだぞ……)


 四ヶ月ほどであるが、竜騎学舎で染みついてしまった思考にアーネストは苦笑する。


(俺の全力をご所望だったな……なら、相手に合わせてたらダメだな)


 大きく一呼吸して、思考を切り替える。


 息を止めると、今度はアーネストが仕掛ける。一気に間合いを詰め、上段から一振り。相手はそれに対応して、剣を弾く様に振るう。剣が弾かれると、アーネストは剣を引き、即座に下段から二撃目に入る。一撃目最初から囮で、相手の動きを制限するためのもの。相手の騎士は、アーネストの予想通りの動きで、対応して見せてくれた。


 手練れの騎士で対応も悪くない、それだけに大きな隙は出来ないが、それでも隙と呼べるほどのものではないものの、微かな隙が生まれる。そのほんのわずかな隙に狙いを定め、アーネストは二撃目を下段から差し込む。相手の騎士は、さすがと言うべきか、少しだけ反応は遅れたものの、対応して見せ防御するように剣を差し込んでくる。けれど、少し無理の有る防御姿勢、それを力と速度で強引に叩き崩し、相手の剣を弾き飛ばすと相手の首筋に剣を軽く当てた。


 勝負あり。


「ま、参りました……」


 先ほどまでの自信に満ちた爽やかさは何処へやら、わずかに上ずった声で負けを宣言した。


(ちょっと、強引過ぎたかな……)


 勝てると確信は有ったものの、相手の力量を把握しきれていな状態での、力押しの攻め方。相手にアーネスト以上の力が有ったのなら、確実に負けていたであろう攻め方。それに少しだけ、反省をしておく。


 一瞬の事で、何が起きたの理解が追いつていなかったのか、少し遅れて辺りから拍手と歓声が上がる。


 アーネストはそっと息を付き、剣を引くと、騎士から距離を取り、観客に挨拶することなく騎士に一礼をして、練兵場から離れて行った。



   *   *   *



「さすがです。我が騎士アーネスト」


 鎧を貸してくれた騎士達に鎧を返し、フィーヤの元へ戻ると、フィーヤは周りに聞こえるようにか少し大きな声でそう告げ、迎えてくれた。


 フィーヤの言葉を聞いたのか、茶会を主催していた女性貴族は恨みがましそうな目をフィーヤに向けていた。


「よろしかったのですか? 勝ってしまって……このような事は関係を悪くする可能性があると思われますが」


 勝てと言われたから勝った。そのつもりであるが、状況を見るに、それによりフィーヤと茶会を主催した女性貴族との関係が悪化しているように思えた。


「いいのですよ。もともと良好な関係を築きたいと思っていた方ではありませんでしたから。それより、あなたの力を改めて見ることができて良かったです」


「満足いただけたのならよかったです」


 フィーヤの言葉にアーネストは、一礼を返す。そして、先ほどから睨む様な視線を向けるレリアに視線を向ける。


「満足していただけたかな?」


 少しだけ見せつける様に、投げかけた。


「貴様の力は認めてやろう。だが、それだけだ」


 レリアの答えは相変わらずの棘のあるものだった。それにアーネストは軽く肩を竦めた。

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