ゴーレムの襲撃(中)

     ◆


 ネイサンは自身と同等の大きさまで成長させた『氷柱つらら』を、せまり来るゴーレムの頭部目がけて放った。


 『氷柱』は重量がある分、スピードが遅く、直線的な動きしかできない。通常、動く相手をねらうのはきわめて困難だ。それを風の魔法であやつるというはなわざをやってのけるのも、ジェネラルをおいて他にない。


 ただし、ゴーレムには攻撃をよける概念がいねんがない。攻撃を恐れる感情がないとも言える。


 一本いっぽん調子ぢょうしな動きが幸いし、ネイサンのねらい通り、『氷柱』が頭部にクリーンヒットした。だが、敵は衝撃で上体じょうたいをのけらせたが、体が欠けることも、ヒビが入ることもなかった。


「よし、全くなし! いや、ちょっと傷がついたか?」


「チーフ! さっさと逃げましょう!」


 ゴーレムが進撃を再開し、二人は先ほどまでいた路地ろじに逃げ込んだ。間近までせまっていたため、ゴーレムは追跡をやめなかった。


全盛期ぜんせいきなら一瞬でこおらせられたのに!」


「昔話はいいですから! チーフ、こっちです!」


 スコットがさらに細い路地へ折れたが、タイミングをのがしたネイサンは、そのまま直進した。


 走るスピード自体はネイサンが速い。しかし、ゴーレムは疲れ知らずで差がつまり始めた。背中に重圧じゅうあつを感じながら、ぐるりと回って元の通りへ向かった。


 スコットは先に路地をぬけ、元の通りに出た。そして、遠くで上がった声を天にも昇る気持ちで聞いた。


「ジェネラルが戻って来たぞー!」


「ジェネラルだ」


「ジェネラルが帰ってきた」


 口々に言う魔導士たちの視線を追う。馬をったジェネラルが、さっそうと馬上ばじょうから飛び下りると、スコットが急いでかけ寄った。


「ジェネラル! 大変……あー、もう来てる!」


 振り向いたスコットの視界に、ネイサンと巨体きょたいをゆらすゴーレムが飛び込む。ジェネラルに目を戻すと、顔色一つ変えずに攻撃態勢に入っていた。


「ジェネラル! 後ろのアレをどうにかしてくれ!」


「ネイサン、脇にそれろ!」


 その言葉を合図に、またたく間に形成された『氷柱』が、『突風とっぷう』でブーストをかけられ、ゴーレム目がけて猛然もうぜんと突き進んだ。


 『ゴン』とにぶい音をかなでたゴーレムは、二メートル近く後方にふっ飛ばされたが、倒れることなくふんばった。


 何事もなかったかのように敵が動きだすと、さすがのジェネラルもあせりをにじませたが、手を休めることなく攻撃をたたみかけた。


 手元からはい出た『水竜すいりゅう』が、荒れ狂いながらキバをむく。ところが、ゴーレムは押し返されるどころか、平然と前に進み続けた。


 ジェネラルがさらなる手を打ち、手元側から『水竜』を氷結ひょうけつさせた。


 ゴーレムはくわえ込まれるように捕まえられた――かと思いきや、振り上げた両手を勢いよく下ろし、氷の竜をたやすくたたき割った。


 ゴーレムが腹部に氷を巻きつかせたまま進み始めると、ジェネラルは顔を引きつらせて手を止めた。


「いったん退くぞ、ジェネラル!」


     ◆


 スプーとネクロはストロングホールドに来ていた。街の人間に『扮装ふんそう』して、戦闘を遠巻とおまきにながめていた。


 現状、ネクロはゴーレムの直接操作も可能だが、今回は命令を与えたのみで、どこまで魔導士と渡り合えるかの実験だった。


 ネクロが対象に与えられる命令は三つ。今回は『ストロングホールドの中心街へ行く』、『視界に入った人間を無差別むさべつに殺害』、『攻撃してきた相手へ優先的に反撃』の三つ。


