神獣の取り扱い

 今から約五十年前、中国で大規模な地下鉄開通工事が行われた。


 工事が進んでいたある日、現場で古い井戸が見つかった。線路を敷く予定の場所にあったため井戸は取り壊される事となった。

 作業員が恐る恐る井戸の蓋を持ち上げると、すうっと上がってきた冷気が彼の鼻先をかすめた。更に蓋をずらしてみると、大きな鎖がぶら下がっているのが見えた。鎖は底の方へと続いている。

 何が繋がれているのか気になった作業員は鎖を引き上げてみた。ズッ……ズッ……ズッ……。

 ――かなり長い鎖のようだ。いくら引いても鎖が途切れる事はない。どこまで続いているのだろうか。しばらく引き続けていると、井戸の中からゴオオオォォォォという音が聞こえてきた。重く低いその音は地面を伝い、体の中で響いているようだった。


 すると、

「やめろ! 鎖に触るな!」

 工事の責任者が血相を変えて駆け込んできた。鎖を持って立ちすくんでいた作業員が我に返る。

 井戸の取り壊しの件を土地の所有者に相談したところ、龍を繋いで封じているのだと言われたそうだ。引きずり出した鎖を慌てて井戸に投げ入れ、蓋を元に戻した途端に音が止んだ。




 近年、麒麟や白澤が神獣として日本でも広く知られるようになったが、中国の神獣といえば龍である。皇帝のシンボルとされる龍は、現代でも多くの人に崇められている。


 井戸は今でもそこにある。

 直線に敷かれるはずだった線路は、井戸を避けたために少し湾曲しているそうだ。





【神獣】

 中国では至る所で麒麟や鳳凰の像や絵を見かける。残念ながら白澤は、その名前さえ知らないという人も多い。

 ちなみに「中国の妖怪は?」と聞くと、かなりの人が妲己と答える。若い人でもよく知っているようだ。

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