第2話 届いた希望、届かぬ命

残り1分弱、武器はブレードのみ、防衛対象、レールカタパルト及び僚機。


『数が多いっ!』


シオンが核を叩き斬りながら、そう叫ぶ、シオンの後ろに迫る小型アルザスをカインが庇うようにブレードの腹で弾き飛ばす、飛ばされ、身動きのできないアルザスを俺が殺す。


「あと40!」


『まだ、戦える!』


シオンが右手を無くしながら、逆手に持ったブレードで核を突き刺す。


『おいおい、俺たち今最高に最強じゃないの?』


カインがヘラヘラと笑いながら、アルザスの刃を弾く、そこにシオンが槍を突き刺すように突進する。


『ひゅぅ! やるなぁシオン、ちびっちまったよ!』


そう笑うカインに迫る新たなアルザス。


完全に死角、シオンは体勢を崩しており、対応できない。


「カイン! 伏せろ!」


反射的に膝を折るカイン、そこにブレードを滑り込ませ、アルザスの核を傷付ける。


『危ねぇ、助かった!』


そう言いながら折れたブレードを投げ捨て、腰に装備されているナイフを展開する。


『あと15秒!』


シオンのその声に希望が見えた、カタパルトへと走る。


『アルザス、前方に二体!』


カタパルトへゆっくりと進むアルザスを引き千切る、目の前にあるのは希望の船。


『あと10秒!』


カインの声が響く、後ろにいるアルザスにボロボロのブレードを突き刺す。


「あと5秒!」


4、カタパルトのロックプレートをナイフで外す。



3、迫り来るアルザスを切り倒す


2、左腕をアルザスに持っていかれそうになる。


1、シオンがそのアルザスを破壊。


『時間だ!』


歓喜の声、三人は一心不乱でカタパルトに乗り込み------


「シオンっ!」


シオンがアルザスに捕まった。


『いやだ!絶対帰るんだ!』


シオンの叫びが張り付く、カタパルトはすでに射出シーケンスに入っている。


助けないと、三人で帰るのだと、右手を伸ばす。


「シオン!手を!」


『嫌だ、死にたくない、死にたくないよぉ!』


絶望に濡れた声がする、シオンは片方しか残っていない手を必死に伸ばして、生き残ろうとして。


『レールカタパルト、発射まであと5秒』


無慈悲で無機質な声が鳴り響く。


「シオン!」


『……もう無理だ』


カインの声が、聞こえた。


『いやだ、見捨てないで、二人とも……いやだよ』


届かない、お互いの指先が触れ合う、冷たさを感じる。


「あと少し、あと少しなんだ、この手が届けば……っ!」


『生きたいっ……生きたいよ!頑張ったのに……なのにっ』


わかっている、絶対に見捨てない、見捨てなんかしない。


シオンは諦めてなんかいない、生きたいと思っている、だからこの手を伸ばすんだ。


「届け届け届け届け届けっ!」


しかし。


『射出』


通信が途絶する、視界が暗く靄がかかり、薄く見える大地が離れていく。


「あ……あ、ああ……」


『…………クソっ……』


「シオン−−−−−−ッ!」


『−−い−−−たり−−』


シオンの声が消える、カインは、なにもいわない。


「そうだ、カタパルトにはまだ余剰エネルギーが……!」


そうだ、本来なら四機分のエネルギーが充填されている、ならば……


そこに、炎が舞い上がる。


それは、隊長機のいない分隊では、たった一つのことを示す。


本来なら脱出後に行われるシーケンス。


すなわち、生命反応ゼロに対する処置、自爆。


データリンクは、俺とカインしか映っていなかった


「シ、オン……」


『……すまない』


なんだよ、それ


なんなんだよ、そんなの。


あいつはあんなにも生きたいって思っていたのに。


「生きたら言いたいことがあるって……言っていただろ……っ!」



空を飛ぶ中、そう叫ぶ。


『進行方向、10キロ先に回収ヘリだ』


カイン、お前は


「お前はアダムもシオンもいなくて、平気なのかよ」


わかってるよ、お前はそんなやつじゃない、もしシオンが今生きていたなら、ヘラヘラとして冗談の一つでも吐いていただろう。


『……仕方ないことだった』


仕方ない? 見捨てる事が?


「間に合ったはずだ」


『かもな』


なんだよその答え、じゃあ、生き残ったかもしれないのに見捨てたのかよ。


「ならなんで!」


縋るように叫ぶ、どこにぶつけたらいいのかわからない痛みが、この脳が叫んでいる。


『……可能性がなかった訳じゃない、それでも、俺はお前を失いたくなかった』


なんだよ、それ


そんなの、シオンだったから見捨てたって事かよ


「ふざけんな……ふざけるなよカイン」


怒りが溢れてくる、あそこで生きた奴らを侮辱しているように聞こえた。


『俺はあの場にいるのがお前でも見捨てたよ』


自分が助かるために?自分が、生きるために?


『俺たちはこんな体になって戦った、みろよ、この体、鉄でできた骨格に貼り合わせたみたいな装甲、そんでその中に脊椎と脳を納めた、鋼の亡者さ』


カインが自嘲気味に語る。


そうだと呟いて、カプセルの中で己の手を見る。


そのマニピュレータは鋼と引きちぎれたアルザスの肉で、気色の悪い光で照り返していた。


『俺たちはもう人じゃない、それでも……』


泣きじゃくるようにカインは。


『もう、一人は嫌なんだ……』


と呟いた。


いつからか、データリンクは切っている、なのに。


どうして俺はこんなに、悲しいのだろう。

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