闘技祭開会式(3)
*
「あ……ぅ……ん……こ……ぉっ!?」
エヴィルダースは、思わず、耳を疑った。
コイツは、今、何を言った?
弄ばれるだけの
この優秀な兄に。この至高の存在に。次期皇帝の椅子を約束された自分に。
そんな妄言を吐き捨てたというのか?
「ぁ貴様あ゛ーーーーーーーーあああああああああああああああああああああああっ!」
「あ、兄上!」
デリクテール皇子が羽交締めにして制止する。
「離せ! 離せ離せ離せ離せええええええっ! こんな無礼はまかりならん! このゴミを殺させろ! このクズを嬲らせろ! この
「非礼はお前だろ? 皇太子に対して、そんな無礼な振る舞いが許されると思ってるのか?」
「はっ……ぅ……ん……こ……っ」
こ、コイツ。
いったい、コイツは誰なんだ。
そんなヤワな痛ぶり方をしていない。十数年間、虐めてイジめていじめ抜いた。無力さを知らしめ、存在を否定し続けて、
十数年間、虐げ続けてきた。
そんな
だが。
「まだ、足りないようだな」
「あぺ?」
思わず変な擬音が出た。足りない? コイツは、目の前のコイツはいったい、何を言っているのだ? 足りないのは、コイツの方だ。絶対不可逆天地天明に誓ってコイツの方のはずなのに。
なのに。
イルナスは立ち上がって、エヴィルダースの眼光を真っ直ぐに見据える。
「アレだけ、わからせてやったのに。
「はっ……ぅ……んっ……こっ……!?」
あの時は……あの時はどうかしていたのだ。たまたま、身体の調子が悪かっただけで。たまたま、足に力が入らなかっただけで。たまたま、手の震えが止まらなかっただけで。
「ちょ、調子に乗るな! 貴様の剣術なんぞ、
そう……そうだ。こちらは毎日毎日、剣術に明け暮れていたのだ。社交がある日以外は、毎日毎日。膨大な時間を剣術に費やしたのだ。
こんなヤツに負けるはずはーー
「ならば、賭けるか?」
「あん?」
「この闘技祭で、どちらが勝つか」
「……っ」
コイツ。
何を主人公然としてやがる。何でそんな発言がお前から出てくるのだ。何でそんな風に、優秀で偉大な兄に、そんなふざけたことを。
思い知らせてやる。
「クッ……クククククククッ! ハハハハッ! アハハハハハハッ! アハー! 面白いではないか、イルナス皇太子殿下! その無謀な挑発乗ってやるとしようか」
エヴィルダースは高らかに笑った。そして、笑いながら高らかに謳いあげた。
ギタギタにしてやる。有無も言わさぬほど、ギッタギタにしてやる。小便を……いや、ビチクソをボロボロと漏らすほど、完膚なきまでに叩きのめしてやる。
「もちろん、一回戦負けになったからと言って、その約束を反故にするのはなしだぞ?」
「くっ……」
何から何まで、こちらを圧倒的に侮ってくる。何がコイツを変えた? まるで、あの男のようだ。自分の麗しい人生を台無しにした男。
ヘーゼン=ハイムのようだ。
「それは、こちらの台詞だ!」
エヴィルダースは、イルナスの額に額をつけてガン睨みする。
「契約成立だな。で? 負けたら、どうする?」
「土下座だ! 公衆の面前で……闘技祭会場のど真ん中で『参りました!』と高らかに叫びあげろ!」
「もちろん、皇帝陛下の見てる前でだよな?」
「当たり前だ! もちろん、我が母セナプスも、あの下賎なお前の母親も、見る目のない星読みどもも全員がいる前で、お前の無能を、お前の役立たずぶりを知らしめてやる!」
「……」
「……」
・・・
しばらく、沈黙の睨み合いが続いた後に、トントントンとノック音が響く。
「まもなく、開会式が開始されますので、ご入場ください」
「……わかった」
イルナスが颯爽と身を翻してその場を去る。
「あっ、じゃ、我々も行こうかな」
「そ、そうしよう」
バルマンテ皇子とリアム皇子が空気を読んで、退出する。
「……」
・・・
「……くそぉ」
「くそっ……くそ……くそぉ……」
「糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞おおおおおおおおおえええええええええええっ! うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
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