転覆の時(後)
◇
パトリックが引き止めるように腕をつかんできた。
「ウォルター、冷静に考えてみてください。
敵の目的は我々の
理屈はわかっても、巫女の敵と取引すること自体、我慢ならなかった。それにパトリックのあやしい様子が、別の目的があるのではないかと勘ぐらせた。
「……無理です。問題が大きすぎます。巫女がこの国を『転覆』させたのは、よほどの理由があったからです。それがわからない以上できません。そもそも、何で僕にできると思ったんですか。
「一時的でもかまいません」
「そのことに何の意味があるんですか」
やはり何か隠している。そこまでして言いたくないのか。
それに様子がおかしい。いつものパトリックじゃない。どこか『
「わかりました。全てお話しいたします。実は、昨日コートニーをここへ連れて来て、『
『転覆の魔法』の効果を持続させているのが、この『
昨日そんなことをしてたのか。コートニーからは何も聞いていない。しばらくためらった後、パトリックが重い口を開いた。
「最後の一つ――それは、巫女が『転覆の魔法』を解除する
話の流れからすれば、自分なのだろう。想像はついたけど、もちろん身におぼえがない。また記憶にない話をされるのだろうか。
「僕ってことですか?」
「はい。トリックスターという名が
「ありえません。僕は最近この世界へ来たばかりです。巫女にだって会ったことない。それに、そんな話はコートニーから聞かされていません」
「それはそうでしょう。私が口止めしましたから」
「どうしてそんなことをするんですか」
「敵との戦いに集中してもらいたかっただけです。深い意味はありません」
言いわけにしか聞こえない。裏切られた気持ちになり、不信感をあらわにした。
「私も始めは信じられませんでした。ですから、あなたの言葉が真実であると証明するためにも、今から〈
悪くはない提案だと思った。自分でも確かめたい気持ちがある。ただ、罠にかけてくることも考えられるから、用心しなければ。
「わかりました。ただ、
「承知しています」
パトリックは考え込んだ。僕を納得させるだけの
「もしあなたが、この国にかけられた『転覆の魔法』の解除権限を持っていたら、それを
「……望むところです」
記憶を失っていた時期などない。一、二ヶ月前、初めてこの世界にやってきた。自分であるはずがない。強い確信があった。
そんな意思とは
我に返った時には、宝珠に向けて手をかざしていた。そして、それが
「そんな……、どうして……」
まもなく、強烈な光が爆発的に広がった。身がまえるほどのそれが静まると、今度はどこからともなく
鎮座の間を飛びだして、窓から空を見上げた。
しかし、地中の
こう思わずにはいられなかった。大地の『転覆』が始まった――と。
◆
大地の『転覆』が始まった時、トランスポーターはレイヴン城にほど近い
異変に気づくと、まぶたを開けて周囲を見回した。
「インビジブルがやりとげたか。
長い間、手の届かなかった楽園が、ついに崩壊してしまう。自身の胸の中にだけ存在し、攻略にはげんでいた
今回の作戦
「いや、彼がやりとげたと言うべきか」
ウォルターが〈
さらに、能力の貸し借りを行っている関係上、二つの能力を同時に発動することはできない。発動中は〈
彼は
彼にとっての
気を入れ直したトランスポーターは、レイヴン城の城壁ごしに、力強いまなざしで〈止り木〉を見上げた。そして、まだ見ぬ巫女へ語りかけるようにつぶやいた。
「さあ、姿を見せろ、『転覆の巫女』。お前の国が――お前の築き上げた国が、悲鳴を上げているぞ」
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