敵陣突入(前)

     ◇


 作戦会議を前に、三人の男女が部屋に入ってきた。


 前を歩く二人のうち、女性のほうは知っていた。何度か顔を合わせている侵入者対策室のニコラだ。そして、二人の後ろを歩いていたのはヒューゴだった。


「何だ、お前も来たのか」


 聞けば、パーティーがあった日のすぐ後から、デリック・ソーンの捜索に加わるため、こっちへ来ていたらしい。そういえば、カーニバルの時も対抗戦の時も、全く見かけなかった。


「別の〈侵入者〉がレイヴンズヒルに現れたそうじゃないか。もしかして、やつらに会うには、お前と一緒にいたほうが近道ちかみちなのか?」


     ◇


 主要メンバーが顔をそろえ、作戦会議が始まった。


「南側の斜面しゃめんはゆるやかでのぼりやすいですが、見通みとおしが良いため、おかの上から狙撃そげきされ、格好の餌食えじきにされます。おのずと東と西から攻めることになりますが、どちらも道がけわしくて、敵が守りやすい地形です。そのため、中腹ちゅうふく膠着こうちゃく状態におちいってしまいます」


 敵は地形を最大限に活用し、周到しゅうとうに準備を重ねた様子がうかがえる。


「敵の補給はどうなってるの? 基本的に丘の上にこもっているんでしょ?」


「先刻申した通り、敵は神出しんしゅつ鬼没きぼつで、様々な場所を襲撃しては略奪りゃくだつを働いています」


 〈転送〉トランスポートの能力に相当手を焼かされているようだ。ただ、あそこで籠城ろうじょうを続ける理由はなんだろう。能力があれば、いつでも逃げられそうなものだけど。


「みなさん。私の助手のほうから、作戦について提案がございます」


 パトリックが切りだすと、ロイが前に進み出た。


僭越せんえつながら申し上げます。作戦というほど大げさなものではありません。みなさんが今まで通り戦っている間に、ここにいるウォルターが、敵の本陣たる屋敷へ単身たんしん奇襲きしゅうをしかけるというものです」


「……単身で?」


 隊長のジャックだけでなく、一同があ然とした。……単身なの?


「すいません。カッコつけて単身と言いましたが、一人でなくてもかまいません。ただ、連れて行けるのはせいぜい二人ぐらいでしょう」


「しかし、少人数だからといって、敵の防衛線をたやすくかいくぐれるのか? 北側のがけをのぼるわけじゃないだろ?」


くわしくは話せませんが安心してください。ウォルターはそれができる男です」


「私がウォルターと一緒に行くわ」


「それなら俺も行く」


 クレアとヒューゴが手を上げた。何をしようとしているのか、想像がついたのだろう。自分的にも二人とならやりやすい。


「我々はこれまで通り戦うだけでいいのか?」


「はい。ただ、できるだけ深追ふかおいはさけ、屋敷から敵を引き離すような戦い方を心がけてください」


「敵のはさみ撃ちにあったらどうする?」


「それにも対策があります。ウォルターたちが能力者の行動を制限するのを期待していますが、敵の奇襲にあってもいいように、二段にだんがまえの対策があります。

 奇襲を行う場合、能力者は仲間の回収のため、必ずこちらへ姿を現すはずです。油断しているそこを、能力を見やぶれる学長がくちょうたちがたたきます。これで伏兵ふくへいは丘の上に戻れなくなり、敵の混乱を招けます。いざとなったら、ウォルターを呼び戻すオプションもあります」


「……屋敷へ突入した彼を呼び戻すのか?」


「大丈夫です。ウォルターはそれができる男です」


 いっせいに視線を注がれたので、自信満々とうなずいた。説得力ゼロだけどできる。スージーに『交信』で伝えてもらえば、すぐにだってとんぼ返りが可能だ。


 もはや、自分の能力は隠してもしょうがない段階に来ている。けれど、面倒に巻き込まないためにも、他の三人の能力はなるべく秘密にしておきたい。


 パトリックと一緒に女を待ちかまえるのは、侵入者対策室の二人――ニコラとケントに決まった。


 すぐにでも部隊を動かせるということで、本日決行となった。僕らの存在が知られれば、対策を立てられかねない。善は急げだ。


     ◇


 今夜の作戦にそなえ、部屋のすみっこで英気えいきをやしなう。足がふるえる。これが武者むしゃぶるいか。なんて、考えていられるうちは、まだ余裕があるか。


 まだ三段さんだんちとかしていた時代のものとはいえ、銃であることに変わりない。しかも、〈悪戯〉トリックスターでは銃弾じゅうだんに対応するのは難しい。


 無重力状態で『突風とっぷう』を起こせば、銃弾をはね返せるかもしれない。けれど、どう考えても反射神経の限界をこえている。どこから飛んでくるかもわからないし。


 ふと顔を上げると、部屋にコートニーの姿があり、パトリックと一緒に隊長のジャックと話し込んでいた。


「彼女はコートニーです。アカデミーの研究員をしております」


素敵すてきな女性ですね。学長のお助手さんですか? それとも、婚約者ですか?」


 なごやかなムードで、緊張感のない会話をしている。その後、二人は部屋にいる一人一人にあいさつをして回った。その都度つど、相手と握手をかわすのを見て、意図に気づいた。


 二人が部屋を出て行ったので、後を追いかけた。


「どうだったんですか?」


「能力を持った人も、能力をかけられた人も、ついでにゾンビもいなかったわ」


「能力なしでも内通ないつうはできますが、能力者はまぎれ込んでいないようです」


     ◇


 夕闇ゆうやみの中、ついに戦端せんたんが開かれた。そこかしこで銃声じゅうせいがひびき始める。くぐもった音で、現代のものよりは迫力はくりょくがないとはいえ、それは体を突きぬけていくようだった。


 敵の本拠ほんきょたる丘のほうへ目をこらす。時おり炎や電光でんこうがまたたいた。屋敷への突入は三十分後。今は辛抱の時間だ。


『常に第三者だいさんしゃとの確認をおこたらないよう、心がけてください』


 その時を待ちながら、パトリックとの最終確認を思いだす。自分はともかく、クレアとヒューゴの二人は〈不可視インビジブル〉や『なりすまし』のわなからのがれられない。


「合い言葉でも決めておきましょうか?」


 ふいにひらめいたアイデアを、二人に持ちかけた。


原始的げんしてきだな」


「でも、名案かもね。何にしようか?」


「敵に聞かれても、あやしまれなのが良いと思う」


「敵は……」


「死んだ」


 ヒューゴが適当に言った。まあ、戦場でする分には自然な会話だけど……。


「それだとまぎらわしいから、『落ちた』とかどうですか?」


「それで行きましょ」


     ◇


 予定時刻がせまってきた。そろそろ、屋敷の防備ぼうび手薄てうすになっているはず。味方が敵を引きつけてくれている。それをにしないためにも、絶対に奇襲を成功させなければならない。


 二人と準備に取りかかる。崖の手前側に森が広がっているから、屋敷へは数百メートルの大ジャンプになる。つかんでいるだけでは心もとないので、おたがいをロープでかたく結んだ。


「みんな覚悟はいい?」


「敵のまっただ中に飛び込むんだぞ。楽しそうな顔をして言うな」


「そうです。気を引きしめていきましょう」


「二人が落ち着きすぎなのよ。むしろ、私が一番闘志を燃やしていると思うけど?」


 言われてみると、自分でもおどろくぐらい冷静だ。最近は修羅場しゅらば続きで耐性たいせいがついたのかもしれない。

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