 五年前の〈樹海〉で、あっけなく泥人形どろにんぎょう撃退げきたいされてから、改良に改良を重ねたのがこのゴーレムだ。しかし、依然いぜんとして欠点を多くかかえている。


 腕力わんりょくはケタ外れだが、の状態では昆虫レベルに知能が低い。目の前の段差だんさや壁を認識したり、川に落ちれば危険といったことがわかる程度。機転きてんはきかず、具体的な命令を与えなければ、辺りをうろつき回るだけだ。


 さらに、〈闇の力〉をエネルギー源とするするため、補充ほじゅうを行わなければ活動時間に限界がある。泥人形も同様の問題をかかえていたが、重量が数十倍にふくらんだ分、効率に雲泥うんでいの差があった。


 泥人形は同量のエネルギーで一年近く動き続けたが、ゴーレムは長くて一週間。激しい活動を続けると最短三日でエネルギー切れを起こした。


 とはいえ、ジェネラルの攻撃をはねのけ、ここまでの戦いぶりは満足のいくものだった。シビアな評価をくだしがちなスプーも、ついほおをゆるませた。


     ◆


 ジェネラルら主要メンバーは、交差点の角にある建物へ集まり、立て直しをはかることにした。そこの屋上からは二つの大通りを見渡せた。


「ネイサン、五年前に現れたのとくらべてどうだ?」


 ジェネラルが話を切りだした。


「見ちがえるほど頑固者がんこものになったよ。あの時のは『電撃でんげき』で失神したり、人間くささがあって、かわいげがあったな」


「あれを物理的に破壊するのは難しそうですね」


「おとなしくしてくれたら、できないことはないんだけどな」


 メンバーが口々に意見を述べると、スコットもこう参加した。


「氷づけにするのはどうですか?」


「破壊する時に、氷をとかさないといけないだろ」


「ああ、そうですね」


 ネイサンが言下げんかに否定すると、スコットはバツが悪そうに答えた。


「火と雷の魔法は通じない。有望ゆうぼうなのは氷の魔法くらいか……」


 そう言ったジェネラルが、眼下がんかをうろつくゴーレムに目を移した。それに釣られたメンバーの一人が、「あっ……」と声を上げ、全員がそちらを見た。


 御者ぎょしゃの逃げだした馬車が、転倒したまま路上ろじょうに放置されていた。それにつながれた二頭の馬は、おびえた様子で暴れていたが、馬車と手綱たづながからまり、身動きがとれない状態だ。


 その近くをゴーレムが通りかかった。


「ああ、絶体絶命のピンチ」


 ハラハラと見守るスコットがつぶやいた。ところが、ゴーレムはみじんも馬に興味をしめさず、脇を素通すどおりした。


「ん、馬はねらわないのか」


「人間が大好きなんでしょうね」


「あっ……、だったら水はどうですか?」


 スコットが何かをひらめいたように言った。


水浴みずあびさせてどうするんだよ。熱をさませてもらえて向こうも大喜びだろ」


「いや、水の魔法じゃなくて、あいつ絶対に水にしずむと思うんですよ」


「ああ、そうか」


 ジェネラルがハッとした様子を見せた。


「川に流すってことか?」


「この辺りの川は、あいつが沈むほど深さがないぞ」


「でも、ここから海まで連れて行くのは気が遠くなりますね」


「中央庁舎の貯水槽ちょすいそうはどうですか? あいつを落とせるぐらいの大きさがありますよね?」


 メンバーの意見にジェネラルがうなずいた。他のメンバーも「そうだな」と相次あいついで賛同した。


「底のほうは結構広いから、そこで生活してもらうか」


「あとは、どうやってあいつをそこまで連れていくかですね」


「氷づけにするなり、何とか足止めして、馬で引くのはどうだ?」


「それで行こう。足止め役の魔導士と馬を、できるだけかき集めるぞ」


 ジェネラルの号令ごうれいでメンバーが動きだした。


「ちょっと待ってくれ」


 けれど、ネイサンがそれを引き止めた。


「今はあの堅物かたぶつに集中すべきだが、あやつっているやつがいることを頭に入れておいてくれ。悪趣味あくしゅみな連中だから、この状況を近くでながめながら、きっとほくそ笑んでいるはずさ」

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